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住まい探しは恋愛に似ている

最初は理想も高い。
建築雑誌やリビング雑誌に出てくるような素敵空間に憧れたり、いつかこんな家に住んでみたい、土地を買って建築家に建ててもらいたい、なんて妄想する日々。
しかし次第に、それは白馬の王子様を待ち続けるがごとく、あまりに現実からは程遠い、と思い知る。

ハードルをどこまで下げれば実際に出会えそうな、身の丈にあった条件になるのか、すこしずつ現実が見えてくる。背伸びしすぎれば、いずれ破綻する。アバタもエクボというではないか、完璧でなくても自分たちが「好き」って思える家に出会えれば、それは運命。

それで条件にあう相手(物件)が見つかったら、「結婚を前提に付き合ってください!」と手を挙げる。ある物件に出会った時、あれこれ迷っていたら、手を上げたときにはうちは三番手で、すでに一番手との縁談(商談)が進んでいた。みんなが良いと思う物件はモテるのである。一番手のローン審査が通らず、二番手に話が降りてきたときには、二番手とも破談になれ、と念じたり……(恋敵って怖い)。結局、二番手と話がまとまり、うちは一方的にラブコールしただけで失恋。

失恋のあとは、逃した物件情報を恨めしく眺め、もう一生運命の家には出会えないのかもと悲観したり、もっと条件を下げたボロ家でないと無理なのかもと思ったり。

中古住宅は同じものはこの世に1軒しかないのだから、同じ条件のものに出会うことはもうない。こんな大きな買い物の決断をすること一生の中でもないのに、判断の素早さを要求されるなんて、家を買うって本当に大変。

運命のお相手を探すために、さらにアンテナを張って物件探しに熱を入れ始めたある日、1軒の新着物件に目が止まった。その段階で得られた情報は外観写真1枚と簡単な間取り図だけ。Googleマップで該当物件を探して、外観をグルグル眺めるとなんかいい感じ。好きかも。恋の予感。

さっそく不動産屋に電話して内見を申し込む。
売主さんとの調整で、物件見学までは1週間ほど時間があった。その間に行ったことのないその街の様子を見に行ったり、物件の周囲の状況を確認。いいお相手かも!

物件見学の際に、不動産屋の担当者に「うちは何番手ですか?」と聞くと「最初にご案内するお客様です」との回答。よっしゃー!

家の中はシンプルで品がいい感じ。ドカーンと大きなアトリエが取れるほどの広さではないが、実際に見学してみると、間取り図や物件概要には入っていなかった小屋裏収納があり、そこを含めれば作品を保管する場所もなんとかやりくりできるかも。

「気に入った」という意思は伝えつつも、翌日まで返答を待ってもらう。9年間の物件探しの終着点がここなのか、夫婦で落ち着いて考えたかった。その結果、もうこれは運命だ、コレを逃したらもう出会えない物件だ、という結論に至った。これまで見てきた数々の物件たちがいたからこそ、物件を見る目も養われてきた。物件遍歴も無駄ではなかった。

見学のときに撮った物件の写真を日々眺めては、いいわーこの家、と思う。正式契約の日まで不動産サイトに掲載されている物件情報に他の人が押す「お気に入り」マークが増えるたび、「フフ、いいでしょう、もうすぐ私の家だけどね」、とほくそ笑む。そんな恋愛初期状況。

不動産屋の一室での売買契約の日。「〇〇家様」「●●家様」と2つのフラワーアレンジメントがテーブルに飾られていた。営業の方を仲介に、両家の婚約(契約)が成立。結婚の日取り(決済と引き渡し日)も相談。帰りにお花をもらって帰る。スピード婚ってこんな感じ?

築年数も経っているし、直さなければいけない部分もいろいろある。でも売主さんがこだわって建てたことが伝わってくるから、それを引き継ぎたいと思える物件。あとから問い合わせしてきた物件見学希望者の中には、購入したら更地にしたい、なんて人もいたようで。この家の良さがわからない人の手に渡らなくてよかった。相思相愛って大事。



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