TureDure 11 : 断章「介護俳優の仕事」
物語の断章を書きます。
モデルは以下のあらすじ。
https://note.com/kokihorikoki/n/n4757a9ffd8a5
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ハル 行くの?
アキ うん。
沈黙。
ハル ここもアキの家じゃなくなるんだね。
アキ そう。寂しい?
ハル 寂しい。
アキ そう。
ハル 言うことばかり聞いてていいの?アキがしたいことしなよ。
アキ 私がしたいことねぇ・・・・
ハル うん。無いの?もっと俳優続けたいとかさ。
アキ (笑う)それはハルがしたいことでしょ?
ハル そう。
アキ じゃあ、それはハルがしなよ、私じゃない。
ハル じゃあ、アキがしたいことは?聞きたい。
アキ 夢?
ハル とか、目標とか、10年後にありたい姿とか。
アキ 夢か。なんか、うーん、そうね。
ハル 夢がないと、生きていけなくない?
アキ (笑う)獏みたいだね。
ハル 真剣!
アキ (間)あるよ、夢は。
ハル 聞かせて!
アキ でも、まだないんだよね。
ハル 真剣!
アキ ほんとに。
ハル (眉をしかめる)なんじゃそりゃ。
アキは畳んでいた服をもう一度広げる。
アキ 私たちは墓石に跨ってるよね。
ハル 同じある日ね。
アキ そう。生まれるのも死ぬのも同じある日。
ハル それがどうしたの?
アキ あの、おばあちゃんは結局誰に会いたかったんだろう。
ハル 誰?
アキ あれ?知らない?篠咲さん。
ハル あー、結構前の人じゃない?
アキ そう。私が篠咲さんを演じたら満足してくれた人。
ハル え、誰かじゃなくて?
アキ そう。依頼は「昔好きだった人」だったんだけど、最後は、私ね、篠咲さん本人を演じたの。そしたらまるで奇跡の再会みたいに喜んでくれた。
ハル 篠咲さんは、昔、自分のことが好きだったってこと?
アキ 違うと思う。きっといるの。「昔好きだった人」。
ハル なんで?
アキ ちっとは自分の頭でも考えてみなさいな。
ハル いや、わからなさすぎるやろ!
アキ きっとね、私たちはずっと夢を見てるんだよ。夢を見ようと思うほど、ずっと見てた夢がぼやけるような感覚?
ハル 篠咲さんはじゃあ失ってた夢を取り戻したってこと?
アキ ううん。きっと夢に気づいたんじゃないかなって思うの。
ハル なるほど?全然わかんないわ。
アキ (笑う)そうね。
ハル あんたが言い出したんでしょ!
アキ そうね。だって、夢を見ようとしてるんだもん。
ハル 違うよ!あるんだもん、夢が。
アキ そうね、同意見だよ、あるの、夢は。
沈黙
ハル 行くの?
アキ うん。
アキは広げた服を畳みはじめる。