佐藤先生に教わったこと-#05
このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。
佐藤先生は、研究室の他にも、「表現方法論Ⅰ(ルール)」「表現方法論Ⅱ(トーン)」という授業を持っていました。
大講義室が満員になる人気授業。
「ルール」の授業は、主にCMプランナー時代の仕事を中心に事例にしつつ、「作り方を作る」という表現領域以外でも社会で役立つ授業になっていたのですが、「トーン」の授業は、先生の電通時代後期からI.Q.以降の表現や世界の古典・先端表現をもとにした、かなり表現に寄った授業になっていました。
(ルールとトーンの話は、また今度くわしく。)
「トーン」の授業では、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリーの映像を佐藤先生が解説してくれるなど、映像もたくさん見ました。
これはそんな授業の一コマの話です。
*
「黒澤明監督の椿三十郎にこんなシーンがあります。」
(映像見る:若侍たちが襲撃を決行する。3箇所に散り、それぞれの地点から3.4人の若侍が、素早い侍走りで左に右に屋敷の壁に添い、走り抜ける。)
「この映像を見たとき、妙に気持ちいいな、なんだろうこの気持ち良さはと思ったんですね。もう一回見てみましょう。」
(映像見る)
「ここです。もう一度。」
(映像流す、止める)
「ここ!」
「わかりますか?画面の右から左に3人の若侍が走り抜けますね、右からこうきて、先頭の侍の胴体が左端のこのあたりに到達したときにーーー、カット切り替え!今度は左から右に若侍たちが走り抜けて右のこのあたりに先頭の侍の胴体が到達したときに、カット切り替え!」
「カット切り替えのとき、右から左へ走る侍の胴体のエンド位置と、カット切り替え後左から右へ走る侍の胴体のスタート位置が、ピタリと一致してますね。」
(もう一度映像流す、止める)
「ほら、もうピッタリですよね。左から右にいったときにもーーー、ここ!こちらの右側での切り替えのときも胴体位置がピッタリです。もしアイトラッキングしたら、ダー、カッ、ダーっとかなりクッとこう直線運動になるはずです。僕はこの独特な気持ち良さを「視線の往復ビンタ」と名付けました。」
「視線誘導の方法やカット切り替えの気持ち良さの手法をたくさん持っておくと、編集のときに役立ちます。次は、姿三四郎の時間演出についてです。」
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