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松林桂月 春宵花影図(國華1552号要旨)
佐藤道信
東京国立近代美術館
絹本墨画 一幅 縦119.3㎝ 横134.5㎝
本図は1939年ニューヨーク万博に出品され、話題となった作品である。会期中から購入希望や寄贈依頼が相次ぎ、結局決まらず日本に持ち帰られた。その後、類似作品が何点か描かれて現存する。松林桂月(1876~1963)は、最後の南画家ともいわれた南北合派の画家で、日本画旧派を代表する存在として帝国美術院会員や帝室技芸員を歴任した。南宗山水画と写生風の強い花鳥画を制作し、本図は後者を代表する作品である。朧月夜の桜を描いた濃密な画面は、明治期の日本画新派の朦朧体を連想させ、当時不評を買った表現が、40年を経て好評を得るまで時代が変わった様子を物語る。戦後、国立近代美術館への作品寄贈を申し出た桂月邸を訪れた美術史家・河北倫明は、本図と南宗山水画の「深林図」の2点を選んだ。桂月の南宗・北宗各1点を代表作として選んだことになる。同時にこれによって南北合派も歴史的に総括され、流派としての終焉を迎えた観がある。