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こころのかくれんぼ 20       【自宅療養編 〜からだと二人三脚〜】

からだ中をひきつらせてきた、小さな小さな糸たちからは解放された。
ここで終わりのようだけれど、実はここからが本番でもある。
私が私のからだへ、どれほどの気遣いが出来るかが試されるところ。
改めて、衣服を脱いだ自分のからだを眺めてみる。

赤みを帯びた手術創の表面は、一見くっついているように見える。
けれど、表面を切り裂かれ抉られた組織は、7日やそこらでは回復はしない。

毎回思うけれど、傷がふさがってつながるって凄い事だと思う。
人間関係においても、互いに傷付いて離れ離れになった隙間をつなぎ合わせるのは至難の業だけれど、むすびなおすって何にしても凄いと思うのだ。


ダメージを受けた部位の深さや広さを測定して「では、この数値に沿った現状回復をお願いします」と指示しているわけではないのに、えぐられて欠けた組織は内部から満たされていき、表層はほどよくフラットにつながる。
本当に、どうなっているのだろうと感嘆するばかりだ。

線維芽細胞がコラーゲンを産生して、真皮組織を補充してくれる。
肉芽組織が出現して、傷の表面を覆ってくれる。
肉芽組織の周囲から表皮細胞が移動してきて、いちど増殖した後にゆっくり縮小して活動は収まり、留まってくれる。
凄い職人ぞろいである。

そっと傷に触れてみる。
まだ固い。一生懸命集まってくれているのが、分かる。
今この時にも、見えない世界で細胞たちが各々の役割を果たしてくれて、動いていると思うと、何だか無性にいとおしくもなる。
このからだの持ち主の私は、その奇跡の働きを邪魔することなく、思う存分治癒活動をしてもらえるようにサポートしよう。

まずは、外部の摩擦や刺激から幼い皮膚を守ること。
自分のからだなのに、何だか二人三脚をしている気分になってくる。

傷は、最低3か月に渡りテープで守る必要がある。
それは色素沈着を防ぐことと、傷の広がりを防ぐことが目的だ。
紫外線にあたると、生まれたばかりの弱い赤ちゃんのような組織は簡単に焼かれてしまって色素沈着をおこす。
ありがたい太陽の光も今は敵となる。
傷は互いに結び合う力が弱いから、放っておくと傷はひろがっていく。傷に対して直角にテープを当てるのが原則なのだ。これが存外に大変だった。


一本の大きな傷を保護するのとは違い、点在しているものひとつひとつに数十のテープを張り付けるのは、毎回時間が掛かる。
まとめて覆ってみようかと、ドラッグストアで帝王切開後の保護テープを購入してみた。確かにソフトで使用感は良いのだが、一回に使用する枚数が必要だし、結構お高くついてしまう。(ひと箱1500円前後する)
仕方ない。地味にがんばろう。

治りかけの傷にせっせとテープを貼りながら、また別の場所に新たな小さい腫瘍が生まれているのに気付く。

あぁ、そうだよね。
これで終わりではないのだものね。
腫瘍を切り取り治しながらも、また別の場所では腫瘍は作られていく。
まるで取ったぶんだけ、補われていくように。
手のひら、手の甲、首回り、顔・・・
少しずつ人目にさらされる部分に広がっていく。

ちいさく絶望する。

でも、このからだで生きるしかない。
また、次の段階の現実を受け入れる日が近いことを、静かに覚悟した。




初めて張り替えた時のテープたち。
はがすのも、ちまちま。
はるのも、ちまちま。







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