3エリクソンの発達段階論『乳児期』

 今回は、エリクソンの発達段階論『乳児期』について投稿します。

 エリク・ホーンブルガー・エリクソン( Erik Homburger Erikson )は、アメリカの発達心理学者です。出身はドイツで、父親がおらず、母親はユダヤ系デンマーク人だったため、北欧系の風貌をしていました。そのため、ユダヤ系の社会やユダヤ教の教会で逆差別を受ける一方、ドイツ人からは"ユダヤ人である”と差別を受け、二重の差別を受けて育ちました。これらの差別を受けてきたことで、「自分が何者なのか」と悩むようになったことに加え、アメリカで、同一性とパーソナリティに苦しむ人物に会っていた事が「アイデンティティ」の概念を発見した契機と言われています。エリクソンは、自我同一性と訳される、「アイデンティティ」の提唱者でもあります。
 また、エリクソンは心理社会的発達理論という理論を提唱しました。この理論は、8段階ある人間の発達段階で、「心理社会的危機」いわゆる「発達課題」を克服しながら、成長していくという理論です。今回は、エリクソンが提唱した、この発達段階論の乳児期についての投稿となります。

 発達段階は、乳児期、幼児前期、幼児後期、学童期、青年期、成人期、壮年期、老年期の8つに分けられます。
 乳児期とは児童福祉法では、出生から1歳未満までをいいます。エリクソンの発達段階における乳児期は、生まれてから17ヶ月頃です。この乳児期における発達課題は、「基本的信頼」です。基本的信頼は、母親的な人によって育てられます。(母親的な人というのは、必ずしも生物学上の母親とは限らないからです。)基本的信頼は、母親的な人が良きパートナーになってくれた時に育まれます。この時に、関係がしっかりと築けなければ誰とも関係を築いていくことができません。
 例えば、赤ちゃんが泣いた時におっぱいやミルクをくれたり、おむつの交換をしてくれると、母親的な人を信頼できるようになります。望むことを十分にしてもらうことで、子どもは自分を信じることができるようになります。乳児期に母親的な人から愛されれば愛されるほど、基本的信頼が育ちます。
 また、この基本的信頼は、1人か2人の人と信頼関係ができた人が、だんだん他の人との関係を広げていくことができます。
新人のお医者さんを教育する時、いきなり多くの患者さんを持たせると、きちんと治療することができない医者になってしまうそうです。そうならないために、優れた病院では新人医師が担当する入院患者は1人か2人で、しかもスーパーバイザーがつき、最善の医療を徹底して学び、それから患者さんを増やして、外来や入院のかけもちになっていきます。完全を知っていることで、どこを省いても手抜きにならないかが分かるようになるからです。これと同じように、まず1人か2人とのゆるぎない信頼関係を築き、それから対人関係を広げていくのです。
 一方で、乳児期にネグレクトといわれる育児放棄や育児怠慢などの虐待に合うと、周りに不安や不信感を抱き、今後の人生に大きな影響を及ぼしかねません。さらに、基本的信頼を得られないまま、次の幼児前期の発達課題に突入しても、飛びこえて達成することはできません。前回の投稿で少し触れましたが、人間は発達していく上で、必ず順序があり、首がすわっていない赤ちゃんがどんなに訓練をしても、寝返りを打つことはできません。また、寝返りが打てない赤ちゃんがおすわりやハイハイすることも当然不可能です。このように、乳児期の心の発達課題を達成しなければ、次の幼児期前期の課題は達成されないということです。つまり、乳児期に基本的信頼を獲得できないと、周囲や社会に不信を抱えながら人生を生きていくことになるのです。とはいっても、100%完全な信頼を得ることは難しいため、乳児期の不足分を幼児期、学童期になっても引き継いでいき、色々な人と出会って色々なやり方で、不足分を補っていきます。
 身体は目に見えて発達していることがわかりますが、心は見えないので、母親や家族、周りの大人たちが子どもを見守ってあげなければなりませんね。

 余談ですが、雇用保険に加入している方は、要件を満たせば育児休業給付金支給の対象になります。その要件の一つが、生まれてから1歳未満の子どもがいる間だけなのです。保育園に入所できなかったなど、特別な理由がある場合、最長2歳まで延長できます。法律は改正され、この要件が永久に適用されるわけではないため注意が必要ですが、私が申し上げたいのは満1歳までの母親との関わりが重要だから、この期間は育児に専念できるように、給付金が支給されるのかなー?と思います。エリクソンの発達段階論における乳児期は17ヶ月ですし、心の発達も身体の発達と一緒で個人差があるため、給付金の支給が特別な理由がない場合でも、2歳頃まで延長してもらえたらいいのになと思います。

 最後に、今日の内容をまとめます。
乳児期(0歳〜17ヶ月頃)の心理社会的危機いわゆる「発達課題」は、『信頼vs不信』です。愛情を受け、きちんとお世話をされながら育っていくことで、基本的な信頼感が構築されます。信頼が育まれることにより、「希望」が得られます。一方で、ネグレクトを受け、誰にも世話をされなかった場合、不信を抱きながら生きていくことになります。乳児期に「希望」を得られなかった子どもは、のちの人生に多大な影響を及ぼすことになります。そうならないためにも、母親または母親的な人はたくさんの愛を注ぎ、子どもが望むことを十分してあげてください。そして、これから始まる人生に「希望」が持てるよう、働きかけるのが親としての責任であると思います。

 次回は、エリクソンの発達段階論『幼児前期』について投稿する予定です。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


参考文献・Webサイト
・佐々木正美,『子どもの心が見えてくる』,2021年,KTC中央出版
・多湖輝,『子どもの心理法則』,1996年,株式会社ごま書房
・https://bsc-int.co.jp/media/4231/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?