20歳冬、東京-4

季節が変わった。

12月を迎え、私は二十歳になった。


先輩とはあの後、ある時はキャンパスの中庭で、ある時は大学近くのカフェで、これまたある時は大学近くの芝公園で東京タワーを見ながらとりとめもない話をしていた。

不思議な先輩だった。

物を書く人だったので、いろいろなことを知っていて、その時々にしっくりとくる言葉を紡ぐ人だった。その感覚が心地良くて、なにはなくとも日々連絡を取り合い、なんとなく落ち合ってはポツリポツリと話をしていた。なにを話しても話が尽きないというのが初めての感覚で、いつも呼び寄せられるように連絡を取っては会っていた気がする。


誕生日当日の午後。

その日もやはり三田キャンパスの中庭で落ち合った。夕方から夜まで時間をくれないかな?どこかにお出かけをしよう。と彼は言った。


中庭をこえ、旧図書館を横目に木々が鬱蒼としげる坂道と階段を下り、趣と歴史を感じる東門をくぐりぬけ、東京タワーに見守られながら、赤羽橋の方向へ私たちは映画を観に向かった。

いつもと違い、珍しく口数が少ない先輩だった。

機嫌でも悪いのかしら、それとも急に寒くなったから体調がよくないとか?なんだか気にかかって、一緒にいながらあれこれ考えたのを今も覚えている。


夜ご飯を食べた後、ライトアップされていた東京タワーを見に行った。とうふ屋うかいをこえる頃までは電気がついていたのに、いつ消えたのか下につくと真っ暗な東京タワーが私たちを見下ろしていた。普段私たちを見守っている温かな東京タワーは、電気が消えた真下から見ると無機質で、なんだか別人のような顔をしていた。


そうだよな、もう23時をこえてるもんね。そんな話をしながら坂を下った。先輩と、こんなに長い時間一緒にいたのは初めてだった。

なんとなく名残惜しくて、なんとなく寒空の下を2人で歩いた。そんな時、徐に先輩が鞄から何かを取り出した。ラッピングされた小さな包みだった。


「いつも手が寒そうだから、気になって。お誕生日、おめでとう」

聞けば何かを渡したかったが何を買っていいかわからず、同期と有楽町のマルイまで行って選んでくれたのだという。

柔らかなウールでつくられた、グレーの小洒落た手袋だった。先輩が自分のことを考えながら悩んで選んでくれたのが嬉しくて、胸がいっぱいになったのを覚えている。


先輩は呟いた。


「東京を離れるのが寂しい。あと3ヶ月と少ししかここにいられないと思うと、自分が選んだ道とはいえいたたまれない気持ちになる。10月までは、ただ友達と離れることが辛かった。でもいまは、もう一つ、東京にはあなたがいるから...」先輩はそこで言葉を切り、言葉を続けた。


「あと3ヶ月しか一緒にいられないけれど、その先は遠距離になるけれど、付き合ってくれますか?」





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