19歳秋、東京-2
走るペンギン。
確かそんな意味のアカウント名だったと思う。
聞けば彼の母校は私の実家から歩いて5分。
高校のすぐ横の信じられない上り坂、街にあるナス味噌が絶品の中華屋さん。280円で食べられる豚骨ラーメン...
共通の話題がたくさんあって、大学の中には共通の知り合いもいることもわかってトントン拍子で飲みに行くことが決まった。
11月の中旬、だった気がする。
三田キャンパスの真ん中にある大銀杏の木。その下のベンチに私は座って、初めて会う彼を待っていた。
真っ黄色に染まった銀杏の葉がハラハラと舞い落ちる中、当時1番気に入っていた赤の短いダッフルコートを着て、中庭を気忙しく行き交う学生たちをぼんやりと眺めていた。
現れた彼はグレイのコートを着て、スマートな出で立ちだった。
広い肩幅に高い身長、細身の足に似合うチノパン。ハスキー犬のような切れ長の大きな目、顔のわりに小さな唇。そして穏やかな声。
私たちは連れ立って、塾生行きつけの居酒屋に足を伸ばした。地下にあるボロい居酒屋。だけど、歴代の塾生が集い、壁には慶應のフラッグや写真が所狭しと貼られている。
真ん中の長テーブルに向かい合って座って、取り止めもない話をたくさんした。
初対面なのに話が尽きなくて、お互いが心ゆくまで話したいことをずっと話していた気がする。初めて会う人のはずなのに、久しぶりに自由な感覚だった。
店を出たときはもう終電前の時間だった。
寒空の下、LINEの連絡先を交換する。
次会えるのはいつだろうか?同じ大学とはいえ、相手は四年生。単位も取り終えて、キャンパスにもなかなか来ないだろうな。そんなことを思ったのを今でも覚えている。
もしかしたらもう会わないかもな、でも今日はすごく楽しかったな。そんなことを思いながら、手を振り三田線への道をひとり、歩いて帰った。