友達の介抱をした話
現在、その子の介抱が済み、帰宅してどっと疲れて今にも寝たい。けど、どうにも色々引っかかるので書こうと思う。
人の家に行った時に、ある子(介抱した子)が自主的にお酒を浴び始めた。 今思うと何か悩んでたのかもしれない。それを忘れる様な一気具合だった。
どうにも酒のセーブが効かない子らしく、私の視界に映ってるのはそれはもうどんどんどんどん酒の波に溺れる1人の乙女。と、2人の男友人。
あれのみたい!それのみたい!ぐびぐびぐびぐび。他人事の私は人ん家の酒を口付けで飲んでる姿をあれま〜と眺めてた(家主は口付けに半ギレ)。が。
ところがどっこい、その子の酔い方がえげつない位面白い。人違いは当たり前。目の前の男を私の名前で呼び始める。「このすね毛があざいちゃん(私)なのねー!黒!」
暴れ回り方が凄すぎて途中蝉が家の中に入ってくるわ過去の男の名が出てくるわ部屋は散らかるわで完全に同時多発テロで笑いすぎて記憶が無い(私の)。
しかしあまりのヒートアップに、シラフの私達はいよいよ引き止めに入る。が、酒は止まらない。
深夜に入りかけてたのでこれはもう一旦外の空気を吸いに行こうという話になった。
事件はここから。
その前に。皆さんコンビニとかで酔い潰れてぐでんぐでんの集団を見た事はありませんか?
私はぐにゃぐにゃになった一人の人間を、他の同僚が引きずってる姿を東京で見た事がある。「この世の末感が凄いな」と思いながら通り過ぎていた。
なんと。それが私にも起きたのだ。人生初。こんな事があるのか。
それと、皆さん他人の吐瀉物の介抱をした事がありますか?ご自身は吐くほど飲んだ事がありますか?
未成年の方は実感に湧きにくいかもしれませんし、介護士さんや看護師さんは身近かもしれませんね。私はそもそも吐くほど飲んだ事が無かったので、それはもう衝撃でした。
目の前の人間が酒で吐く事態。
何故か当時冷静だったので「あ、ほんとに人間って飲みすぎると吐くんだ………。」と感慨深くなりました。
ここ最近鬱気味で心に余裕が無かった私、頭でっかちになってた私は
「人間も生物であり、内臓が詰まっていて、ナイフで切れば血が出るし死ぬ」という事実をすっかり忘れていた。
その時何故か「生きてる心地」がして、それを「楽しい」と錯覚したのだ。リストカットと同じ要領ですね。
傍から見たら他人がぶっ潰れてるところを楽しいなんて言ってるの頭おかしいけど、なんだか救われたんです。冷静に本気で介護に取り掛かってたので、「ああ、人を救うのってこんなに満たされるのかー」という気持ち。
人間が生物だという証を教えてくれた相手への感謝。私達は心で生きてなんかいない。人間は醜く美しく尊い生物なのだと。相手はゲロで必死なので今思うとエゴだなーと思うけどそれでも救われました。ゲロ辛かったね…。
ただ、人間が嘔吐する姿というのは聞く分にも見る分にもあまり受け入れたがい物。当時はここに記すにも度し難い状況だったので、内心初めての事に楽しんでた(?)私は私だったけど、残りの2人は普通に…ビックリ…していた。コンビニの御手洗でなんとか吐瀉出来たけど、コンビニ前でつぶれちゃったりなんだりしたし。
だが、ここの2人のビックリっていうのは、かわいめに表記したけどつまり「迷惑なやっちゃな」という雰囲気全開で。
先に言っておくとこの2人を批判したいんじゃない。これを読む人達が糾弾する事でも無いと思う。問題はそこじゃない。あなた達が怒ってる場合じゃない。
「怒れなかった私」だ。
介抱に専念してたから怒ってる暇も無かった、という言い訳にはなるけど、「体調が辛い人間を蔑ろにしまくる」事態を、放置してた私はあれで良かったんだろうか?
彼女が蔑ろにされるだけの理由も無かったことは無い(むしろありまくりで彼女がひとりでに飲み自滅した上に悪酔いしてしまったから)。
けど、何も言わずに「ああーこういう人達なんだな」と見て見ぬふりして、本当に良かったのか?
というのは、その後見知らぬご年配の40〜50くらいの方々が車で私達を家まで送り届けてくれたのだ。私と女の子。
介抱し終わってコンビニ前でどれだけ声掛けても女の子が起き上がらないもんだから少し寝かせておこうかという話になった。
3人ともかなり疲弊していて、とてもじゃないけど背負って家まで運ぶ状態じゃなかったから。
傍から見たらそれはすごい絵面だったろう。全員見た目がチャラかったし。仮に私が違う人間でそれらを見たら確実に「ヤベー集団」認定してガン無視してたと思う。
もうそういう事に気を遣うまでの余裕がなかったので、仕方ねーよ。落ち着くまで寝かせとこ。となってた所に先程の車のおいちゃんが来たのだ。
荷物を持って私と女の子が乗る。友人とバイバイする。
女の子は潰れてる中、少しの間私とおいちゃん2人、1人の女性と喋った。
「でもさ、ほっとく?1人の女性を。」
タクシーで帰らせようかという話は友人と上がっていた。でも私が「タクシー汚したらまずくない?」となって提案を取り下げていた。
「とりあえずタクシー乗せたりとかしてたなー。それか担いで。俺が若かった時はね。でも、酒止まらない子って本当に止まらないから大変だよね。」
もう一人の運転手の方の男性が朗らかに喋る。
そして、先程の武骨な男性が渋げに口を開いた。
「なんだか、冷たいなって感じた。今の子。」
そうか、私は優しいようで、優しいフリをしてただけなのでは。とそこでふと思ったのだ。
(まあ、送迎してくれたおいちゃん達は私らの事情を知らずに本当の親切で助けて頂いたので、恐らくここの会話にはお互い語弊があったようにも思える。まず私らの見た目がチャラかったし。私金髪だし。)
いつだって若い子は冷たいなんて台詞は上の世代の常套句だ。
そりゃそうだ。あなた達は大人だから、若い人間のエゴイズムは冷たく思えるだろう。怒りを感じる事だってあるだろう。戦後の貧困すら知らない人間達だ。死を身近に感じる人間は上の世代よりかは少ないんだ。例えばそれを扱う仕事の人間は別かもしれないが。
ただ、私もその内の1人。だから嘔吐の瞬間をある意味「生死」と感じ取った。そっか。だからその生死を蔑ろにした彼等を「冷たい」と言い放ったのか。
でも、それを指摘せず思考の妨げにならないよう遮断していた私もまた「冷たい」人間だったのだ。
それでも正直上の世代をヨイショするつもりもないし、彼等に叱咤を与えたい訳でもない。自分が無いって怒られるのだろうか。冷たい人間なのだろうか。だけど送ってくれたあの方々に感謝は絶えない。本当にありがとうございました。
だが、どうにも、悲しみのような、彼女に差していた「恋愛の悩みであろう」の影も、それを汲み取らずにただ処理した私達も、怒りのようなものも、どうにかなるわけでもなく。ただ、とりあえず明日彼女を介護しに行こう。二日酔いエグそう…。
彼女がコンビニ前で落ち着くのを待つ間、隣の友人はタバコを吸っていた。
7月30日の夜中のアスファルトの上はじめじめしていて、ほんのり蒸し暑い。
ここ最近季節を心で受け取っていなかった私だが。一定の規則で鳴る蝉の声を永遠と聞き続けて、そこでやっと「あ、夏が来たんだな」と、肌身で感じた。
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