水曜ホラーでしょう2

       (燃え盛る炎を背景に)
         2013年5月5日

 『さ、小泉さん。今回我々は都内某区のとある工事現場へとやって参った訳ですが』
 「ぼやかすね~、某区だのとあるだの」
 『いえ、今回場所を特定されちゃうと色々各方面に御迷惑をおかけしちゃうんでね。ここは慎重を期さないといかん訳ですよ。絶対言っちゃダメですよ!"振り向けば川崎"とか』
 「言いたくてウズウズしてるね~、守護霊クン」
 『そんな事はなくて、ですよ。何故そうまでして隠さないといけないかと言いますと、後ろの工事現場、病院の解体をしてるからなんです!』
 「解体してるッちゅ~事はアレかい?廃病院って事かい?!それはマズイいって~。わざわざ夜に来る所じゃないもの~」
 『あ、そこは御安心下さい。よく怪談噺に出て来る廃病院というのはその名の通り廃業…つまり潰れちゃった病院の事なんですが、ここは別の場所に新しい病院を建てた事で用済みになったってだけなんでね』
 「いわく因縁は無いと」
 『全く!』
 「いや、言うても病院だよ?前回だって稼動中の病院だったけど色々あったじゃないの!?」
 『ま、ここでごちゃごちゃ言っててもはじまりませんから。工事の人には連休中だったらって事で特別に許可頂いて入らせて貰える事になったんで。連休明けの明日から工事は再開されるんで、これがラストチャンスなんですから!』
 「おかしいよ!連休中ならって事は3日4日前から入れた訳でしょ?なんで連休最終日の、しかも夜なわけ!?」

 ぼやく小泉を力付くで中へと誘う守護霊。
 懐中電灯を頼りにまず向かったのは……

 『さ、ここは工事にたずさわる皆さんが休憩をとったりするスペースなんですが、元はと言えばここ、入院患者さんのお食事や職員食堂の為の厨房だった所なんです 』
 「守護霊クンさ~、ここ、尋常じゃなく寒いよ~?吐く息が白くてゴジラごっこが出来ちゃうよ?!ここ、厨房じゃなくて冷凍庫の中なんじゃない?」
 『え、私は感じませんが?寒さなんて』
 「そりゃアンタがお化けだからだよ!」
 『……小泉君、その言い方は無いと思うぞ。多様性の世の中なんだから、そ~ゆ~差別的な言動は控えてもらわんと』
 「その多様性を叫び、何かと言うと脊髄反射的に差別差別と糾弾するヒステリックな自称善人共に混ざるのは危険でないかい?少なくともそうやって糾弾する事で別の差別行為を自分自身がしてしまってるッちゅ~事に気づく冷静さはキープしとかんとサ」
 『……え~、ここではですね。場所的にも時間的にも、そのタイミングで聴こえる筈の無い声を聞いたという体験を工事関係者の多くがしてらっしゃる。更には、元は男子トイレだった所の床におじさんが寝そべっているのを見た、とか』
 「ま、解体してようがしてまいが、トイレで寝そべるッちゅ~のは穏やかじゃないねェ」
 『でしょ?しかし、これから10ヶ月後、こうした怪奇現象の核心につながるある物が見つかったんです!』
 「何よ、ある物って」
 『それを見る為に私の霊力を使いまして、今から我々は10ヶ月後にワープします』
 「宇宙戦艦ヤマトじゃないんだよ?我々は」

      (紅蓮の炎に包まれる字幕)
        2014年3月5日

 『……雨、でございます』
 「でございますじゃないんだよ!バケツをひっくり返した、とか言うけどさ、これ、どっかのお宅の風呂場、ひっくり返してるよね?ビニール傘なんか意味ないものォ」
 『そして我々の目の前には祭壇がございます』
 「祭壇があるッちゅ~事はきとうをするって事かい?」
 『小泉クンさ、この馬鹿みたいな土砂降りの中、祭壇を前に下ネタは止めなさいよ!亀○を擦るとかって』
 「言ってねェよ!祈祷という神事が行われるのか、と訊いたんだ」
 『そうなんですよ。まぁ、何らかの横槍が入ったのか解体工事、随分と遅れましてようやく建物の上物を壊し切ったまでは良かったんですが、基礎…つまり土台部分の解体に入った所でとんでもない物が出て来てしまった』
 「お祓いが必要な物ッちゅ~事だね?」
 『そういう事です。で、今回我々は特別にですね。ま、工事関係者ではないので御祈祷に参加は出来ませんが遠巻きに、言わば傍聴を許された訳です』
 「傍聴って、裁判じゃないんだよ。それじゃあ私、小泉じゃなくて阿蘇山大噴火さんのオマージュ"昭和新山水蒸気爆発"になっちゃう」 
 『例えツッコミが長すぎる上に道民じゃないと分からんじゃないか!』

 こうして豪雨の中祈祷が始まるのを待つ事になった我々だったが、そこで信じられない奇跡を体験する事となる。
 神主さんを乗せた車が現場に入って来た途端、それまでの豪雨が嘘のように上がり、空に重く垂れ込めていた雨雲は文字通り雲散霧消して快晴となったのである。

 「守護霊クン、雨、上がっちゃったよ」
 『車越しとはいえ、神主さんが姿を現した瞬間でしたねぇ』
 「霊力ッちゅ~か神力のスッゴい神主さんなんじゃないの?見た目は小柄でしょぼくれたオヤジだけど」
 『アンタは5分に1回悪口言わないと○んじゃうのか?』

 こうして御祈祷は晴天の中恙無く終了した。

 『さ、御祈祷は終わりましたけど、皆さんお神酒を口にしちゃったもんですから、少量とは言え飲酒しての作業はいかんというので、今日はこれで解散、と。それで我々の現場内への立ち入りに許可が出た、という事です』

 晴天になったとはいえ昨夜からの豪雨で地面がぬかるんでいる中、我々は慎重に現場内へと進んで行く。
 そこで我々が目にしたのは、地中からニョッキりと生えたかのように口を開けた灰色の塩ビ管であった。

 『井戸、ですよね。皆さん井戸と言うと『リング』の貞子でお馴染みのアレを思い浮かべると思いますけど、地中から水を汲み上げる目的で造られた物ならどんなに細くてもそれは井戸、というんでね』
 「守護霊クン、マズイいって~。廃病院に埋め○された井戸が出て来たんじゃ、そりゃアンタ!」
 『……ちなみに此処、更地になった後にすぐ新しい用途に向けた工事が入るそうなんですけど、この後何が建てられるか分かります?……マンションです』
 「マズいッて~!建ったその瞬間から即事故物件じゃん」
 『ね、だからこの場所がバレると各方面に御迷惑がかかるッちゅ~のはソコなんですよ』


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