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01_極私的梅毒展②ふりかえり

「極私的梅毒展」の第1回目は、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaで開催させてもらった。ゲイコミュニティに向けて伝えることを目的としていた。次いで第2回は、ゲイコミュニティを飛び出し、縁のあった中目黒のギャラリー&フリーペーパーの店Space Utility Tokyoで開催。

梅毒展を目的としない、ふらっと訪ねてくる人が多いのが第2回の特徴だった。敢えて言うなら異性愛者の割合が多い(確認してないのであくまで肌感覚として)。来場者とのコミュニケーションから、梅毒という性感染症が、今の日本でもたれているイメージやその特徴・課題を探ってみようと思う。

そして、それを次回以降の「極私的梅毒展」の伝え方のヒントへつなげていければいい。かつて目にした「一ミリを進める」という好きな話を紹介しよう。

活動家の湯浅誠さんが、「こども食堂」に対する思いを語った「一ミリを進める」という文章を抜粋してここで取り上げよう。

私たちは「これさえやれば万事解決」という万能の処方箋があるかのように夢想するほど世間知らずではない。
世の中は「隅のないオセロゲーム」のようなものだ。一つのコマ(石)を変えさえすればパタパタと他のコマもひっくり返るような隅があれば楽だが、そんな隅はない(あっても事後的にしかわからない)。重要なのは、一つ一つのコマを返すこと、一ミリを進めることだ。

「こども食堂を一つ開設して、一〇人の子どもが来た。それでいったい世の中の何が変わるのか」と言う人はいるだろう。言わせておけばいい。その一〇人の子どもたちにとって、世界は「こども食堂がない世界」から「こども食堂がある世界」に変わった。そこに意味があり、価値がある。
夢想では世の中は動かない。夢想と理想は違う。理想は、一ミリの方向性を指し示すとともに、その一ミリに意味と価値を与え、一ミリを肯定する。対して夢想は、その一ミリを批判し、軽視する。一ミリに対して「もっと大きなこと」「もっと重要なこと」を対置したがる。そして批判を通じて何か(自己かもしれない)を顕示しようとする。理想は一ミリを肯定し、夢想は一ミリを否定する。

私は、実践家の態度は、理想の側にあると思う。だから「限界」のあることをおそれる必要はない。すべてに限界はあり、限界があるから次の一ミリが見え、そこに歩を進めることができる。理想は進み、夢想は進まない。一ミリを肯定し、次の一ミリへと踏み出そう。それが課題を解決していく。

「社会的処方」より

もちろん、僕は何か信念を持って現場で実践する活動家ではなく、ただのデザイナーだ。「伝える」ことにちょっとこだわりが強い。「1ミリを進める」は、「極私的梅毒展」で在廊する中で、まったく興味を持たずスルーして展示に背を向ける来場者に、幾度となく心折れた時にふと思い出した文章だ。

2月〜3月のaktaでの展示を見に来た、都外からの女性。興味があって一度検査を受けてみたいと思っていたが、地元の保健所だとなかなかタイミングが合わないという。東京都新宿東口検査・相談室を紹介した。都民でなくても匿名・無料で検査を受けることができる。「4月に実際に行って来ました」と先日連絡をもらった。展示を通して「検査に行こう!」と伝えたいという訳でもないけれど、ひとつのキッカケにしてもらえたのはとても嬉しい。たったひとりだとしても。


◉前提として-僕の極私的なこと

「極私的梅毒展」開催にあたって、自らのセクシュアリティを開示しないとコレを説明しにくい局面が出てくる。
aktaでの展示をキッカケに、“不特定多数へのカミングアウトをどうするか問題”が出てきたのだ。分かってはいたが、親しい友達へのカミングアウトとは違って、まったく知らない第三者に知られることの、漠然とした怖さを勝手に感じた。コレが目に見えない“世間”ってヤツか。

ゲイであることは、隠しているわけでもないがオープンにしているわけでもない。宙ぶらりんにしている。どう思われてもあまり気にしてないが、Twitterのプロフィールに、虹アイコンを入れる勇気はない。基本的には、自分が思っているほど他人の人生を気にしてる人などいやしないのに……。

ということがひとつ乗っかる。


極私的梅毒展1(コミュニティセンターakta/新宿)
2023年2月17日〜3月5日
オレンジのカードは性感染症に詳しいプロからのアドバイス。水色は来場者からのコメントなどを期間中に追加しながらアップデートしていった。
梅毒になった親友ふたりの完治までのドキュメンタリーを半立体のインフォグラフィックとして厚紙でつくった27cmの箱に詰めたものが並ぶ。
普段はテーブル・イスがあるフリースペース。展示、イベントなどが行われる。
HIV・セクシュアルヘルスに関わる情報発信を行う全国5箇所にある拠点のひとつ。毎週金曜20時からは、ゲイバーにコンドームや情報を届けるデリバリーボーイズというボランティア活動も。普段入りにくいゲイバーに気軽に入れるというのもポイントかも。


という前段で、01は終わり。
極私的梅毒展ってなに?は、第二回の会場Space Utility Tokyo(通称SUT/エスユーティー。僕は勝手に勘違いしてサットと呼んでしまい、以降、そのくせが抜けない)のHPをご覧ください。こんな充実したページを作ってもらってありがたい限り。BASEショップでは、展示内容を余すことなく伝える図録ZINEやPOSITIVE HEALTHキーホルダーもご購入いただけます。

▼SPACE UTILITY TOKYO「極私的梅毒展」
https://www.space-utility.com/kokemaru-syphilis

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