日本に来てなんか違うって感じたことある?の回答
「日本に来てなんか違うって感じたことある?」
Nの質問に咄嗟に出た言葉が 「他国のニュースが少ない」だった。ガザとイスラエル、そしてウクライナとロシア、戦争の話はどこか遠い世界の、自分たちとは関係ない場所のことのようだ。 なんとも白々しいよく聞くような海外かぶれの批判だ。言ってて歯が痒くなる。しかし本当だとも思う。日本は幸せがゆえの幼い感情を内包している、わたしも含め。
先日 工事中の道路沿いを自転車で走っていた。
自転車道はふさがれていて、そのため車道を車と並行して走ることになる。道が狭く車と横に並ぶのがやっとの幅だ。そこで信号待ち。前の黒い車が一台 大きく右に寄っている。その横を通り抜けるのは難しそうだなあと思いながら停止していると、後ろから自転車がわたしを越えて さらにその黒い車の横をそろりと抜けようとする。中学生くらいの 短パンにTシャツの女の子だ。わたしにむかって ごめんね とニコッとする。こちらの子は背が高く、オレンジ寄りの金髪をクシャッと一つにまとめていて、大人びているなあなんて感心する。
少しの時間 前から目を離していると、突然プップーと大きな音がする。びっくりして前を見ると、右寄せの黒い車がクラクションを鳴らし、右の窓がゆっくりと開いていく。反対側からも人が出てくる。どうやら中学生の女の子の自転車が車のサイドミラーにあたったらしく、サイドミラーのカバーがぱかっとはずれているのだ。
女の子はなんとかカバーを元に戻そうとしているが うまくはまらないようだ。何か話している。
そうこうしていると 信号は青になり、車と自転車も走り出し、少し先の邪魔にならないところで停止した。もちろんわたしは目的地に向かってその場を去った。
走りながらわたしはゾッとした。中学生の女の子の立場にわたしがなり得た可能性を想像した。
彼女は一体これからどんな交渉を強いられるのだろうか。
サイドミラーのカバーはそんな簡単に外れるのだろうか。車の搭乗者は 薄汚れた車には似合わない セレブリティな雰囲気もある けれどいかつい東欧系の若い男女だった。わざと右寄せにして そうやって誰かぶつかるのを待ってたのではないかとも、勝手に余計な想像をしてしまう。(真偽はわからない)
わたしは彼女に同情したが、同時に 奇妙な感覚になった。それは ニコッとしたキレイな白人の少女が、いわゆる家を離れ、よその土地で働きに来ている東欧系の男女(彼らがそうだと言うわけではなく、一般的に)から圧力をかけられている構図への新鮮さだった。不謹慎だが、少女の怯えが 新鮮だったのだ。
外国に住んでいるわたしはマイノリティにあたる。言葉も不得手なのでまごまごする機会も多い。日常で差別を感じることはないが、やはり心のどこかで白人優位の感覚を持っているのだろう。
その事故現場では 事故と人種は全く関係ない。しかし力の強い者が支配するような雰囲気が、その構図が、偶然 国の立場と逆転していることへの違和感があった。
(念のため わたしは東欧系の人が好きだし、ヨーロッパの人も好きだ、と自分では思っている)
日本に来てなんか違うって感じたことある?
Nの言葉に
「日本では 人種へのステレオタイプを持っていることを意識することはない。戦争を自分に寄り添わせながら心を痛めることがない。」
これが本当に言いたかったことかもしれないと思った。