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久米民十郎 支那の踊り(國華1546号要旨)

五十殿利治

東京都 永青文庫 大正9年(1920) カンヴァス 油彩 縦76.0㎝ 横111.5㎝

 頭から大きく後屈した中国服の女が、画面の中央にある円形の敷物で膝を折って座している。ほとんど隠された表情と、赤い裏地が見える黒い服は彼女のぎこちない姿勢と対照的な強い印象を与える。彼女の右腕が円を描くように、そして左腕が尖った指で後ろに突き出ているのはさらに威嚇的だ。近代洋画でも異例のこの面妖な絵画は、久米民十郎(1893-1923)によって描かれた。
 久米は学習院で学び、1914年にイギリスに渡った。裕福な家庭に生まれ、自宅に能の舞台があった久米は、能楽に興味を持っていた、詩人エズラ・パウンドと親しくなった。パウンドはロンドンのモダニズムの第一人者だった。久米は1918年に帰国し、ロンドンで出会ったデンマーク人ダンサーを描いた絵を、文展に出品した。
 この中国舞踊の絵画は、1920年5月に彼の最初の個展で展示された約30点の作品の1つだった。この個展のために、神智学協会東京ロッジの会員の一人である久米は、宣言書「霊媒派ニ就テ」を発表し、視覚を超えた霊的なコミュニケーションを求めると宣言した。これは、第1次世界大戦による精神の危機に瀕したロンドンでの久米の厳しい経験を反映している。


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