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Green Raccoon

今から30年以上前の話になる。
私と友人と、それぞれの彼女を連れて、4人で伊豆大島に旅行に行ったときの話だ。
グループ交際からカップル成立した2組なので、お互いの彼女達もまた、元からの友人である。

伊豆大島への到着時刻は15:00、飯盒などのキャンプ用品などは皆で持ち寄り、食材は現地で調達して夜はバーべキューという計画であった。
フェリーの上でワイワイと、買い出しのリストなどを作るなどしながら楽しく船での時間を過ごした。

希望の船 エスポワール

15:00 予定通り島に着くと。今まで一緒に船に乗っていた人たちはどこへ消えたのか、ほとんど人がいなくなった。後でわかったことだがこの時間に船に到着する人達に観光の人は少なく、ほとんどが島の住人で、皆迎えの車などが待っていて、さっといなくなっていったようだ。
「なんだか寂しい感じだな、、、」
我々はこの時にはまだ理由のわからない若干の不安を感じながらも食材を調達しに店に向かうことにした。

一件目、二件目、、三件目、、、、、、、やばい、店全部閉まってる!
犬の散歩に歩いていた住人に聞くと、このあたりのお店は大体15:00くらいにはみな閉まるそうだ。 マジかよ!
食べ物の何もない状態でこのまま夜を迎えるわけにはいかず、島民の方が買い物をする店を教えてもらった。ちょっと遠いが行くしかない。

30分ぐらい歩いただろうか、、、店が見えてきた。閉まってる
遠くから見ても判るくらい閉まってる。あの人ここの店も閉まってること判ってて教えたのかなぁ、、、、
だったらひどいなぁ、、、
今頃笑ってるのかな、、、
そんなことどうでもいいや、食い物をくれ。
結局どこにも食べ物を売っている店が無く、我々は無食材のままキャンプ場へと向かった。

キャンプ場に着き、まず我々のやったことは、釣り道具探し。
魚を釣ってそれを食べようとしたのだ。
釣り針と釣り糸はすぐに見つかった。餌がないのでフナ虫を捕まえて餌にした。
友人Oにフナ虫での釣りを任せ、私は釣り道具探しを続けた。
拾った針と糸にフナ虫の餌に、重りもそこらへんに落ちている石を縛り付けただけの仕掛けではなかなか獲物を捕らえることは出来ず、1時間くらい経過したことだろうか、私はサビキの仕掛けを見つけた。複数の針にビニールの疑似餌がついていて、コマセと呼ばれる小さな撒き餌でおびき寄せた魚を釣りあげる仕掛けのことだ。これならいけるかもしれない。

一縷の望み

まずは餌集めだ、釣り場にはカピカピに干からびたコマセがそこかしこに散らばっているのだ。20分ほどでまぁまぁの量のコマセを集めることが出来た。が、、、もう日が沈みかけてきていた。
暗くなると一気に心細くなる。

心も沈む 日が沈む

不安な気持ちの中、餌をばら蒔き、釣り糸を垂らすと、、

ヒット!!!すぐに食いついた。いい引きだ!テンションあがる!

釣れた!!サビキで釣れる魚にしてはまぁまぁ大きい!
なんだこりゃぁ  見たことない  初めて釣った魚だ 

気持ち悪るぅ

今日の晩ごはん

1匹目はすぐに釣れたが、その後ペースは上がらず、結果2時間で6匹という釣果であった。6匹全部コイツ。
あとで調べたが、ツマグロハタンポという夜行性の魚だったようだ。
当時はスマホなどなく、名前も食べれるかどうかも分からないままコイツを4人で分けて食べるのだ。
気持ち悪いなぁとは思いつつも、腹が減っているのでコイツを捌く。

うげぇ なんだこりゃ。 なんか浮袋が変だ。奇形か??
残り5匹も全部開いたが全部同じだ、食べて大丈夫なのかなぁ・・
浮袋を無理やり取り除いたら食べるところはわりと少ないことが分かった。
グロいな、、この状態は女子達には見せずに焼いてしまおう。


焼いてしまうと美味しそうに仕上がった。ちょっと味見してみたところ結構美味い。たんぱくな白身の魚だ。
魚しかないので盛り付けもなにもやりようがないが、なんとかこれでテンションを上げていこう。

友人Oも、私の彼女Yも同じ気持ちでいてくれたようで一緒に盛り上げてくれた。
「美味しいね!」
「やっぱ自分達で釣った魚はうまいね!」


だが、友人の彼女Kは体育すわりでうつむいたままだ、、、
味はなかなかに良いので食べてくれれば少しは機嫌が良くなるかと思い、皆で薦めてみたが逆効果
「私はいい!なにか飲み物買ってくる。自販機ぐらいあるでしょ」
と、どこかへ行ってしまった。
友人Oに追いかけなくていいのかと声をかけるも、すぐ帰ってくるだろうから行かなくていいと、、

20分ほどたちさすがに心配になり、探しに行こうとしていたところKが帰ってきた。

手にお湯の入った『緑のたぬき』とお箸を持って。
無表情のまま帰ってきた。

ごちそうがあらわれた

「どうしたの?それ」
「向こうのほうでキャンプしてる人に売ってもらった。100円で」

「へぇ。。。」
Kは『緑のたぬき』を無言で食べ始めたので、我々もKのために残しておいた分のツマグロハタンポを3人で分け食べ始めた。

元々食べるところの少ないツマグロハタンポ 1匹ちょいを3人で分けたのであっという間に無くなってしまった。
その時はいろんな感情でもう何を食べているのかわからないような、灰を食べているような気持ちだった。
きっと3人とも同じ気持ちだったろう。

そんなときKが口を開いた。

「たべる?」

OもYもすくに答えた

O「俺はいいや」
Y「私もいらない、もう結構おなかいっぱい」

そんなわけないだろ!とは思いつつも私も答えてしまった。
「俺もいいや、、、、」

K「そっか」
彼女は2つ目の『緑のたぬき』を背中から取り出し、カセットコンロでお湯を沸かし始めた。