子供と大人のハンドボールは違う。
小さな大人を育ててどうするつもり?
自分が小さい頃に怒鳴られたって「当然だ」くらいにしか思っていなかった。小学生だろうが、中学生だろうが、高校生だろうが、大会があってそのさきに日本一を決める試合があるならば、そこを目指すのが当たり前だと思っていた。
10年以上前に経験した大会に去年は指導者として何度も参加した。
子供だった当時は何も感じなかったが、改めてみるとそこにいる子供たちは真剣な表情でプレーをしていて、そのプレースタイルはどこか大人びている。
「うわー上手だなあ。すごいパス回しだ。」
ふと口走った言葉は本心からで、子供たちの努力を想像してのことであった。
しかし、どこかで違和感を感じていた。こんなにも綺麗なハンドボールをやるべきなのだろうか?怒鳴られながらも指導者の求めるプレーをし続けるべきなのだろうか?
年始に時間があったので、中山さんという筑波の大先輩が書かれた論文をいくつか拝見していた。その中にドイツのU-10チームを指導するコーチの考えに迫る論文があった。
対象となっている指導者は子供達の「人格形成」を第一に考えていて、どの道に進むかわからない可能性だらけの子供たちの「個の育成」をシーズン目標に掲げている。
ドイツではこのカテゴリーにおいて全国大会はない。
子供達のモチベーションを高めるために試合に勝つことを目指すが、指導者にとってそれが一番の目標ではない。試合の中で自分を表現し、勝ったり負けたりすること通して得られる学びを所属するクラブの子供全員に経験させることだ。
私が日本での大会で見てきた、早く華麗なパス回しや巧みなポジションチェンジでDFを切り崩すハンドボールに違和感を覚えたのも、デンマークでの経験を通して学んだことがベースになっているのだと思う。
小さい時期から細かいグループ戦術を覚えさせると、練習量次第ではそれを使うと比較的簡単に点が取れる。その結果、個人技が開発されないまま勝ち負けにこだわるカテゴリーに進んでしまう。たちが悪いのはその時困るのが指導者ではなく子供たち本人だということ。
選んだスポーツを、出会った環境を愛せるようになって欲しい。
ジュニア期から「指導者が勝つ」ための道具にされてしまう弊害は全国各地で「ハラスメント問題」として表出しており、2012年以来解決にむけて様々なムーブメントが起こされている。しかし、その実態は未だに深い闇の中だと思う。
子供のスポーツを取り巻く環境について書かれているフリライターの島沢優子さんの書かれたこの記事がまさにその一例。
本来、小学生は「選んでくれたスポーツを楽しむ」ことが一番大切なはず。
いくらチームを勝たせることが出来たとしても、子供たちがその先そのスポーツから離れていってしまうような指導はしたくないと心の底から思う。
私自身、指導を受けている当時は何の疑いもなく指導者を信じてプレーしていた。多くの子供たちがきっとそうだと思う。今教わっている指導者に対して「うちのコーチはロングタームデベロップメントを加味していないなあ。」なんて思うことができる子供たちが果たして何人いるだろうか。
記事にもあるように、その周囲を取り巻く環境がより一層子供たちを沼の底に沈めてしまう原因にもなり得る。
ジュニア選手に対する指導理念を理解している指導者育成が先か、全国大会のあり方を考え直すシステム作りが先か、様々なところで議論がなされている昨今だが、今回の現場を見て少し気が遠くなったことは事実だ。
暗い話題になってしまったが、いつも前向きに明るいことばっかり話しても人間らしくないと思ったので今日は思い切って書いてみた。今回は以上になります。
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筑波大男子ハンドボール部 森永 浩壽