2021's VOCALIFEを浴びました。
サムネイル撮影:めさん(@mememe_me_me)
ご挨拶
この度、初めてnoteを投稿させて頂きます、苔氏(こけし)と申します。普段はニコニコのタグ検索から全曲チェックを目指しつつ、特に気に入ったボカロ新曲について、Twitterにて感想&紹介を兼ねた文章を残しております。2021年中は結局noteに手を出す気概の入り切らないまま過ぎてしまったのですが、"初のクラブイベント参加&初のDJ"という体験を自分の中で風化させるまいという使命感のもと、このnoteは生まれています。
今回参加させて頂いた『VOCALIFE』、参加のきっかけは『マジカルミライ2021』のオンライン配信後に主催のもなか最中さん(@minaaa1267)からお誘い頂いたことに始まります。先述した通り、僕は2021年の新年からボカロ全曲チェックを始めており、言うなれば"全曲チェッカー枠"...としてお声掛け頂きました。僕はその時酔ったままの勢いに押された訳でもなく素面でしたが、シンプルに光栄なお話だったため二つ返事で了承しました。
改めてになりますが、僕は今回がDJデビューとなります。更に言うと、僕は長野県の山間、今回ボカライフの開催された『nagomix渋谷』の位置する東京までは最短でも4時間を要する田舎在住の民の為、本当に当初はDJmixのみ現地にお送りする形での参加、という予定だったのですが…今回もなかさんの強大な力により、以上の諸問題を乗り越えて、無事に現地でのDJプレイが叶ったのでした。(その節は大変お世話になりました、ありがとうございました...!)
こうしてDJデビューが決まった訳ですが、次にあたった問題は「セトリってどう作るんだ...?」という最もシンプルかつ、DJの根幹にあたる問題でした。クラブイベント初参加であった僕にとって、過去の経験から参考に出来るものと言えば、一時期よく観ていた『歌ってみたノンストップメドレー』くらいなものでした。そんな迷いの中、周りの有識者からは「好きなようにやっちゃって下さい!」との後押しを受け、僕はその言葉通り純粋に好きな曲から選択していき、その曲を中心に自分のやりたい事を明確にしながら、最終的に以下のセトリへと落ち着きました。
セトリ紹介
Track1-0:ソング01 / ごはん
記念すべき初DJでの一発目の音であり、あくまで自分の中では「0曲目」という認識の楽曲。そして、僕が2021年"最も愛したボカロ曲"でもあります。究極的にアンビエントな音造りに身も心も包まれながら、そこに表現されるのは、これもまた究極的な人間の欲求...言葉では語らない、DJ特有の音楽敵表現を存分に繰り出せる楽曲であったと、今となっては思います。
歌唱する初音ミク自身に『食欲』が存在するか…その認識は人それぞれだとは思いますが、このような人間にとって普遍的な概念を初音ミクが歌うことこそが、ごはんさんにとって最もその概念を透明なままに伝える手段であったのだと、個人的には推察しています。この点において、自分の経験の中では未だかつて浴びた事の無い感動として、強く印象に残っております。かける想いとしては尚早なのかもしれませんが、この動画が生涯大切にしたい作品の1つとなった事は、自分の意志として自信を持ってお伝え出来ます。
Track1-1:燈に謳う / つばさ
『ソング01』半ばから、フェードする形で入った(実質)1曲目。豊かなバンドサウンドを以て、開放的なスケールで展開されるポップロックが、僕は本当に好きなんです。2000年代に流行したレミオロメンやMr.Children、スピッツ…この辺りの系統が近いと思います(15歳ほど年上の兄が、実家に残していたCDがきっかけです)。この曲を1曲目に置いたのもまた、以上のアーティストのアルバムの影響が大きいです。
ーカッコいい人にはなれないけど それでもそれが本当の僕だから
惨めに足掻いて醜くとも それでいて美しいと思えるんだ
本楽曲のつばささんは現在20歳初めとの事で、同世代の僕にとって、つばささんのこの清い言葉は何よりも真っ直ぐに刺さりました。20代に突入して、ありのままの自分自身を受け止めるべき時期だと思いつつも、どこかで自分を誤魔化しながら生きる、そんな場面は絶えず直面するものです。自分の真に"好き"だとその時々に思えたものこそ己を形成する一生涯のものであり、その事を受け止めたこの歌詞は、どこまでも清く未来に向いています。つばささんの生み出す強い「風」を受けて、このセトリは歩みを進めてゆきます。
Track1-2:keli / ◈*ゆくえわっと
「2021年は◈*ゆくえわっとさんの年!!」と息巻いて流した一曲。今回流れた曲は『keil』のみではありましたが…実際、2021年の投稿曲は11曲と大変母数が多く、どれを選曲するかという点で、かなり悩ましい所ではあったと思います。そんな中で、今回僕はボカコレ2021春からの選曲となっております。
1月22日投稿の『回生』以降、◈*ゆくえわっとさん独自の緊張感ひた走るポップススタイルや、多彩なUTAUを用いたコーラスワークなどが認知を高める中で投稿された本作。胸の鼓動の描写から荒野に咲き立つ桜の躍動感へ、一挙にスケール感を拡張しながら展開される、従来の「和風ポップ」に風穴を開ける力作として、ボカコレ2021春ではルーキーランキングの7位にランクインしています(ボカコレ秋の作品『よろろ』も、同じく7位に位置付けております!)。
Track1-3:みにくいケモノ / 沢田凛×一筆かもめ
沢田凛さんのミク、一筆かもめさんのウナによるデュエットソングであり、数少ない「VOCALOID百合曲」のタグが付いている動画でもあります(現在累計300ほど)。
ーこのまま瞳孔の中身まで全て見せてもいい。
日々掻き殴った愛の音、
したいようにしたいように
ーくだらない愛し合いで傷を付け合って舐め合う日々の繰り返しで
ひとつずつ失ってゆくのに気づかないふりをして、
前者:ウナパート、後者:ミクパート。それぞれ一筆かもめさん、沢田凛さんの歌詞…というように僕自身は考えていますが、この「衝動」と「妄執」の対比が実にお二人の個性を体現していると強く感じます。その個性はサウンド面にも強く表れており、軸となる沢田さんの湿った音質に、かもめさんによるギターのカッティングがドライな印象が重なる事で、この楽曲の空気感は匂いにまで刺激を与えるような次元に引き上げられます。この対比により帰着する所はまさに"愛"であり、更にその奥底にある人間的な不完全さに迫る、聴けば聴く程に感情の深まる作品だと思います。
ボカライフに向けての話をすると、セトリを組む際にこの楽曲を最初に据えて製作していった記憶があります。一方で、この楽曲は歌唱パートがイントロからアウトロの入りまで途切れる事無く続く構成であり(これこそがまさに"沢田節"なのですが)、実際にDJプレイの一部として組み込む際にはかなり思案を巡らせるポイントでした。
Track1-4:ポップカルチア / 七紙
決して途切れる事の無い自問自答を繰り返す、焦燥に満ちたファンクナンバー。消費を繰り返すポップスをテーマに、どこか不気味ながら自省的で、一貫してクールなサウンドが印象的です。
この楽曲を採用するに至ったのは2022年明けて1週間頃、年末年始に何回か地元の友人と遊んだ余韻につけてヒトカラに行った時の事です。曲間で流れるJ○YSOUND等の特別番組の中で、丁度『CITRUS / Da-iCE』が流れるタイミングがあったのですが、その瞬間
「この文脈は回収しなければ!!!」
と思い立って、半ば衝動的にこの楽曲を組み込んだ、という経緯があります(この後家に速攻で直帰した)。
『CITRUS』は2021年のレコード大賞受賞曲であり、その作曲に関わられた方こそがこの七紙(作曲者名義:中山翔吾)さんなのです。
『ポップカルチア』には、自分自身の作品がポップスの第一線に迎合する中で、絶えず渦巻く情念のような生々しさが満ち満ちており、まさに創作者の意志を体現した楽曲になっています。この意志は即ち負のエネルギーでありながら、確かに七紙さんの創作の熱量として現れていると感じます。その熱量を生のまま感じて頂きたく、今回この楽曲をお届けしています。
Track1-5:上町台地 / 夜行梅
前曲のグルーヴ感を引き継ぎつつ、今回共にボカライフに出演された駱駝法師さんも意識しての「ボカロラップ」枠です。全てがサンプリングによるチルアウト的なトラックに、4声のVOCALOIDによるマイクリレー形式で展開していく本楽曲の中では、上町台地の街並みを縫って歩く中で、ふと目に留まった風景や心に浮かんだ印象をそのまま書き散らしていくようなリリックが特徴的です。
僕自身は「ラップ」というジャンルに関して詳しい事は何も言及出来ないのですが…この楽曲について特に感動したのは、様々なVOCALOIDをリレー的に用いる事で立ち現れるライブ感です。VOCALOIDの"存在感"のような概念は、特にボカロのライブイベントに参加した事のある方は感じた事が多いのかもしれませんが、未だそういった経験の無い僕でも、この楽曲からは"生きたVOCALOID"の、音楽と共に街を練り歩く姿を克明にイメージ出来たのです。詰まる所、ボカロの存在を認識する為の最も有効な手段はボカロ曲なのではないかと、最近改めてそう思います。
Track1-6:その電車、中津止まりにつき / メガ ナガメ
当初から入れようと考えていたメガ ナガメさんの楽曲の中でも、前曲の『上町台地』から"御堂筋線繋ぎ"が出来るこちらの選曲となりました。
動画も含め、メガ ナガメさんの楽曲を浴びると「聖地巡礼、してぇ~」という衝動に駆られる事が往々にしてあります(駆られるだけです)。特にこの楽曲については、1本の電車が繋ぐ遠距離恋愛がテーマになっている事もあり、次第にイラストの中津駅のような温もりが恋しくなっていく…見知らぬ土地に想いを馳せるとはこの事か、と実感させられます。
そんな温もりに満ちた本楽曲ですが、王道のポップソングながらサウンドはEDM方面の要素も色濃く出ており、いわゆる"箱鳴りの良い"、"強い"サウンドなんですね…。これは自分でプレイして初めて気付いた事であり、思った以上に「この空間を掴んだ感覚」が認識出来た瞬間でした。
Track1-7:リリカ / short
前曲から夕方が迫るような雰囲気を匂わせながら、このセトリは一旦大団円へと向かってゆきます。祭囃子の遠のく中で、常世の闇に誘い込む声を聞く…高揚感と妖しさの混じる和風ロックです。音源で聴くと、左右から誘うように呼び掛けるパートは鳥肌ポイント。
この楽曲は、自分の中では「可不曲枠」として位置付けています。そう、2021年と言えば可不の年!というのは言うまでもない事なのですが、自分の好みに従順にセトリを組んでいった結果、気付いたら完成間近まで可不曲が1つも無かったんですね…怖いな~怖いな~と思いつつ、何とかこのピッタリハマる選曲を出来たので結果的には無問題です。
好みの可不曲は山のようにある中で、可不曲のみでセトリを組む構想もある位だったのですが、今回は僕の構想と合致しなかったという事で、ここは一つご理解願います(?)。
Track1-8:はりぼてのパレード / 雨の介
前半を締め括る雨の介さんの楽曲。突き抜けた明るさと、黄昏時を望む寂しさの共存するポップソングを、しっかりとフル掛けでお送りさせて頂きました。
2021年の雨の介さんは、『はりぼてのパレード』含め3曲新曲を出されまして、他2曲に関しては特に雨の介さんの手数の多さを感じられるロックナンバーでした。そんな楽曲群の中でも、僕はこの『はりぼてのパレード』が群を抜いて好きなのですが…個人的な最推しポイントは、2番後のインターリュード、動画では2:43~の部分です。シンセの特に強烈に効いたこのパートにかけて、雄大な明るさに包まれたパレードに影が差し、「孤独のプレゼント」と共に一時の夢から覚めていく…その一連の流れは宛ら小説のような情景の移行の上に成り立っており、圧倒される没入感と感動がそこにはあるのです。
アウトロ終わりまでその展開を引っ張った後、若干の緊張感を会場に浮かべながら、セトリは円盤のA面-B面を切り替えるように移行します。
Track2-0:invisible clockwise / さけ(みどり)
静かな立ち上がりから、1分間の浸れるフロウを残してまた静かに過ぎ去っていくLo-fi music。
セトリの中心に置かれたこの楽曲は、このセトリに込められた"人格"をガラリと変える役割を担っています。前半は様々な方向性のポップさを打ち出しながら大団円で幕を一旦閉じ、この先は対称的に、自ら深淵へ歩みを進めるような方向へ向かってゆきます。
(あらゆる楽曲を繋げてしまう、言わばチートのようなトラックでもありました...)
Track2-1:アプリコット / いよわ
2021年、間違いなく飛躍的な活躍を遂げたいよわさん。限りなく複雑でありながら、誰よりも積極的にポップさを追求し続けた作品群の中でも、個人的に最も衝撃を受けたこちらの選曲になりました。
決して逆らえない時間の流れに支配される我々は、最も新鮮なその時々に残してきた「想い出」さえ容易く風化させてしまう。それは一見残酷なように思えて、実際我々には、手にしてきた物事から未来に蓄えられるものを選択していける程度の時間的な余裕がある筈なのですが...少なくとも『アプリコット』の少女の周りでは、目まぐるしい時間の経過が起こっているように思われます。
ー大人になるだけの日が来るでしょう
正確には、"大人"になった瞬間から時の流れは加速し、想い出の一つ一つが"ゴミ"で満ちていく。時の残酷さだけが残された少女は、MV中で象徴的な鏡を割る行為を起点に、自らの愛した世界に閉じ籠ってゆきます。MVや初音ミクの調声の変化から克明に読み取れる成長の様相、しかし凋落を描くかの如く不安定なリズムアレンジなど、"いよわ節"の真髄を惜しげもなく示した傑作です。
Track2-2:縄に噛まれた / 負二価-
前曲の閉塞的な世界観に引き摺り込む轟音のインターリュードから、この上無く煮詰まった「感性の反乱β」へと繋げてゆきます。一応『アプリコット』にも感性の反乱βタグが付けられていて、人それぞれに委ねられた「反乱」の感覚が表れています。
この曲の最たる魅力は、歌詞とメロディーの不均衡にあると考えます。文法的な秩序から外れた言葉の羅列が、そこに含まれる「意味」という名の鎖に繋がれて、言葉の引き出しから溢れるように雪崩れ込む…この曲の印象を言語化するならばこんな所でしょうか。
この動画の作詞曲、映像まで全て担当されている負二価-さんは、中国出身のボカロPである事を公言されています。その事もあり、歌詞における日本語の中には誤りも多く含まれるのですが...それを加味して映像と共に歌詞を追っていくと、そこには確かに明瞭な情景描写と、整然とした「文脈」が浮かび上がってくると思います。首筋に噛み付くような忍び寄る緊張感の纏わる存在に、現世ならざる次元へと引き摺り込まれるような、新感覚の世界観に一度は陶酔してみて下さい…!
Track2-3:blossom / SIRIUS
お察しの通り、「感性の反乱β」ゾーンが続いてゆきます。ジャンルとしては"IDM(intelligent dance music)"という、自分としては初見のカテゴリーでした。ボカライフ後に調べた中では、Wikipediaの「必ずしもダンスフロア向けではない」という文言に驚いたのですが…この曲中ではドラムンベースも特徴的であり、聴いた方々もアガるタイミングみたいなものは分かりやすかったのではないかな…というのが個人的な所感です。
前曲と同様に、作者のSIRIUSさんは中国出身のボカロPです。負二価-さんとSIRIUSさんの、形式に捉われる事の無い音楽的な精神性は、感覚的ですが近しい所で息吹をあげているように思います。その上で、SIRIUSさんはより端正に、完成された表現の中で新鮮なアプローチを打ち出してゆきます。密度の高い音像の中で、最低限の歌詞によって紡がれる無量の情緒は、"春の訪れ"として高い解像度で実感されます。あらゆるアプローチから感覚を刺激する音楽の世界は、DJとして繋がりを見出す事によって、また新たな体験に自分自身を導いてくれるような感覚がありました。
Track2-4:Zeits. / GESO
2021年デビュー、リスナー界隈でも注目度の高いGESOさんの2作目。再生数的には初投稿の『ホロイ』の方が高いですが、聞く所によるとTwitterでなうぷれ(通称#NowPlaying)される頻度は、こちらの『Zeits.』の方が多いんだとか。実情はともかく、ボカロリスナーの好きな音をしている事は、紛れもない事実だと思います。いかがでしょうか(問い掛け)
投稿された時期は夏の真っ只中で、本作にもその焼き付くような空気感が、現実を何倍にも拡張したようなスケールで表れています。この曲の魅力は、常に新鮮な驚きを味わえるような展開力にあると考えます。曲中では0:45〜1:00で、音圧を高めていく1展開を見せてから、直後静寂が訪れます。その静寂はおよそ20秒間、呟くようなGUMIボーカルによって虚ろな感情を残した後、本作の盛り上がりに向けて一気に波を強めていきます。
ーこのままやめてしまおう
ゆれてく なみにしずむ かげがとける
盛り上がりを越えると、楽曲はインターリュードを抜けて再度落ち着きを見せます。そしてその直後、2:30~からボーカルが鏡音リンに切り替わる瞬間が、個人的に本作最大の鳥肌ポイントだと思います。本作において鏡音リンが歌唱するのは、ほんのワンフレーズ。
ー今 やりなおせたとしても
変わらない 景色だけ
このワンフレーズを皮切りに、楽曲は盛り上がりの頂点へと向かってゆきます。この動画のMVに視える光景とは対称的に、楽曲の世界観は常に闇に包まれているのですが…ラストのパート、正に鏡音リンが声を発した瞬間から、世界は一気に「あさやけ」へと開いてゆきます。しかし、そこに浮かぶのは希望では無く、肥大化し続ける無力感のようなものだと感じます。朝焼けを見据えながら呟く「もう だめだ じゃあ」の一言は、絶望感の支配する淡い光へと聴き手を包んでゆきます。
この時間帯になると、僕自身もだいぶ情緒が混迷していて、既に魂が半分持っていかれていた記憶があります。こうしてハイになっている間が、DJしていて一番楽しい瞬間なのかもしれない(危険な思考)
Track2-5:幽霊 / KAIRUI
眩い光芒の中を抜けて、辿り着いたのは天界だったようです。
___少なくとも、この曲の瞬間自分の意識は現世ならざる場所へ置き去られていたと思います(客席からシャンパンが飛んできた事で我に返りました)。
ジャンル的にはエレクトロニカとも、アンビエントとも、あるいは先述したIDMとも認識出来る、中間の響きで鳴らされるサウンドは、究極的に幽玄で、自然的な感覚と一体となって鳴らされます。
ー見える限り 美しい形探している
この曲に関して詳細に語り尽くすには、自分はあまりに力不足で、いざ目の前にすればただ膝を着いて祈りを込める事しか出来ないのですが…自分が行き着いた結論の一つは、この曲もまた『幽霊』のように、自分の在るべき姿を探し求めてこの世に放たれた、特異的でありながら、ある種の孤独を含んだ存在なのではないかという受け止め方です。透明の中に、既存の表現で語り尽くせない程の情報を含んだこの音楽こそ"世界"であり、我々の立つ場所なのだろうと、DJとしてサウンドの中心に立った時に疑いの余地無く実感しました。『幽霊』の前に、自分という小さな存在は屈するしかなかったのです…。
Track2-6:モネ / cat nap
ピアノの旋律1本の入りから、現実感を揺り戻すような繊細な調べが颯爽と吹き抜ける一曲。一滴の澱みもないその音の騒めきの中で、駆け出すようなバンドサウンドを起点として、聴き手の世界観は「アルジャントゥイユ」の眩むような陽光へと吸い込まれてゆきます。モネが芸術家人生の一端を預けた地に咲き乱れる『ひなげし』を追って、音楽体験が"鑑賞"の次元へと昇華されていく、そんな感覚に満たされていく作品です。
ミクさんとねこむらさん、2種のボーカルから織り成されるライブ感もまた充実しています。1:40〜あたりの、"デュエット曲"ならではの演出が心底良くて...ミクさんの歌唱を追うようにして入るねこむらさんのコーラス、こんな事も出来てしまうのか...!という驚きがありました。VOCALOIDと人間との境界がふっと解ける瞬間、それはこういう体験の事を言うのだな…と。
このような曲こそ、是非ライブで浴びてみたい。僕の地元にもある位の、席数300程度のキャパで開放されているコンサートホールを想像して、そこに初音ミクという存在がボーカルだけでも降り立つ事を考えると、少しゾクッとしてしまいます。僕自身、アーティストのライブにも1度も参戦した事が無いものですから…基本的にこういった、クラシック的な要素のある音楽がボカロライブにて演奏されるイメージはあまり無いのですが、もしそのようなイベントがありましたら、気兼ね無くお誘い頂けるとありがたいです。
Track2-7:Twilight Kids / RED
セトリの終盤を飾るのは、REDさんによるEDM×ロックの、洋楽的アプローチによる融合作品(動画内のアニメーションもREDさん制作で、アメリカンコミックス的な、線の濃いタッチが特徴的です)。YouTubeの方は、ボーカルKYOさんとのユニット『PYROKINESIS』による人間歌唱ver.になっています。様々な種類の緊張感が渦巻く楽曲群を抜けて、最後は大団円のアンセムで締め括る…多分これが一番気持ちいいと思います。
ー君が生まれた日の空はきっと 今日と変わらずに美しいだろう
だけど誰もが空を見たりして 過ぎたあの日に戻りたがるんだ
この歌詞から始まるサビの、1つ1つが重く、かつ前進を続けるように軽快なギターのフレーズに、初見の瞬間から心を打たれ続けています。我々の抱える不安というものは、その対象は常に未来へ向いていながら、その起点を成すのは人それぞれの過去の経験だと思います。輝いていたはずの過去を思い返す事で、相対的に今、そして未来を暗く捉える…切なくも人間的な思考の形です。だからこそ、この歌詞を乗せたどこまでも開放的なサウンドは、"今"を最も輝かせる聴き手の存在を肯定し、見果てぬ未来を恐れず進む力に変える、期待に溢れた音楽として届いていたと思います。
Track2-8:ソング01 / ごはん
…という訳で、真の大トリを飾るのは『ソング01』、2回目の登場です。動画中、1:25〜から始まるエンドロール的な演出に着想を得て、今回VJを担当して頂いたえいやんさん(@eiyan98)にも協力を仰ぐ形で実現に至りました。
エンドロールの最中流れている映像は、ごはんさんによる↓の動画『cheeseburger』として単体で視聴可能です。この他、『ソング01』の中に登場する小さな映像はごはんさんのYouTubeチャンネルにて、多彩なインスト曲と共に上がっておりますので、是非一度足を運んでみて下さい。ごはんさんの表現する1つ1つが、本当に純度の高い"日常"を切り取った作品群であると実感出来ると思います。だからこそ、その集大成である『ソング01』は、最早自分の生活に欠かせないパーツとなっているのです。
あとがき+反省など
ここまでご清覧ありがとうございました。自分でも想定外にボリュームのある記事になってしまったため、ツイートにも記した通り序文+跋文だけ見て頂けるだけでも本当にありがたいのですが…ここに記した音楽への、出会いの瞬間が見届けられればという期待を込めて、下に今回DJで扱った楽曲群のマイリストを掲載しておきます。既に聴かれた方に向けては是非再現mixなど公開したい所存ですが、生憎まだ自宅でmixを拵える環境が整っていない為、その使命は未来の自分に託す事とします。
全てが新鮮な感覚に満ち溢れた時間の中で、当然反省として残しておかなければならない事もありまして...『上町台地』~『リリカ』にかけての繋ぎにおいて、ミスが連続してしまう瞬間がありました。一瞬頭が真っ白になりながら、何とかリアルタイムでの対処によりに乗り切ったんですが…ここのポイントは、特に先輩DJの方々に技術としてご教示頂いた事が出来ないまま終わってしまった為、悔しい思いが強いです。
以上のような反省点も含めて、今の自分の気持ちは一途に「次のDJをやりたい」というモチベーションに向いております。様々な体験の中で、やはりあの瞬間、自分がクラブハウスという空間を支配していた、その感触は忘れ難いものになっています。引越しやそもそもの機材の手配など、やるべき事は少しずつ積み重なっておりますが、自分のやりたい表現に向けて、それを成し遂げる為に必要な過程を惜しまず、また次のステップに進んでいこうと思います。
最後になりますが、今回のDJ出演は本当に沢山の方々のご助力無しには成し得なかった事です。到底言葉では満たされない程の感謝の想いを、必ず形にしてお返し出来るよう、更に力を蓄えた状態の苔氏として、またお会い出来ればと思います。改めまして、この度は本当にありがとうございました。
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