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住吉具慶筆 源氏物語図屛風(國華1550号〈特輯 源氏物語図屛風〉要旨)

稲本万里子

東京都 根津美術館
紙本着色 六曲一双 各縦99.0㎝ 横280.8㎝

 根津美術館に所蔵される「源氏物語図屛風」は、右隻に若菜上巻、左隻に若菜下巻の場面を描いた小型の屛風である。屛風両端の落款印章から、住吉具慶の法橋時代の作であることが知られている。右隻右側は、玉鬘が主催した光源氏四十賀の場面である。光源氏は、鶴が描かれた屛風を背に、坏を手に坐っている。左側には、その夜の管弦の遊びの場面が描かれ、畳に坐る四人の公卿のうち、琵琶を手前に置く人物を光源氏に比定することができる。画面上部には白梅が咲き、春の夜の情景があらわされている。左隻は、光源氏一行の住吉詣の場面である。画面左端の住吉社では東遊が奉納され、画面上方には銀色の月が浮かび、住吉の浜辺が広がるようすが、細部まで丁寧に描かれている。左手を額に当て、口を開けて海のほうを見ている従者は、平安時代の絵巻のなかに同じポーズの人物を見出すことができる。さらに右隻右側は、「春日権現験記絵巻」(皇居三の丸尚蔵館)の構図を引用し、左隻は、狩野探幽筆「源氏物語賢木澪標図屛風」(出光美術館)を参照している。このように、本屛風には多くの古画からの引用が認められる。また、右隻は鬚黒の正妻になった玉鬘の栄達、左隻は明石の一族の栄達があらわされているところから、本屛風の主題は家の繁栄であり、婚家の繁栄を願い、婚礼調度としてあつらえられたと考えられる。


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