タクシー運転手とワガママな8人の乗客者たち#13
乗客 老人 ① 苦手な人種との通院
「日が暮れる運転してんじゃねえよっ」
「はい。申し訳ありません、お客様」
今日の乗客は、ダンマルちゃんが電話受付していた、お迎えのじぃさんだ。
年齢は、そうだな。多分、60歳ぐらいだろう。
俺が、最も苦手であって、大嫌いな人種だ。
こういう年配者は、俺みたいな職種を蔑むように、態度も横暴な人間が多い。
最初に、『お客さん』って言った瞬間に、詰られて、キレられたもんだから。俺も、このじぃさんが降りるまで《お客様》として気を使わないといけない。
そのストレスは、同じ職種でしか分からないんじゃないだろうか。
今日は、ダンマルの奴とカラオケに行こうと思う。
その為には、じぃさんを、とっとと唐沢病院に下車させて、一旦帰ろう。
うん、そうしょうじゃないか。
「それに。このBGMはなんなんだっ! ラジオとかを流したらどうだっ!」
「申し訳ありません、お客様。少し、電波が悪いのか。故障なのか分かりませんが、ラジオが流せないんです、……お先に、お伝えするべきでしたね」
「! 先に言えっっっっ!」
がっこん!
「!? って……っつ!」
がっこん!
じぃさんが、持っていた杖で、俺の運転席の座席を叩きつけた。その衝撃で、俺の身体も、前のめりになってしまう。何、このじぃさんは死に体のかよ。
「おい! 何か、儂が愉しませようと努力をせんかっ。そうじゃな、……ああ! 何か、このクソみたいな業界でのクソくだらない、クソみてぇな実話を言えよっ!」
どこまでもクソなクソで糞野郎なじぃさんだ。戦前か、戦後の糞野郎だからか、どこまでも偉そうなで、横柄な態度をとりやがる。
でも、どこかで俺は、異世界に似た奴を思い出していた。
はて、確かそいつは――
◆◇
俺が、かけもちをする異世界タクシーには、やっぱりつぅのか、一癖も、二癖もある変わったならず者が多い事、多い事。まぁ、そいつは覚悟の上だったし。その現実離れした空間が、堪らなく好きだ。
「おい。フジタぁ、最近はどぉなんだよ。仕事の方は」
「!?」
「……おいおい。どう言うこったぁ? お前、もうそこそこ、こっちに来て長いだろぉうがよぉ~~」
フムクロの家で、親父の武器の手入れをしていた俺に、呆れた口調で言われたもんだから、俺も、言い淀んでしまったし。身体も、大きくビクついてしまった。
「っきょ、今日は本当の休日なんだよっ! あっちだって出勤してて、くたくたなんだよっ! だぁ~~から、こぉうして、のんびりと親父の武器の手入れだって、出来るんじゃねぇかよ」
確かに、ここ最近、こっちでの出稼ぎは怠けていた。
あの事件以来、俺の評判は悪い方向に広まっているからにほかならない。
厄介な奴らしか来なくなって、命の危険も感じてしまったんだ。
だからって来ないって訳にもいかないのは、親父が最近病気がちで、気が気でないからってのも、言い訳に入るんだろうか。
「まぁ、お前が手入れしてくれた武器は、本当に切れ味があってよくて助かってはいる」
「だろぉう!? このきめ細かな磨き方は、俺が研究し――」
ジャキンっ!
フムクロが俺から、武器でもある剣を奪い取ると。
俺の左肩に押し当てた。ほんのちょっとでも力が入れば、すっぱり斬れるようになっているってのに。
「何? 親父さ。俺を殺すなのかよ」
「うだうだと、言ってねぇで! お前はお前の任務を遂行しやがれっ! 今日は、金かなんかを受け取って帰らねぇ限り、家にゃあ上がらせねぇかんなっ!?」
「そうですよ。フジタは仕事をして来るべきなんです」
家にはダンマルもいた。
まるで、自身の家のようにくつろいでいて、親父の子供、つぅか、俺の弟のような立ち位置になってしまっているんだ。上手く、ピースも埋まった感じだ。
「フムクロの面倒は、私に任せて。君は稼いで来て下さい。そして、何か、お菓子でも買って来るべきです! 巷で話題のお菓子を食べたいです!」
ダンマルの言い草に、フムクロも苦虫を噛んだ。
なんとも、言えない顔をして目を閉じていた。
親父の口許は緩んでいるから、まんざらでもないんだろう。
◇◆
「《17丁目》か……久しく聞かなかったな。まだ、そんな御伽話を信じるクソ莫迦野郎がいやがるとはなっ! っは、はははは! 傑作だなぁアっ!」
馬鹿笑いする糞じじい野郎に、俺は苛立った。
(唐沢病院まで、かんなりあるって地獄でしかねぇじゃねぇかよ‼ あ゛~~ァ゛! 最っっっっ悪っ!)
乗客の殆どが、旭川に向かおうとすることに、俺は何かの陰謀を感じた。
もう、断ろうかとも思うほどに。そこはダンマルとの相談だが。
俺はただ、のんびりと運転ついでに乗客を拾って、降ろして、気ままに自由に仕事をしたいだけだってのに。
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