井本響太 藤元高輝 ギターデュオコンサート 解説 J. フランセ : 2つのギターのためのディヴェルティスマン
2023年 8月5日 井本響太さんとのデュオコンサートために、noteで随時プログラムノートを公開します
以下、井本響太さんによるフランセの解説です:
Divertissement (1981) Jean Français (1912-1997)
ジャン・フランセはフランスのピアニスト、作曲家である。彼は音楽一家に生まれ幼少の頃から両親により音楽教育を受け、10歳になる頃にはナディア・ブーランジェに師事する。ナディア・ブーランジェはフランスの音楽教育者であり、後に新古典主義を推し進めていくことになる多くの作曲家を輩出している。フランセもその1人で、自他ともに認める新古典主義者であり無調や形式の廃絶、セリエリズムからは距離を取り続け、伝統的な調性システム、機能和声、リズム、古典的な形式の中で新たな色彩や効果を求めた。この様な新古典主義への傾倒はナディア・ブーランジェからの影響だけでなく、イーゴリ・ストラヴィンスキー、フランシス・プーランクとの出会いも大きな影響を与えたであろう。
彼のレパートリーはピアノ曲が多数を締めているが多くのジャンルの作品を残しており、それは映画音楽にまで及ぶ。彼の音楽語法は一貫して新古典主義的であり、エマニュエル・シャブリエやフランス六人組の系譜を継いでいる。
今回演奏するDivertissmant(嬉遊曲)も例に漏れず混じりっ気のない新古典主義的な様式で書かれている。
この曲は四つの小品から成りそれぞれ
I. Entrée (急)
II. Elégie (緩)
III. Madrigal (緩)
IV. Rondeau (急)
となっている。組曲形式を採用し、全体の速度の配置から見ても新古典主義の源流であるイタリアバロックを思わせる。
第一曲、Entréeでは冒頭一小節目から2つの対象的なモチーフが同時に鳴らされ華やかに曲の始まりを宣言する。2つのモチーフは三連符のリズムにより上手く統合され発展を繰り返し最後には踵を返すように突然消え去り曲は終えられる。
第二曲、Elégieは高音のAのハーモニクスからダイアトニックでDまで降りてくる繊細なモチーフから始められる。この曲は一貫してメロディと伴奏といった至極構造により書かれているが、拍子は少々特徴的で五拍子と三拍子を自由に行き交い、これにより独特の浮遊感を得ている。
第三曲、Madrigalはルネサンス期イタリア発祥の短い歌曲の事を指す。この曲では滑らかな旋律線と凸凹な印象のある跳躍を多く含んだ伴奏形の対比が光る。更に調性よりも旋法が全体を支配している点も大きな特徴であり、それによってルネサンス期の音楽を思わせるような薫りを纏った作品となっている。
第四曲はRondeauである。Rondoではない。半音階で急速に下降と上行を繰り返すのが特徴で、かなり疾走感を感じることが出来る。スタッカートとスラーの対比に加え、ダイナミクスの急激な変化が目まぐるしく繰り広げられ息つく暇も与えられずに音楽は朗らかに、しかし確信をもって圧縮され続ける。中間部では圧縮されたエネルギーを開放するかのように大きな跳躍を含んだ旋律線と伴奏形により姿を変えようとするが、再び現れる半音階の下降形により元のキャラクターへと引き戻されその勢いそのままで曲の終わりまで駆け抜ける。
井本響太 藤元高輝 Guitar Duo Concert
場所:現代ギター GGサロン (要町)
日時:2023年 8月5日 19:00開演
一般/前売り/当日:3000円/3500円 (学生/1000円)
プログラム
F. ソル : ロシアの思い出 op.63
M. ジュリアーニ : ポプリ op.67
J. ハイドン : 交響曲「ロンドン」より第一楽章 (F. カルリ編)
A. ジョリヴェ : セレナード
M. ガンギ : イタリア組曲
J. フランセ : 2つのギターのためのディヴェルティスマン
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?