ケテパサ?
何があったの?どうしたの?という意味を表すスペイン語である。らしい。
¿ Qué te pasa ?
はてなマークがひっくり返って付いているのが可愛らしいといつも思う。
大学の第二外国語としてスペイン語を選んだのは大好きなパウロ・コエーリョの本を彼の書いた言葉で読みたかったからで、ポルトガル語もスペイン語もきっと親戚みたいなものだろう。という至極軽々しい理由からなのだが、フランス語やドイツ語になんとなく第二外国語界のスター性を感じて、ならば絶対にそちらを選んでやるものか。というメインストリームに対する反発心のようなものもあった。スペイン語ではそもそも専攻過程の授業さえ受けられないと気付くのは、ずっと後になってからのことである。
qué =何
te =君に
pasa =起こる
で、What happened to you ? と同じような意味になる。らしい。
ケテパサ。言葉の響きが善い。
耳にして、口にして楽しいな。と思える言葉たちに出会ったことだけでもスペイン語を選んだ意味があったというものだ。
大学でスペイン語を教える先生は二人いて、一人は日本人の学者然とした真面目な男の先生七三分けダブルのスーツ灰色。もう一人はスペイン人の女の先生で、見たこともない大きなサングラスに見たこともない大きな女優帽を被り見たこともない大きな花柄のワンピースを着ていた。見たこともないものに身を包んだスペイン人の先生は、まぎれもなく見たことのあるスペイン人そのものであった。
スペイン人の先生は日本語が話せないから、授業を受けるこちらは彼女の発する音を追いかけていくしかないのだけれど、おかげでスペイン語=楽しい音の言葉。という感覚でお付き合いができた。
コモエスタ。ムイビエン。ペルフェクト。ソゴエサン。とよく言っていた。
ムイビエン…muy bien かな。トレビアンみたい。てことは、bienはスペイン語とフランス語で同じものを使うのか。おもしろい。muyはveryで、very goodになるのか。よしよし。
そういう風にどれもスペイン語だと思って音を拾ってメモをしていくのだが、夏になる少し前くらいになってようやくソゴエサン。が人の名前であることに気付く。とても優秀そうな長髪の男子がその人であるらしい。浅越ゴエさんみたいだったらいいな、と期待したけれど全然そんなことはなかった。
デドンデ。マニャ~ナ。セルベサ。ポルファボ~ル。いろんな音を聞いた。右をアラデレチャ、左をアライズキエルダと言う。
右折する=ヒィレアラデレチャ。
左折する=ヒィレアライズキエルダ。
右折してから左折する=ヒィレアラデレチャイルエゴアライズキエルダ。
こいつは大変だと思った。
みぎ、ライト。ひだり、レフト。で済んでいたもの。左右とかL⇔Rとか、概念としても言葉としても親しみやすかったものが、アラデレチャとアライズキエルダ。デレチャはまだいい。イズキエルダって何。
右も左もわからない。と表現することがあるが、大学生になって本当に右も左も理解できないことがあるとは。いくつになっても見ようとした世界のことしかわからないし、知っていることしか知らないのだ。
アラデレチャとアライズキエルダを使いこなしているスペインの子供たちを尊敬するようになった。
8月9月と、本当にケテパサ?と言うしかない出来事があり、あんなに何にでも使えるすごい子クソだらぁでも言い表すことができなくて。前向きとか後ろ向きとか、なんだか借りてきたような言葉ばっかりだな。と思って横を向いたら昔借りたままになっている言葉が座ってた。返さなきゃいけないな。そんな感じでやっております。