柴田是真筆 羽衣福の神図屛風(國華1551号要旨)
高尾曜
嘉永6年(1853) 絹本着色 二曲一双 各縦145.0㎝ 横148.4㎝
幕末・明治の蒔絵師であり、絵師でもあった柴田是真が描いた絹本著色、二曲一双の屏風である。能〈羽衣〉を右隻に、狂言〈福の神〉を左隻に描く。
本図は、2022年に国立能楽堂が開催した特別展「柴田是真と能楽 江戸庶民の視座」に出品された。同展の調査により天保から嘉永にかけて是真が熱心に写生を行い、観世家・宝生家と深い信頼関係を築いていたことが判明した。また東京藝術大学所蔵の「柴田是真写生帖」に本図の元になる写生が多く確認された。是真の能絵は個性的な容貌の写生がみられ、本図においても年齢や個性を描き分けていることから似顔絵的な意図と、実際に行われた演能に基づいているであろうことが考えられた。写生や諸記録の照合、縫箔が観世流の好みであること、鳳凰の天冠から、本図は款紀前年の嘉永5年(1852)正月16日、観世大夫邸の稽古初で観世鉄之丞清済が演じた〈羽衣 和合之舞〉と鷺流の〈福の神〉をモデルとした可能性も考えられる。特定の演能と人物を写すという発想は粉本を写した江戸中期までの能狂言絵にはあまりなく、それ以降に盛んになった写生に基づく能絵という新たな展開であり、美術史的にも重要な作品といえる。