Born to be wild でいいです3
初めて彼女と会った、いや見たときの衝撃といえば
それはもう、ウンなんだろう。
そうだな空前絶後、筆舌に尽くしがたい体験って
言葉が一番ふさわしいと思う。
少なくとも10代半ばの男の子にはそれだけで事件だ。
あれがいわゆる人生のファーストインプレッション。
まるで遊び好きなイルカか、太陽を求めて急浮上したノーチラス号。
水飛沫の中から現れた7月だった。
少なくともその時の僕にはそうとしか思えなかったし、
40歳を過ぎた今でもその感想に変わりはない。
世慣れたフリで世界をバカにしていた
ガキの理性をすっ飛ばすくらいの衝撃。
プールから上がった彼女は長い髪をまとめ上げるような
仕草をすると、あたりを睥睨するわがままな女王様のように
僕たちの方に目を向けた。
その視線に急かされるように仲間の一人が立ち上がり
自分のタオルを彼女に手渡した。
不思議なことにそれが誰だったのか僕たちの誰も覚えてはいない。
多分、その当人ですら。
確かなのはそれが僕ではなかったことだけ。
彼女は怒りに取り憑かれたプロテニスプレイヤーみたいに
タオルを引ったくると乱暴な仕草で頭を拭った。
「アリガト」その言葉と同時にタオルが宙を舞った。
なんて失礼で、なんてステキなシチュエーション。
タオルがプールサイドに落ちるまでの0.8秒の間に、
固い友情で結ばれた(と思っていた)僕たちの関係は、
いっそ清々しいほどのライバルに変わっていった。
悲しいかなオスの本能。
旺盛な性欲の前に若い友情はもろくも敗北を喫したのだ。
そのセリフはさすがにはずかしいだろって。
あぁ言ってなさい、いっときなさい。
もしキミがあの時、あの場所に存在していたとしたら
見栄と理性とやせ我慢で乗り越えろ。
なんて無責任なセリフはいえないから。
まっそれはともかくあの頃は自分に
ブレーキを掛けることなんて考えてもいなかった。
そして僕らの夏も彼女の後を追うように動き出していった。