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モスキート音で、人とつながりたい。
まだうちの娘が生まれる、数ヶ月前。
親になる前に心構えを教わる『母親父親学級』なるものに行ってきた。
妊娠体験や赤ちゃんの沐浴など、「これから親になるんだ」という意識を高めるための、まさに通過儀礼であり、あくびやゲップなどがとてもできる雰囲気ではなく、どこか厳かであった。
その講習会は母親父親学級というだけあって、子どもが初めてできた夫婦がばかりだ。年齢は20代後半から30代中ほどくらいまでであろうか。なかなか40代の夫婦は見当たらない。もともとなで肩なのに、肩身が狭い。
そんな中、我々と同じくらいの年齢のカップルを発見した。その二人について帰ってから妻と話したのだが、実は妻も気づいていたという。
しかし、ああいう場でそのカップルにあえて近づいて「おたくも40代?」と声をかけるのも失礼な気がして、なんだが気が引ける。
こんなとき、我々二組をつないでくれることは、どういうことなのだろうか。
やはり、モスキート音である。
ああいった場で、仮に我々のことを不憫に思って講師が機転を利かせマイクをモスキート音レベルの高周波に調整して話してしてくれれば、若いカップルたちは理解してるところ、その音が聞こえない40代の私たちと他の40代カップルが必然的に取り残される。
そうしたときに、もう一組のカップルが「40代なんで聞こえないんですけど!」と言ってくれたらしめたものである。
それがきっかけで、あとで「私たちも聞こえませんでしたよ」となれば、自然に会話に入っていける。
仲間ができる、というわけだ。
もちろん現実は、講習会サイドがそこまでしてくれる義理もないので、我々はただ遠まきに指をくわえてその二人を見つめているだけだ。
そして、現実にそんな講師の話に耳を傾けている私の耳にしょっちゅう聞こえてくるのは、モスキート音ではなく、長めの耳鳴りだけなのである。