19歳秋、東京-1
寝物語に一つ話をするね。
あれは19歳の秋、東京。
大学生だった私は、授業の後ぼんやり教室に1人残っていた。行きたいゼミの志望書をそろそろ書き上げなければならない。
三田キャンパス。南校舎。
キラキラ輝くガラス張りの校舎は、春から通い出したキャンパスの中でも1番新しいピカピカの校舎だった。
たしか毎週土曜日にあった英語の終わりで、お昼前の日差しが降り注ぐ、静かな午前の終わりがけだった気がする。
教室の後ろ側。窓際の席。
行儀悪く足を投げ出して座って、がらんとした教室の空気を独り占めしていた私は、なんとなく机の引き出しに手を突っ込んだ。
ガサリ。
あるはずのない冊子の感触。
忘れ物だろうか?誰のだろう。
少し驚きながら冊子を取り出すと、偶然にも行きたいと思っている研究所のゼミ雑誌だった。
ちょっぴり罪悪感を抱えながら、冊子をパラリとめくる。ゼミ生の紹介ページ。名前。出身地。所属サークル。最近ハマっていること。
そしてTwitterのアカウント。
私の目は1人のページに吸い寄せられた。
同じ福岡出身の人がいる。
高校はどこかしら、もしかして先輩かも。
スマホを取り出し、Twitterアプリを開く。
アカウントを検索すると、程なくして冊子に載っている彼のアカウントが出てきた。
当時はTwitter全盛期で、鍵をかけずにツイートしている学生が多かった。だから、Twitterから繋がった大学同窓の知り合いはそこそこいたし、それが楽しい時期でもあった。
とりあえずフォローして、リプライを送る。
「こんにちは、突然すみません。同じ三田キャンで福岡出身なのでフォローさせていただきました。よろしくお願いします。」
これが、彼との出会いの始まりだった。