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弱い建築家像について ー まれびとの家で考えたこと

このテキストはクラウドファンディングの返礼品として作成したブックレットの中から、筆者の書下ろしテキストのみを抜粋して掲載したものである。

はじめに

新しい時代の建築家像として私達が思い描いているのは「弱い建築家像」である。ここでの弱さとは、物理的なものではなく、存在としての弱さである。これまでの作家像は、完ぺきな作品を1人で緻密につくり上げ、その制作過程への他者の介入を拒む「強く・硬く・大きな建築家像」であった。

一方で、私達の目指す「弱く・柔らかく・小さな作家像」は、上手くいっていない箇所や、悩み・失敗など、脆さをあえて公開することで、他者の助けを積極的に借りる姿勢を持つ。完成していないからこそ、欠点があるからこそ、そこに参加の余白が生まれ、多くの知恵が集まる。その過程でふと周りを見渡すと、「自分ごと化」された積極的かつ主体的なプロジェクトメンバーが集っていることに気づく。

集落や風景が「アノニマス(匿名的)」であるのは、そういった開放系の「集団的創作の原理」が働いているからだ。本作『まれびとの家』は、クラウドファンディングとデジタルファブリケーションという「弱さを補完する」情報技術の力を借り、現代の集団的創作の在り方を模索したプロジェクトである。

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人口減少時代の建築の在り方を限界集落で考える

越中五箇山の一部、富山県南西部に位置する南砺市利賀村は、標高1,000メートル以上の山々に囲まれ、その面積の97%が森林で覆われている。このような豊富な森林資源を有する一方、人口は500人程度であり、過疎化・高齢化・少子化という社会問題に直面している地域である。

高度経済成長期時代には、都市部への一極集中化が進行したが、現在ではインターネットに代表される情報技術の進化と普及によって、「何処に居ても」都心部と同じように暮らし・働ける状況が生まれつつある。そこでは、都心に住む必然性は消滅し、建てるために必要な豊富な木材と、人間性を回復してくれる広大な風景を有す利賀村のような小さな山村にこそ、むしろ競争優位性が生まれるのではないだろうか。

このように「都市と地方の圧倒的な非対称性」が崩れつつある時代あって、今私たち建築家にできることは何だろうか。

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観光以上移住未満―まれに訪れることのできる「家」

この地域では毎年、厳しい冬を越えた春先に「お祭り」が開催され、住人たちが各集落を行き交い、共同体の外部の存在と共に毎日飲み食いをする。おそらく、「共同体の外部からやってきて、強烈に異質な体験をもたらす来訪者=まれびと」を待ち望む地域性があるのだろう。地域の持続的発展のために、外来の技術や文化・人間を積極的に受け入れようとする。

そんな無意識に潜む叡智に習えば、外部から移住者を求めるのではなく、稀に訪れる人が日々入れ替わりながらも常に「住民として」存在している状態をつくることが、この場には相応しいのではなかろうか。それは、稀に訪れるのだけど、それでも自分の家だと思えるような家の在り方だ。

例えば、顔の見える100人で1つの家を所有するような仕組みであり、重く湿った「定住」と軽く乾いた「観光」の間の性質を有す「家」の提案である。

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2018年11月、地鎮祭の後にVUILDメンバーと上田夫妻とまれびとの家1/10模型を囲む。

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世界遺産相倉合掌集落に在る原始合掌集落。

デジタル技術で建てる「現代の合掌造り」

五箇山には、相倉及び菅沼に代表される「合掌造り」や、町屋構法として「枠の内」といった伝統構法が存在する。前者は、チョンナ梁(根曲がり材)の上に、扠首組が駒尻(ピン)で乗った「柔の構造」であり、後者は杉の柱に欅の梁が井桁状に組まれた「剛の構造」である。これらを組み合わせることで、壁でありつつ屋根であるような、合掌の形をしつつ井桁で組まれているような、そんな意匠を考案した。

また、現代版の合掌造りを構想するにあたって、採光をきちんと確保しつつも、風通しと暖かさが得られるよう計画した。本家合掌造り同様に妻面を南北に配置し、平行して走る山脈を「巨大なU字溝のような風の通り道」と見立て、東側のファサードに「ウィンドキャッチャー」の機能をもった開口部を設けることで、平(ひら)面から風や光を建築内部に取り込むことにした。

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出典 
*1『合掌造り民家はいかに生まれるか—白川郷・技術伝承の記録』 白川村教育委員会 1995年
*2『住まいの伝統技術』
安藤邦廣他,(株)建築資料研究社 2002年

人々の手で組む「身軽さ」を実現する機械加工

構法を考えるにあたって、流通規格に乗らない「大径木」や「根曲がり材」を活用することを意識した。そのため、丸太を36mm間隔でスライスすることで生まれる板材を用いてできる手法を考案した。仕上がり寸30mm厚は、一般的には薄すぎるのであるが、「素人でもつくれる家具の延長としての建築」というコンセプトを実現すべく、試作を繰り返すことで仕口の寸法を決めていった。

最終的には、合掌板に貫板を両側から差し込み、込栓で仕口を締め、その上で枠板が取り付くことで、回転剛性に抵抗する接合部を考案した。結果的に1000以上の部材と1000以上の接合部が生じ、加工手間は増えたのだが、機械加工故に狂いは少なく、現場での作業も少ない。また、一つの部材が軽いので、これまで建設に関われなかった子供・女性・高齢者も建築に参加できることになる。さらには、一つの部材が小さいので、移動性に優れ、狭小地や傾斜地に対しても足場無しで建築可能である。

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上平村にある長田組の ShopBot。

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長田組の ShopBot で切り出したまれびとの家の部材を組み立てた様子。

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地域完結型の小さな生産ネットワーク

林業が抱える構造的問題として、木材が産地から消費者の手に届くまで、加工業者、商社、施工業者など、多くの中間業者を介する点が挙げられる。そのため、長い輸送距離や大きな環境負荷がかかり、山元には利益が残りにくい状況になっている。

ここでは、伐採―製材―加工―組立といった、原材料の調達から建設まで半径10KM圏内で完結する「流通の仕組み」を設計することで、地域の外に物質を輸送することなく、地域内で生産が完結するネットワークを提示した。ここで基幹となっている技術は、安価で高性能な3軸CNCミリングマシンShopBotである。同機種は、全国に45台が導入されているが(2019年12月現在)、これらのグローバルな生産ネットワークとデータを共有する事で、並列で分散生産する事や、他地域で再現する事が可能である。

これらは、デジタル生産技術ならではの特性であり、デジタル時代の新しい「結(相互扶助の仕組み)」とも捉えることができる。

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まれびとの家における林業の自律分散型ネットワークの図。

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短手断面図

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