彼女/なつき
やさしい手だ。
指はなにか繊細なことをしているような気がする。
だけど手全体からは芯の強さも感じる。
……
おれは手の専門家か!笑
「子どものころは自分の笑顔が好きになれなかったの」
だけどいまは、大好きだという。ほんとうに素敵な笑顔だ。
笑顔のポートレートを嫌う人もいるし、若い女性が笑顔でいる写真がやたら目につく日本のポートレート(ポトレ?)を敬遠したがる気持ちもわかるけれど、僕は笑顔を撮る。笑顔は人をハッピーにさせてくれる。ハッピーだから笑うというよりかはハッピーになりたくて笑うのだ。なのでカメラの前にいてくれる彼女と一緒に笑いたい。
そんなふうに笑顔が素敵な彼女と、このローカルな街ではおそらくいちばんおしゃれと思われるカフェに入ったんだ。
とりあえずケーキ食べて。
歩いてるだけで汗をかく暑い夏だからアイスコーヒーを飲んで。
そしていろんな話を楽しんで外へ出る。
彼女には言わなかったけれどこの辺りは21年前に旅立つまでオフクロが住んでいた。事情があってオフクロとは7年しか一緒に暮らしたことがないのだけれど晩年はできるだけそばにいられるよう努力した。でも、たった独りで闘病生活を送っているオフクロはいつも淋しさをうったえていた。それが僕にとっても辛かった。
オフクロの遺品を片付けてアパートを引き払ったあの日から20年以上、この辺には近寄らなかった。浸るほどの想い出はないし淋しい思いをさせて親不孝をしてしまった自分に想い出に浸る資格もなさそうだからだ。
ろくにポージングの指示もしない僕はモデル泣かせだ。よっぽど困ったのだろう彼女はついに電車の中の人に手を振ったり。
でもそんなこんながおもしろおかしくて、撮っている僕は写っている彼女と同じぐらいたぶん笑顔だったに違いない。淋しい想い出しかなかった場所が笑顔で上書きされていく。オフクロ、ごめん。僕はたぶんいまハッピーに生きてしまってる。写真なんか撮りながら。
オフクロがこよなく愛したさっきとは別のカフェに入ることにした。このシフォンケーキが大好きで末期がんだというのに病室を抜け出してパジャマのまま食べにきたんだから恐れ入る。
またまたいろんな話をした。
彼女は時に笑い、時にシリアスに、時に目頭を熱くしているようにみえたりもした。
彼女がしてくれる話はとても興味深かったり共感をおぼえる部分が多かったりしたのだけれど、個人情報が多すぎて文章にしにくい。だからすっかりオフクロの想い出話になっちゃったじゃないか!笑
可愛いだろ? 彼女!