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園長に聞いてみた①「こども誰でも通園制度」試行的事業、実際の利用状況は?

子育て支援企業「ここるく」のコーホーです。2024年4月から「こども誰でも通園制度」試行的事業がスタートしました。今回は、試行的事業を行っている栃木県栃木市の「認定こども園さくら」の堀昌浩園長をお迎えしての「園長に聞いてみた」シリーズ1回目です。

実施園として制度をどう捉え、どう運営しているのか?など、少し踏み込んだ具体的なお話しを聞いてみました。特に保育施設を運営している皆さん・保育に携わっている皆さんにご参考にしていただきたい内容です。

※2024年5月14日に行ったここるく創立10周年記念シンポジウム【こどもまんなか時代の子育て】の内容を文字起こし・補足・編集しています。(聞き手:株式会社ここるく代表 山下真実)
※本記事の会話文内では「こども誰でも通園制度」を「誰通」と省略して記載します。

※【こども誰でも通園制度の実際の利用状況は?】についての内容は動画の14:05からご覧いただけます。


栃木県栃木市「認定こども園さくら」と堀昌浩園長のご紹介


認定こども園さくら 堀昌浩園長

社会福祉法人鐘の鳴る丘友の会「認定こども園さくら」は、300人規模の大型認可こども園で、乳幼児に特化した「さくら第2保育園」を併設。こどもの主体性を伸ばすプロジェクト型保育をいち早く実践し、こどもも大人と同じ一人の人間として地域の関わりの中で共に育つ意識を大切にされています。「こども誰でも通園制度」は、2023年6月のモデル事業から実施しており、2024年6月末の時点で延べ利用人数が570人に上ります。堀園長は、保育園・認定こども園・幼稚園の枠を越えた新しい乳幼児教育の普及のため「一般社団法人ラーニングジャーニー」を立上げ、代表理事としても活躍されています。

利用者同士のコミュニティ意識の芽生え。枠の譲り合いも?!

山下:2023年6月からのモデル事業から2024年4月の試行的事業と「こども誰でも通園制度」のフェーズが移りました。試行的事業の開始から少し経ちましたが、実際の利用状況はどんな感じですか?

堀:うちの場合はモデル事業からの継続なので、2年目に突入したことになります。誰通の利用者さんには、SNSも使いながら「こどもはこども社会で育つ、お子さんたちにこども社会を体験させてみませんか?」という呼びかけをできるだけ強くしているんですね。そうすると、例えば〇月〇日に初めて利用したい人がいるんだけどその日はもう空いていなかった時に、園側からLINEで「〇月〇日ちょっと空けられないですか?」と投げかけると、「はいはいはい」って手が上がって利用者間で融通が効いたりするんですよ。

山下:お互いに顔も名前も知らない関係性かもしれないのに、「使いたい人がいるならうちの子はまた次でいいかなー」と緊急性のある人に席を譲られるということですよね?それって何かコミュニティ意識のようなものが生まれているということなんでしょうか?

堀 :そうなんです。モデル事業は全国50施設で実施されていたんですが、こども家庭庁さんからも「異例だ」と言われたくらいなので他の園とは少し違う状況かもしれないですけど。園や利用者同士それぞれの間の雰囲気がうまく作れているんじゃないかなと。コミュニティ意識というか、(「こどもはこども社会で育つ」というメッセージによって)僕たちにはなかなか分からない新たなお母さんたちの絆みたいなものが生まれてきてるように感じます。


ここるく子育てシンポジウムより

4月は在園児によるこども社会の構築を優先

堀:4月は新入園の子もいますし、進級で部屋が変わるという大人の都合みたいな儀式もあるんですね(笑) まずは在園しているこどもたちが新しい環境に慣れるまでの時間が必要です。2024年4月から試行的事業は始まっているんですが、実はうちの園では「4月23日までは誰通の利用をちょっとご遠慮してもらっていいですか?」って呼びかけをしていました。病院などで緊急の利用は別ですが。うちの園は300名という大規模園でその隣にさらに0歳1歳だけの園もあって、合計で360名くらい居ます。「こども社会」というのはこの既存の園児(在園児)さんたちが構築しているものです。その「こども社会」を誰通のこどもにどういう風にシェアしていこうかと、園の保育者たちともしっかり連携して話し合いをしています。僕も失敗したりしつつ、ようやく去年の試行錯誤の成果と言えるものが見えてきました。

誰通のこどもを定員の5%に留めれば、こどもは自然と「こども社会」に溶け込んでいく

堀:例えば定員20人のクラスのうちの5人、つまり1/4=25%が誰通のこどもだったとすると、1人が泣き始めるともう全員が泣くんですよ。新しい環境への連鎖反応というか、ちょっとおっかなびっくりみたいなところが出てしまうんでしょうね。これを大体5%にする、つまり20人のうちの1人もしくは2人ぐらいが誰通のこどもだとすると、もうしっかり彼らは「こども社会」の中に入っていくので、もうどの子が誰通なのか分からないような状況で、保育者も負担感なく受け入れているような状態なんです。これエビデンスがあるわけではないんですけれども。

山下:堀先生はすごく謙遜して「エビデンスはない」とおっしゃいましたけど、1年継続してそういった感覚をお持ちなのだとすると、もうこれはエビデンスになりますよね。こどもの定員の5%ぐらいであれば誰通で新しいこどもが入ってきても「こども社会」は保たれるんですね。

堀:大規模園ならではのスケールメリットでもあります。ある程度こどもが社会化した生活を始めたよっていうタイミングで誰通の受け入れを始めたら、誰通のこどもでも給食一緒に食べているし、一緒に遊んでいる。誰通のこどもが初めて来た時は靴の履き替えをお母さんにやってもらっていたのに、帰りは自分で靴箱から靴を出してきて自分で一生懸命履こうとしている。そうするとお母さんが「右左逆よ」ってこうやって入れ替えようとしちゃったりするんですけど、保育者は「もうちょっと見ていてあげましょうね、このくらい時間に余裕があるといいですよね」って声かけをする。そんな感じで、誰通のこどもの生活が始まっていくんですね。


ここるく子育てシンポジウムより

こどもが生まれながらに持っている「共に生きる力」を最大限に引き出す

堀:既存の保育認定を受けて入っているこどもからすると、誰通のこどもは新しい風が入ってきたような感じ。誰通のこどもにとっては「未知との遭遇」でしょうか。先ほど大豆生田先生(※)も言っていましたけれど、人ってやっぱり「共に生きる」ことを選択をした動物だから、共に生きられる力を常に持っているんですよ。

※ここるくの子育てシンポジウムの第一部に登壇した、玉川大学教育学部乳幼児教育学科教授の大豆生田 啓友先生。第一部のYouTube動画はこちら

山下:なるほど。1年先んじてやってきたからこそ、今の時点でそういう状況が見られているということですね。

支援する側が偉くて、支援される側がお願いする形を排除して、利用のハードルを下げる

堀:そうですね。利用するためのシステムも、利用者に自園のLINEに登録をしてもらって、こちらからLINEで返して、ICTや予約システムを活用して、利用者が自分で予約ができるようにと。できるだけこちらが関与せずに、自分がやりたいところを自分で決めていくことで、利用のハードルを下げたかったんです。申請書類をいちいち書かなければいけないような負担は減らさなければいけない。「子育て支援」って言うと、どうしても支援する側が偉くて、支援される側がお願いをしに行くという図式になってしまうんですよね。そこら辺を極力排除できるところまで排除した方がいいと思っています。

事前問合せ対応は外注して、保育者の負担を軽減

堀:ただ保育者と話していると、LINEで誰通を利用したい人からのファーストコンタクトに返すところがものすごく精神的負担が高いみたいなんですよ。保育をするために保育者として園にいるのに、何か別のことをしなくてはいけないと。

山下:普段接している保護者さんだと顔が見える関係性があるから良いのでしょうけれど、大人同士のサービス的な会話に負担感を感じる保育者さんは多い印象がありますね。

堀:うちの場合は、保育室のこどもたちに合う環境づくりは保育者が一番知っているわけだから、園長の僕の許可は要りませんと言って、色々な裁量権を渡しています。物を買うにしても、こういうのを買いました、こういうものが届きますという報告だけが僕のところに来るだけ。ところが誰通が始まってから、利用者とのLINEのやり取りのことで「こういう返信をしようと思いますがいいでしょうか?」みたいな内容がグワーーーッと僕のところに押し寄せたんです。もう裁量権は渡しているので僕は「いいよ、いいよ」って返事をするんですが、結果的には望んでいなかった返事を受け取ってしまった保護者さんもいたようで。。。なかなかうまくいかないことも経験して、山下さんにも相談をして、保育者の負担軽減と僕への依頼を減らす工夫をしたら、本当にことごとくそういう問題が無くなりました。

山下:堀先生から誰通の利用受け入れに関する作業をできるだけ保育者の負担にしないようにとご相談いただいたので、今、さくらさんの誰通利用前の問合せ窓口をLINE上に作って、ここるくが運営させていただいているんですね。お役に立てて何よりです。

「こども社会」がうまく回れば、保育園側の負担はそれほど高くならないのではないか

堀:色んなところから誰通の取材を受けるんですけど、ことごとく保育園側の負担が高い高いっていう話になってしまっていてね。

山下:そうですね。メディアに今出ている情報や報道を見ると、否定的なものが多いですよね。

堀:うちの保育者と話していると、今はあまりそういった否定的な話しはないんですよね。保育者たちともよくよく誰通の話しをしますけれども、こどもたちが「こども社会」で共に生きる力を最大限に発揮している様子を見ていると、当初想像していたよりも今年度になってからの誰通はずっとスムーズに回っている気がします。

【園長に聞いてみた①】はここまでです。既に「こども誰でも通園制度」の実施が始まっている園、またこれから始まる園の皆さんには実際の実施へのご参考にしていただける内容だったのではないでしょうか?

次回は、シリーズ②【「誰でも通園」は「いつでも通園」ではない?】をお届けします。ぜひ合わせてご覧ください。