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ふたり#1
遠い過去の記憶。
祖父に連れられてやってきた見知らぬ街。離れ小島。ボート乗り場でお代を払う祖父。ボートはエンジンで動くもので、私の意志と反して前に進む。
「あまり下を見るんじゃないぞ」カラッと笑う祖父を見上げた夏の日の記憶。
私はあまり記憶力が良い方じゃない。でもそれでも育ての親でもある祖父が、良くしてくれた日々を思い出す。
祖父が亡くなって1週間過ぎる。葬儀が終わってでも死を受け入れがたかった。
生前のアルバムには、祖父の写真があった。南房総には、祖父との鮮明な記憶があった。
ほぼ思いつきだったと思う。当時泊まった宿を予約して、私は旅に出ることにした。