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筋疾患はワクチンをどこに打つ?

コロナが流行して二年が経ちマスクと手洗い、アルコール消毒が感染対策のスタンダードになりました。コロナワクチンも感染予防や重症化リスクの軽減が期待され接種が急がれました。

当初は先行接種として医療従事者の方、お年寄りの方から始まりましたが国や行政の準備が整わなかったりと中々、先行接種の進みが遅く「僕たち基礎疾患もちはいつになったら打てるのか?」と不安な日々を過ごしていた一年前のあの頃。

もうすぐ3回目の接種が始まろうとしています。

筋疾患(筋ジストロフィー)は筋肉の病気。

僕は、肢体型筋ジストロフィーの筋疾患があります。この病気は、徐々に筋力が低下し心不全や呼吸不全、筋細胞の壊死により筋肉が痩せて骨変形など様々な合併症をきたす難病です。

そんな僕も、やっとコロナワクチン接種(一回目)の順番が近づき、それに伴って接種できる安堵感と副作用の心配が膨らみだしていた時、定期通院している専門の病院で思いもよらない事実に気付かされました。

診察室で神経内科の先生から「ワクチンは打った?どこに打つの?」と聞かれて、「どこに打つ!?」どういうこと?
始めは何を質問されているか分からなかったのですが、話を聞いてみるとどうやら今回のコロナワクチンは筋肉注射のため、僕たちのような筋肉の病気の筋疾患の人はさてどこに打つ?という問題が出てくると初めて聞かされました。

確かに全身の筋肉が低下していく筋ジスは、もちろん腕の筋肉も痩せているので健常者の方のように簡単には打つこと難しい。もし腕に打って筋肉に当たらず皮下(皮下注射:インフルエンザワクチンはここに刺します)に打ってしまったとしても害はありませんが、高い効果は期待できない可能性がある、そもそもコロナワクチンは体内の細胞にウイルスのタンパク質を作らせないと、免疫反応が始まりません。
そのため、タンパク質を作る筋肉細胞が多い筋肉に打つことで高い効果を得ることができます。

一般的に、強い副反応は若い世代にでやすいと言われています。これは、ワクチンの異物に強く反応して抗体をつくっているからです。年齢が高くなると、このワクチンの異物に対しての反応が鈍くなるので結果、副反応もあまりでることがありません。
加えて、筋疾患の筋肉量が少ないのと同じでお年寄りも腕の筋肉量が少ないと、しっかり筋肉部にワクチンが当たらず免疫反応が起こりづらく、同じようにあまり副反応が出ないことがあります。

もちろん副反応には個人差があります、僕の腕はお年寄りより遥かに細く筋肉量が少ない 。

そうなると、次に全身の中で一番大きい筋肉はお尻と太腿になる。でも、ほかの箇所での接種は、まだ症例が少なく(2021/9時点)効果の効きが分からない中では簡単に決めることはできませんでした。基礎疾患を持つ重度障害者にとって重症化するリスクが高いのに、この疾患のせいで唯一の武器であるワクチンを打つことができない。"このどうすることもできない"現実に不安が積もる中、久しぶりの往診の診察で主治医からでた提案にとても驚きます。

在宅医療の視点から”できないをできるに”変える。

腕の筋肉が少なく筋肉注射が打ちづらいこと。接種箇所の変更を考えていることなど、打てるならしっかりと効果がある形で受けたい。その思いを伝えました。すると先生からでた提案は…

「腕の筋肉がどのくらいあるのか見てみようよ。筋肉のある場所を見ながら打てば大丈夫だよ。」というものでした。
それは、ポータブルエコーで接種局部を直接見ながら狙って筋肉部に注射をすると言うこと。
腕に打つことをあきらめかけていた時の提案だけに、とても驚きやっと接種ができる可能性が見えて安堵しました。
今までも心臓の機能や腹部の検査ではエコーを受けたことがある。けれど、病院のエコー室は検査がしやすいように薄暗くなっていたり、また他の患者さんも検査を受けているので処置ができる環境ではない。そもそもワクチン接種のためにエコーを使うこと自体、聞いたことも無かった。在宅医療だからできることなのかもしれない。

すぐに往診の先生のところでの接種を決め、依頼をしました。

エコーで筋肉部を探してい様子

病院では決められた手順、決められた方法での処置でしか行うことが難しいことが多い。当然それは今までの医療技術の形やしっかりとしたエビデンスがあっての事だが、実際に患者の状態や置かれている環境に合わせた治療や処置が行われているとは限らない。
「病院の医療」も「在宅の医療」も病気をもつ人に寄り添う医療としてはどちらも同じなのかもしれないけど、在宅医療には病気をもつ人の生活に寄り添う医療、決まりや、固定概念にとらわれない医療があると思います。
ときには、いつもと少し違う視点からアプローチをすることで「できないをできる」に変えることができる。あきらめたり、本当はしたくないのに妥協点を探して無理に自分を納得させなくてもいい。
そんな医療が在宅にはあるように感じます。

エコー画像で見た腕の筋肉部

ワクチン接種当日、エコーで見てみると、わずかに残る腕の筋肉部を見つけることができました。ですが、やはり筋肉の厚みが少なかったので先生が刺している針の位置をエコーで確認しながら、無事にコロナワクチンを接種することができました。

その後、辛かったですが、副反応もありましたのでしっかり免疫をつけることができたのだと思います。

あり続けてほしい医療の形

今回、筋疾患の僕は簡単にワクチンを接種できないことを知ってから悩み、とても不安な日々を過ごしていましたが、往診の先生の提案でみんなと同じ腕からでも接種することができました。「エコーで筋肉部を確認しながら狙って刺す。」このこと自体、もしかすると医療者からしたら、難しいことでもひらめきでもないのかもしれない。けれど、僕にとってはこの寄り添ってくれた提案が安心に繋がりどれだけの救いであったか。
ちょっとした提案だとしても病気をもつ人にとって、その提案がとても大きく結果を変えることがあります。
在宅医療(往診)だからできること。大きな病院だからできること。それぞれのできることや方針の違いは当然あるけれど、一番大切なことは「病気をもつ人の視点に立って、同じ景色を見ようとすることができるのか」なのかもしれないと僕は思います。
病気をもつ人にとって本当に必要としている「寄り添う医療」は、病気だけを診るのではなく、毎日の生活やこれからの人生のことも一緒に考えてくれる。そんな頼れる医療こそが、患者(ひと)に寄り添う医療と言えるのかもしれません。




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