見出し画像

佐藤先生に教わったこと-#10

このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。

gggでの展示を控えた春。
山口情報芸術センター、通称YCAMでのこと。
YCAMのエデュケーター合田大也さんに依頼を受けて、佐藤研saltは「時間の積層」というワークショップを行いに行きました。

そこでは、YCAMのとなりのNHK山口支局の7階屋上から黒い棒を自然落下させて棒を見切りギリギリで撮影し、それを紙に出力して積層、つまりパラパラマンガにすると、そのパラパラマンガの側面に黒い棒の端っこが放物線になって現れるという実験をしたり。(高校の物理の挿絵というか連続写真とかで見るやつですね、それのちょい大規模のやつです。)
はたまた、「おいしい牛乳の容器」をグルッと回しながらスリットカメラで撮影し、スリットに現れた像たちを横方向に積層するとグニャリとした「おいしい牛乳の容器」が出現するという実験などを行いました。(注:リプチンスキーの映像手法を参考にして)

そんな「時間の積層」の様々な実験を三班に分かれて行いました。
そこでの一幕です。

星の班は、放物線の自然落下(NHK7階)とトンカチの放物実験(YCAMの広庭)でした。
先に放物線の自然落下を撮影して、そのあとトンカチ放物の撮影、そしてその撮影素材を持ってワークショップ拠点に移動し、パラパラマンガ製作とトンカチ実験のモニターでの確認作業を行うという、もりもりの段取りだったのですが、その中でのトンカチ放物の撮影のときのことです。
トンカチを放物すると一見複雑な軌道を描くように見えますが、重心だけをプロットすると見事に放物線を描いている、ということを高校生たちと確認したいというワークです。
段取りにやや追われていた星は、トンカチの放物が、「うん撮れたな(ちょっとだけタイミング感が微妙だったけどまぁ許容範囲だろう、ここは切り上げよう)」と高校生たちにオーケー!と言いました。
それを佐藤先生がたまたまなのか、少し離れたところから見ていたんですね。
「ちょっと待ってください、星さん。」
「映像を見せてください。」
(DVカメラの小さいモニターで、星オーケーテイクを確認する先生)
「・・・」
そして、僕の方を向いてこう言いました。
「星さん、これではダメです。この映像、この場が済めば、このワークショップがとりあえず成立すればオーケーだと思っていませんか?」
「たしかに今はワークショップ中です。ですが、この映像は、この映像を使ったワークショップは、記録されるものでもあるのです。この場かぎりではなく、時空を超えて、この場にいない誰かに届く映像でもあるのです。」
「80点の映像を未来に届けてはダメです。100点にしてください。星さん、その20点の粘りですよ。」

実際このときの映像は、その2ヶ月後にgggでの展示でも使われましたし、YCAMの記録映像でも、地元NHK山口の放送でも使われました。
そして何と言っても、星の卒業制作「日常にひそむ数理曲線」において、先生が解説してくれた、まさにその文の解説図に使われたのです。今でもその図を見ると現場での先生の顔が浮かびます。
先生はアーカイブの大切さを様々に伝えてくれました。
先生がまだ電通SP局にいた1980年ころ、メディアアーティストの藤幡正樹さんとソニービルで展示を行ったそうです。そこではピタゴラ装置の原形ともいうべきものが展示されていたのですが、展示のアーカイブ写真が残っておらず、後世、そのことを説明しようにも証拠がなかったり、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンの二番煎じだと揶揄されたり。
つくるものはその場かぎりでなく後世に残る。むしろ後世に残すことまでがその場の責任。後世に残るようアーカイブしなさい。その視点を持った設計と現場での粘りをしなさい。そう何度も叱られました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?