魚屋北溪筆 振向美人立姿図(國華1548号要旨)
奥田敦子
東京都 すみだ北斎美術館 紙本墨画淡彩 1幅 縦70.2㎝ 横25.6㎝
本作は、すみだ北斎美術館に近年収蔵された葛飾北斎門人の魚屋北溪(1780-1850)の落款を伴う肉筆浮世絵である。確認できる範囲では新出と考えられる。墨と淡い紅色で町家の女房と思われる女性の後ろ姿を描いている。印章は新出だが、款記は文政(1818-30)中後期作とされる「読書三態図」(大英博物館)等と特徴が一致する。狂歌本『北里十二時』や『婦人画像集』の挿絵、「読書三態図」の女性像等と比較すると、上半身をひねり振り返る姿勢や、顔の輪郭、耳の形が一致している。描き方や落款より北溪の真筆で文政後期から天保年間(1830-44)の制作と考えられる。北斎も墨画淡彩の美人画をよく描いており、代表作「夜鷹図」(細見美術館)が知られるが、一人立ちの美人図で、後ろ姿のみで美しさを表すことは絵師の力量が問われる。本作からは、墨のにじみや諧調の効果を熟知した、手慣れた筆運びを見てとることができ、北溪の筆力をうかがうことができる。