伝尾形光琳筆 檜図屛風(國華1548号要旨)
河野元昭
紙本金地着色 六曲一双 各縦169.5㎝ 横338.6㎝
尾形光琳の彩管になると伝えられる金地濃彩六曲一双「檜図屏風」である。落款印章はないが、酒井抱一が編集した『光琳百図』後編(1826年)に載る作品だ。この屏風は昭和60年(1985)秋、出光美術館で開催された「琳派作品展」に出陳された。この展覧会を監修した山根有三氏は、18世紀後半の「光琳派」とされた。確かに光琳の直筆とすることはむずかしいが、出来映えは大変すぐれている。構図は左右隻の対照がよく考えられ、屏風としての意匠性も明快で、写生的な描写と工芸的な仕上げがみごとに融合している。だからといって、この屏風を光琳筆と断定することはできないが、光琳と密接に関係する作品であることは、抱一の鑑定を待つまでもなく確実である。現在の段階では、光琳派と見なす山根氏の鑑定に従い「伝尾形光琳筆」としておきたい。ただし、18世紀後半まで下げなくてもよいであろう。この屏風が有する江戸琳派史上における意義はさらに高いものがある。
鈴木其一の筆になる「三十六歌仙・檜図屏風」(『國華』1522号)の「檜図」は、この屏風を再構成した作品であった。さらに重要なのは、其一の最大傑作である「夏秋渓流図屏風」(根津美術館蔵)とこの屏風が、檜モチーフという点で共通している点だ。この屏風の再出現は、江戸絵画史研究に新しい地平を拓く契機となるであろう。