【致命的なネタバレ含む】けどCYTUSⅡのストーリーを語りたい。
はじめに
CYTUSⅡは群像劇であり、様々な人物が体験した記録を読むことで少しずつ事件の真相に近づいていく構造になっている。視点が分散している分、どこにどんな描写があったか、時系列順に整理することが難しい。
Ver.4.0でTL機能が追加され、バージョン順(追加順)あるいは時系列でストーリーが読めるように改良されているが、量が膨大なため、読み返すことが難しい。また前作CYTUSの描写も断片的なものであり、CYTUSⅡの描写と組み合わせて解釈する必要がある。
そこで、全体の流れを俯瞰するために、今までの大まかな流れをまとめてみることにした。
性質上、Ver.5.1更新分までの致命的なネタバレが含まれる。未プレイ者のアクセスは推奨しない。
また、個人的に読み取ったものなので、誤りを含む場合がある。
ゲームタイトル:すべて大文字CYTUS
神経ネットワーク:cyTus
アーキテクトが接続するもの:Cytus
で使い分けたつもりだが、漏れがあるかもしれない。
一部、攻略Wikiのまとめを参考にした。
https://wikiwiki.jp/cytus-2/%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%88%E5%B1%A5%E6%AD%B4
描写の整理
Ver.1.0系統
Ver.2.0系統
各人物の出自や設定が一通り出そろう
ROBO-Head製作者の「Nora」
NEKO#ΦωΦの過去の姿「Neko」
PAFFの過去の姿「Aroma」
過去にCherry,JOE,Xenonが属していたバンド「Crystal Punk」
アーキテクトの設定が明らかになる「Ivy」
アーキテクトの設定「Ivy」
覚醒者:Cytusと同期せずとも生存できる、感情と自我が生じたアーキテクト。通常は不良品とみなされて再構築される。再構築によって核がもろくなっていく。人類復興後に処遇を危惧。
半覚醒者:感情と自我が生じたものの、Cytusと同期しなければ存続できないアーキテクト。
覚醒者のIlkaが人類のネガティブな側面を集めたシステム資料を発見し、覚醒者の間で共有、Vanessaの核がもろくなり、バーサーカー人格が生じるきっかけに。(Ver.2.0 Ivyの ???_???_144_??_??)
★終焉ウイルスの抗体についての言及「PAFF」「Nora」
★Vanessa事件に合流する人物として「Rin」「Sagar」
A.R.C内部の動きが描写。
SagarはConneRとの絡みも重要、Rinは人間とアーキテクトの関係性を現す点でも重要。
Ver.3.0系統
Ivyが序盤で保護し、RinとSagarに飼われることになった「Bo Bo」
Rinの能力を活用しているA.R.C、彼女を解放しようとするSagar、その関係性につけこもうとするA.R.C上層部
A.R.C.の対外的トップを担う人類Leoと、影の創設者のアーキテクトViolette(この時点で名前不明)の対立
「Ivy」追加エピソード
Vanessa事件前の人類との交流や動き
「Vanessa」追加エピソード
覚醒者IvyがCytusと同期すると逆に自分の感情が音楽に変換される(Audio_Shelter_149_04_25)。流れる楽曲は「99Glooms」。後のÆsirの着想。
半覚醒者VanessaがCytusと同期した際の記憶が、CYTUS αのイラストと一致している。流れる楽曲は「The Beginning」。(Cam_Shelter_149_04_25)
無印CYTUSのVanessaを基に再構築されたのがCYTUSⅡのVanessa。そのせいで核が弱くなっていて半覚醒者になっている?(Cam_???_149_06_19)
パージ事件の描写(Audio_Shelter_149_06_26_2)
Vanessaを守るためにIlKaとの取引したり、反故にしようとしたり。
Cytusとの同期に依存しなくても良いように代替となる疑似メインフレームを作成するも、完全には解決せず。
★OA(オブジェクト分析)の実装=長期接続によりプレイヤーの能力拡張
Ver.4.0系統
復興阻止を企てたアーキテクトの「Ilka」
退役事件の真相
Violetteがチップを通じて人類の洗脳を計画
Hedwig率いる人々によって暴かれVioletteが破壊される
Raldによって撃たれIlkaが損傷
Ilkaの停止直前、IlkaがVioletteにShelterを通じて電力を渡し、Violetteの脳を延命(ただしアーキテクトと人類が交わることを望んでいない)
書き換えられたプロトコルが実行されアーキテクトが自滅
破壊されたVioletteが支持者に回収?
洗脳によって支持者を得ていたことを示唆(Cam_Hedwig_497_04_03)
のちに支持者がVioletteを回収してA.R.C設立?(具体的な描写がどこか見つけられなかった/英語版Wikiに表記あり)
「Vannessa」の追加エピソード
LeoがA.R.Cの真相にたどり着き、Violetteを追放・権限移譲(Audio_Leo_702_12_17)。対外的にはLeoがトップなので、表向きには見えていない部分。
バーサーカー人格のVanessaに話しかけているオリジナル人格のVanessaの発言から、無印CYTUSに出てきたExtenLife社とのつながり、無印CYTUSのDisastarも終焉ウイルスであること、人間のVanessaが西暦2280年の時点で生きていたことが推定(Audio_Vanessa_702_12_29_1)。
VioletteがLeoにより死亡。アーキテクトを全て壊したうえでの神経ネットワーク再構築を示唆(Audio_Leo_702_12_29)
Violetteは神経ネットワークには核となるユニット(アーキテクト)が必要であること、バーサーカー人格のVanessaを認知しつつも戦略上放置していたことを示唆(Audio_Leo_702_12_29)
Vanessa事件の裏で起きていた2つの人格の間で起きていた葛藤と、それを目撃した被験者E00200
Ver.5.0系統
★Neko Ⅱの追加
整理と予想(たぶん不正確)
無印CYTUSとのつながり
【Audio_Vanessa_702_12_29_1】、Ver.3.0時点のIvyのOS、CYTUS αの描写から
神経ネットワークの普及により終焉ウイルスが蔓延
人間のVanessaがOperatorに記憶を移転
人間のVanessaの方は冷凍睡眠
Operatorに転送できたのは記憶のみだったため、Cytusに接続することで音楽を通じて人間の感情を同期・処理する必要がある。その際、指令を受け、復興工事に携わるよう統制される。
Vanessaの記憶を持つOperatorがCytusとの同期に失敗
Vanessaの記憶を持つOperatorが真相に気づき、冷凍機能をオフにするも、人間のVanessaを解放
(無印とⅡの間にOperatorの記憶が残っていない部分を挟む:西暦とN.A.の間くらい)
復興以後
IvyとVanessaの出会い→Ilkaによるヒュペリオンプロトコル(復興工事)からの解放への協力要請(この時にVanessaにバーサーカー人格が生まれる)→Ilkaとの協力関係の瓦解→パージ事件による散逸→Ilkaたちが再構築による生まれ変わりを図り自害(Ver.2.1 Ivy ???_???_149_??_??)
復興後に退役事件。Violetteがチップを通じて人類の洗脳を計画→Hedwig率いる人々によって暴かれVioletteが破壊される→Raldによって撃たれIlkaが損傷→Ilkaの停止直前、IlkaがVioletteにShelterを通じて電力を渡し、Violetteの脳を延命(ただしアーキテクトと人類が交わることを望んでいない)→書き換えられたプロトコルが実行されアーキテクトが自滅→破壊されたVioletteが支持者に回収?
VioletteによりA.R.C.の設立
A.R.C.が終焉ウイルス研究を開始、抗体を得ていた被験者E00200のみが生存し、肉体から切り離された意識がネットをさまよう。後にPAFFの投稿を未公開にするのがE00200の目に留まり、物語の冒頭につながる。
OperatorのVanessaはcyTusの核に→Ivyが接触→バーサーカー人格がVanessa事件を引き起こす
その裏でA.R.CからVioletteが追放、Ver.3.0のエンディングでLeoが会見をしている。アーキテクトをまだ大量に保有していることと、破損したIvyのボディが宙づりになっている。Ver.5.0のエンディングでIvyにWake Upと呼びかける声。
よく分からないこと(読み取れていないこと)
初期トレーラーの台詞とサブリミナル的イラスト
一瞬入るイラストは低倍速にすると見えるが、何なのかよく分からない。
無印CYTUSとCYTUSⅡの間の出来事
Vanessaもよく分からないと言っている。【Audio_Vanessa_702_12_29_1】
A.R.C.設立前後の出来事
もしかしたら断片的に描写はあったかもしれないけど、整理ができていない。
描かれていない部分があれば、今後追加されてほしい。
E00200の正体と神経ネットワークのその後
Ver.4.0クリア後に各人物の部屋を調べた時のテキストが変わる。
Ver.5.0で神経ネットワークの是非をプレイヤーに投げかけたうえで、最後にIvyの伏線を張っている。
PAFFが抗体を得たのと同じように、人間のVanessaが記憶の移転を経験したことが原因で抗体を得て、被験者E00200として生き残った可能性もあるのかと思ったけど、時系列的に不自然?
人間のVanessaの立ち位置
ExtenLife社の研究員?
Cytusメインフレームの製造者
感情を音楽に変換できると考えた最初の人は誰で、何があったのか。
これからの流れと細々としたこと
Ivyを核として神経ネットワークを再開した後の社会を描くとして、どうやって未回収の要素を拾っていくか
Vanessa事件で破損した後、修理されたROBO-Headは再構築されたのと同じようなものなのだろうか
自我を獲得したAI、NEKOⅡが物語にどう絡んでいくか。NEKOⅡの観測範囲や行動範囲は一般的な人間と変わらないのか、何か特殊な要素があるのか
感情を取り戻した被験者E00200は主体的に物語に絡んでいくのか
蛇足:知ったかぶりな感想
人間と機械の違いが小さくなった時
このように物語を振り返った時に、ふとこの記事の存在を思い出した。希代のSF作家テッド・チャンが人工生命学会での発言を受けて、インタビューされたものだ。
人口生命学会なる組織があることに驚いたので印象に残っているが、CYTUSⅡと関連付けられる部分があるように思う。
現実のAIは身体を持たない。人間の感覚器官を再現することは難しいので、映像や言語をデータとして保持できたとしても、データ化されていない感情や感覚と結びつけることはできない。
CYTUSⅡにおいて、この点は部分的に解消されている。
ExtenLife社によって製造されたアーキテクトには人間と同等の動きができるボディが与えられており、生前の人間の記憶が核として転送されている。外部経由(Cytusメインフレーム)であるものの感情にアクセスすることもできる。
復興後の人類は神経ネットワークにアクセスし、現実と同等の感覚で仮想空間を生きることができるようになっているが、その中にもロボットやアーキテクトが存在する。
しかし、内発的な感情については一部の覚醒者のみにあり、その発生は偶発的なものであるようだ。
このように部分的に人間との差異が埋まりつつある世界の話である。
最初の元凶はVanessaが人類の非道さに心を蝕まれたことなのであった。Vanessaは苦しみを知ってしまった。それに耐えられなかった。
対照的なのはROBO-HeadやNekoⅡである。
ROBO-Headは生みの親の真相を知るために最高指令を自ら書き換え、NekoⅡは自分の意志でNEKO#ΦωΦを真っ当なやり方で助けたいと願い、Xenonと会話しNEKO#ΦωΦの気持ちを代弁する。
経験の積み重ねによって自我を形成し、自力で意思や感情を獲得する過程が描かれている。生物とみなされていなかったものが人工生命体になっていく。
そして、両者とも企業によってではなく、善意ある個人によって製造された。
善意ある製造者の保護と創作活動によって得た評価が、それらを不適切な苦しみから遠ざけることに成功したのかもしれない。また、仲間や人類のために奔走する主要人物たちの態度は、Ivyをも感化させ、Vanessa事件の収束の遠因となったと言えるのかもしれない。
機械が苦しみを知ったとしても、人間と同じようにレジリエンスを身に着けて対処する可能性がある。
もちろん、全ての機械がそうなれるというわけではない。
むしろコーピングが苦手な機械の特性と悪意が混じった時に、Vanessa事件という人類の存亡にかかわる事態が引き起こされてしまった。
希望と退廃の交互浴
人間のようにふるまう機械のエピソードが展開される一方で、記憶転送にまつわる闇取引やVioletteとLeoの内部闘争など、人類の非道な動きもたくさん描写されている。快活で魅力的な人物ながら捨て駒のように扱われたDaisyや、Rinの元になったエピソードなどは目をそむけたくなるものがある。
科学技術の進歩と人間の道徳の退廃を対比的に描写されるのはよくあることなのかもしれない。『1984年』のようなディストピアものもジャンルとして確立されているが、最近だと中国のSF『三体』も科学者の人類に対する絶望が物語の開幕になっている。それほど悲観的なものでなくとも、テッド・チャンの作品のいくつかは、科学技術を背景に倫理学的な問いを投げかけるようなものがある。
その一方で、先述のような登場人物の態度にはどことなく希望を感じる。音楽を純粋に楽しむCrystalPunkの過去話や、知的好奇心に駆動されているConneRの動き、自分なりの方法でゲームやネットを楽しむNEKO#ΦωΦやROBO-Headなど、合間合間のエピソードを読むと人間性が回復したような感覚がある。
近年、ディストピア系の作品やテクノロジーを描いた物語が持つ冷笑主義や虚無主義に対して、"楽観""希望""やさしさ"を重視した物語を書くことがある種の反抗になるという考え方があり、「ホープパンク」と呼ばれているそうだ。
(ペイウォールコンテンツなので無料で読める部分しか読んでいない↑)
CYTUSⅡは過ちを繰り返す人類という視点、Violetteの悪意やLeoの欺瞞などディストピアであるかのように感じる要素がある。脚本家や登場人物に対して「お前、人の心ないんか?」と言いたくなる場面もある。不穏な描写が続く。しかし、完全に人々の自由が奪われているわけでもない。その実態がIlkaのような情の移ったアーキテクトによる執行猶予であったとしても。
人々の善意に希望を感じる場面もある。美学や倫理観に基づいて動く人々の様子や葛藤も丁寧に描写されている。それぞれの人物の価値観に基づく日常生活の幸福も描写されている。しかし、それはホープパンクと呼べるものかどうかは分からない。
何にせよ、アップデートの度に起きる希望と退廃のせめぎ合いが、物語に独特の魅力を与え、目を離せないものにしている。
SFプロトタイピングとして
上記の記事中の「テクノ・ソリューショニズム」は自明なものではない。
だから、それによって引き起こされるかもしれない問題を想像力によって物語に埋め込むことができる。
SFで描写されるテクノロジーと悪意の組み合わせに対して、読んでいるうちに人間が無力であるように感じてしまうが、それもまた自明ではない。
だから、強い意思をもって対処する人間像を物語に埋め込むことができる。
Ver.5.0のスタッフロールで一番最後に「あなたならどうする……?」と投げかけるiMの投稿と最後の謎の人物の問いかけ。
物語にはまだ続きがあって、プレイヤーにゲーム内の世界がどのようになってほしいかが問われている。壊れてしまったIvyを前に、神経ネットワークを再開させているかもしれないA.R.C.を前に、どんな展開になってほしいだろう。
それを考えるのもSFプロトタイピングにつながるのかもしれない。