【異界】扉が開く
男は朝日と共に坂を登り、夕焼けを窓の外から見送り、今日が過ぎると仕事を終える。そんな毎日を繰り返し、変わらぬ景色に退屈していた。
「カーン、カーン、カーン、カーン」
自宅まで残り僅かの場所にある踏切の前で終電の電車が通り過ぎるのを見守り男は自宅の扉を開く。
そんな毎日の最中普通ならば気付かない些細な変化に男は気付いた。
「カァン、カァン、カァン、カァン......」
帰路の途中にある踏切の遮断機が降りていない。警報機は鳴り止まない。
「カァン、カァン、カァン、カァン......」
その警報機の音がいつもと少し違うことも男は気付いていた。
電車が迫る。警報機の鳴る感覚が次第に短くなっていく。
「カァンカァンカァンカンカァンカンカンカンカカンカンカカカカカカカカカカカカカカカカカ」
警報機に反響して鼓動が高鳴るのを感じる。日々に退屈していた男はいつもと違うこの変化に心躍っていた。何が始まるかもしれない。この変わらぬ日々が変わるかもしれない。
電車が通る。
目の前を過ぎるその瞬間、男は踏切を飛び越えた。
凄まじい速度で走る車両の側面に男が飛び込んだその時
扉は開いた。
目の前に闇が訪れた。
否、男が闇に訪れたのだ。
そして男は落ちていった。疲労感に身を任せたままスーツ姿でベッドに落ちた時のように、男は闇に沈んでいった。