子育て支援ベンチャーが考える「10年後のこども・子育て環境」
こんにちは、ここるくのやましたです。私たち株式会社ここるくは、民間サービスとして子育てニーズに寄り添った支援を実現すべく2013年12月に誕生しました。あと少しで10周年イヤーを終えようとしていますが、10年という長きにわたって子育て支援に特化したベンチャーが存続できたのは、私たちの想いに共感して一緒に実現してきてくれたスタッフ、お客様、提携企業様、保育・乳幼児教育関係者などの皆様のお力添えによるものであり、改めて感謝の念に堪えません。
その感謝の気持ちを込めて、そしてこの節目を私たちの歴史にしっかりと刻むために、2024年5月14日には10年間で出会えた皆さんと共に「創立10周年記念子育てシンポジウム」を開催しました。
このnote記事ではシンポジウムで共有された気づきと私なりの想いを込めて、「10年後のこども・子育て環境」について考えてみたいと思います。
こどもまんなか社会の実現に向けた「こどもまんなかチャート」
シンポジウム第一部は「昭和・平成・令和の子育て」と題し、女性の就業率や出生数のデータと共に子育て史100年を振り返りながら、玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友先生、Z世代から上智大学3年生の野尻彩菜さん、「こども誰でも通園制度」試行的事業実施園である認定こども園さくらの堀昌浩園長をゲストに迎えて、こどもまんなか時代の子育てについて議論しました。シンポジウムの内容は、ここるくYouTubeチャンネルでも公開していますので、ぜひご覧ください。
シンポジウムの中で何度となく触れられた「こどもまんなかチャート」。こどもの育ちの未来を考えるにあたっては、チャートの中心部に描かれている「こども」「保護者」「こどもと直接接する人(保育者など)」をどうするかではなく(もちろんここが重要であることは言うまでもないのですが)、その外側の部分、つまりこどもとの関係性は間接的であるものの、こどもが育つ環境において大きな役割を担う要素(地域社会の担い手、企業、行政など)が変革のカギを握ります。
子育て支援企業として感じる同心円の広がり
私がここるくを立ち上げたばかりの頃は、子育て支援の担い手といえば行政や地域の支援団体がほとんどで、民間企業がサービスとして展開することはあまり想定されていませんでした。それが今では、子育て支援がビジネスとして当たり前のように認知されるようになりました。また当時は、子育てを経験した人が自らの課題意識から支援事業を立ち上げるケースが圧倒的に多かったのですが、今ではこの業界に入る人たちの年齢層や背景にも広がりが出てきており、上図「こどもまんなかチャート」の同心円のような広がりをこの10年で実感しています。
社外取締役として感じる企業の変化
その中でも特に私が注目しているのが企業の役割です。私自身、6年程前から社外取締役という立場で大企業の経営にも参画してきており、大企業の視点からも社会を見つめてきました。2018年に私が初めてプライム企業(当時の東証一部上場企業)の社外取締役になった頃は、子育て支援と企業経営の視点にはあまり交わるところがなかったのが正直なところです。もちろん少子高齢化や労働力人口の減少により、若い世代がこどもを産み育てながら活きいきと働き続けられる環境が重要であるというコンセンサスは得られていたと思いますが、それらは女性活躍推進やダイバシティ―推進の文脈で語られることが常であり、こども・子育ての視点から議論されることは非常に稀であったと認識しています。
しかし近年では、ESG経営やSDGsを念頭においた経営が求められるようになり、今や企業は経済的価値(お金)を生み出すだけではなく、その事業活動の過程で社会にポジティブなインパクトを生み出すことが期待されるようになってきました。社会へのポジティブなインパクトと聞くと、環境や気候変動への影響がイメージしやすいかもしれませんが、実は「こどもへのインパクト」に着目する動きも日本国内で活発化しつつあります。
日本総研「子どもESGレポート」
その一つに日本総研が今年4月に公表した「子どもESGレポート~子どもコミッションイニシアティブ構想~」というレポートがあります。詳細については是非レポートをお読みいただくとして、ここでは何故このようなレポートが発信されたかについてごく簡単にかいつまんでご紹介します。
2023年4月に「こども基本法」が施行され、わが国で初めてこどもの権利を明記した基本法が誕生しました。同時に、こどもに関する政策立案に際して、当事者であるこどもの意見を取り入れ、こどもまんなかの政策実現の中核を担うために「こども家庭庁」が発足。この2つはとても大きな変化であり、歴史的にも重要な意味を持つものと感じています。一方で、こどもやこどもの権利を尊重することで社会にポジティブなインパクトが生まれるはずだという認識が広く一般的にあるかというと、少なくとも現時点では、そうとは言えません。そこで、こちらのレポートでは、企業のどのような行動がこどもの育ちの環境に(ポジティブ・ネガティブ両面において)インパクトを与えるのかを捉えるために、まずはその第一歩として現時点での企業の取組み状況を調査してまとめています。レポートの最後では、今後の活動の目線として、下記のような項目が挙げられています。
※11/15追記:2024年10月17日には第二弾として「子どもESGレポート2024」が発表されました。デジタル社会の現代において、企業と子どもの距離が近くなっていることにも新たに着目されています。
こども=ステークホルダーと位置付ける企業経営
私としては、10年後の2034年の社会では企業がこどもをステークホルダーと捉えて事業活動を行う世の中になることを大いに期待しています。ステークホルダーとは、企業にとっての利害関係者のことで、株主、従業員、顧客、取引先、地域社会(住民)など、「その人たちからの理解や協力が得られなければ事業を続けられない存在」のことです。
これまで企業にとってのこどもという存在は、例えば「従業員のこども」であったり、業界によっては「顧客(消費者)」として捉えられてきたかもしれません。しかしステークホルダーという表現は、そういった捉え方にとどまらないことを意味します。
こどもをステークホルダーに組み込んだ経営においては、例えば「このサービスを提供することで、こどもたちにどのような影響があるだろうか?」といった視点を持ってビジネス上の決断をする必要性が高まります。こどもたちがどう捉えるか、こどもたちの健康や発達にどのような影響があるか、こどもたちが暮らす未来への影響は・・・などなど、企業がそのビジネスによって得ようとするものと、こどもの利害が衝突する部分がないか、衝突する場合にはどのような対応を取るべきかを考える必要が出てきます。
こういった視点を無視して「売れるから売る」というスタンスが完全に否定されるものとは考えていませんが、ESGやSDGsが今となってはそうであるように、こどもを尊重する視点が企業にとって無視できないトピックになる可能性は十分にあると思います。
こどもを尊重することが持続可能な企業・社会を作る
企業が持続可能性を考えるとき、現在の行動が将来どのような影響となって返ってくるのか、その繋がりを意識することが求められます。こども世代を尊重した経営とは、長期的な未来を見据えて経営することと本質的に同義であり、これこそが持続可能な経営の本来あるべき姿なのではないでしょうか?
今はまだ一般的な考え方ではなかったとしても、今後更なる調査や意識改革が進む中でいずれは社会全体でのコンセンサスが得られるようになるのではないでしょうか。私はそんな未来を10年後には見ていたい、そう思っています。
最後に
この10年間、子育て環境づくりを生業とする中で、親子の関係性こそが子育て環境の最小単位(=ミクロの子育て環境)であると考え、ミクロの環境を充実させる取組みとして託児付きランチサービスや乳幼児教育事業を展開して参りました。また、コンサルティング事業では、様々な企業の子育て環境づくりや街づくりなどをご支援させていただき、より広範な子育て環境づくりを担って参りました。これはまさに先述の「こどもまんなかチャート」の同心円の考え方と同じであり、ここるくが社会全体の子育て環境を良くする一役を担っていきたいという想いは、この先も変わるものではありません。
「こどもまんなか社会」の実現に少しでも早く近づくために、ここるくにしかできないことをさらに積み重ね、10年後にまたこのことについて振り返ってみたいと思っています。