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オッサモンド

たとえば女が受話器を握りしめて叫んでいる場面。
『ねぇ、ジョー。アンタいまどこにいるのよ!
先週はクリーヴランド。その前はミルウォーキー。ダラス。サクラメント。ニューオーリンズ。テネシー。サラトガ。まったく居場所が摑めやしない。こっちの身にもなってよ!
ハァ?オッサモンドにいるですって?どうやったらクリーヴランドからあんなとこまで行けんのよ。アンタときたら・・・。まあいいわ。ボスから伝言。…

…確かに伝えたからね。
アンタ、たまには顔ぐらい見せなさいよ。待ってる人だって・・・いるんだから。
じゃあね。』
ガチャン。

たとえば雪山の吹雪を逃れて洞穴で二人の男が出会う場面。
『ひどい吹雪ですな。10年ぶりに娘に会うためにこうしてやって来たのですが、あとはこの山を越えるだけというところでこんなことになるとは思ってもみませんじゃった。当分止まないでしょうから、まあ一杯やりましょう。こうして行き会ったのも何かの縁。バスカーの善いのがあるでの。
ふぅ。
ワシも昔は無茶ばかりして妻と子供に散々心配をかけました。家に帰ってきても、ひと月もせんうちに戦場の空気が呼ぶんです。そうすると居ても立ってもいられなくなりましてな。お前さん、あの村へは何をしに?
…ふむ。そうじゃのう。何もない村だが、星見の台だけは皆の誇りじゃの。

…なんと!お前さん、あのオッサモンドにおったのか!生き残った者がおるという話は聞いたことがないが・・・しかし・・・そうか。これはめでたい。よろしければ詳しく聞かせてもらえんか。バスカーはまだまだあるでの。』
チン。

たとえば火葬場からの帰り道父娘が連れだって歩く場面。
『おとーさん。おかーさんはいつかえってくるの?
ふうん。そうなんだ。つまんない。
おとーさん。あのね、わたしね、おおきくなったらオッサモンドでバニラクリームやさんになるの。ウゾーとムゾーっていうきょうだいがいてね、そこのバニラはせかいいちなんだって。わたしもせかいいちのバニラクリームをつくるんだ。

おかーさんもきっとたべにきてくれるよね。』
コツン。

たとえば新宿駅東口のタクシーに男が慌てて乗り込む場面。
『どちらまで?
オッサモンド・・・ですか。
かしこまりました。
お客さん、生きて帰ってきてくださいよ。

御武運を。』
バタン。


ずっとそういう伝説の場所だと思っていたのだが、オッサモンドは洋服屋らしい。

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