20歳冬、東京-6
年末はお互い実家に帰省していた。
同じ県内とはいえ、お互いの実家はバスと電車を乗り継いで小一時間。夜は地元の友達との飲み会も多く、合間の時間を見つけては街を2人でそぞろ歩いていた。
年末を前になんだかソワソワしている街を横目に、ゆっくりと、どこへ行くともなく二人で手を繋いで歩く。
この街の学生でもなく、社会人でもない私たちは、どこか街の雰囲気から外れてしまっているようで、どことなく浮いたもの同士の空気を噛みしめながら、ちょっぴり斜に構えたような気持ちで、忙しなく街ゆく人を眺めていた。
彼は実家で犬を飼っていた。雑種で賢そうな顔立ちの、優しい目をした、モモという名の女の子だった。
モモの体調が良くないんだ。もう長くないかもしれない。いつものように街を歩いていたある日、彼が呟いた。
モモは彼の心の支えだった。
小学生だった彼が、誰にもいえない悲しさを抱えて帰宅した日、それを察したモモが静かに彼に寄り添ってから。
そうなんだね、そばにいられるだけいてあげないとね。そう返したくせに、彼と連日会うのをやめなかったことを、少しでもモモのそばにいてあげなよと彼の背中を押さなかったことを、今でも後悔している。
モモはその数日後、虹の橋を渡った。
一足早く帰京した私は、バイトの帰り、渋谷の空を見上げていた。
何かに吸い寄せられるように空を見上げると、109のビルの上に一番星が輝いて見えた。
星は、そう言えば瞬くんだっけ。
そんな当たり前のことを高校生ぶりに思い出して、忘れていたことに驚いた。
あれはモモの星だな。そんなことを思った。
モモ、彼にこれから何があろうとも私がそばで支えるよ。だから空から見ていてね。ひとり、渋谷の雑踏の中で呟いた。
東京に戻ってきた彼は、静かに帰宅した。
真夜中を過ぎた頃、ありとあらゆる言葉を知っている彼が、何も言葉を紡ぐことなく涙をこぼした。
私にできることはそんな彼をただ抱きしめて、一緒に夜を越えることだけだった。