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都バス06系統四ノ橋下車10

 「それでさ、やられっぱなしってなんだかヤじゃん。連絡が取れればこの怒りの回収はできるかなと」んんっ?なんのこと??まさかそれって、本気でいってる。
う~ん。それにやられっぱなしはエミーじゃないとは思うんだけど、まあいいか。会話の流れを止めると、こっちがやばくなりそうだ。

 「状況から考えて、このゴルチエはさっきのボクの知り合いが落としたもんだと思う。それにあの男の携帯もあるから、これからも分かることは色々とある。だ~け~ど、なんか危険っぽくない。こういうことにはあまり関わりたくはないと思うんだけどさ。」
 「いいじゃん、探偵みたいでさ。でも事情がわかるならまあ、あいつのことはいいか」さっきのおびえたみたいな表情、あれ演技だったの。まったく。
「それに仲間がいるかもしれない。」
 「だね!」

路上ミーティング終了。追いかけてあいつを締め上げても良かったんだが、正直言ってエミーのことが心配だった。あの手のすぐキレル奴らはカルシウム不足で執念深い。きっとジャンクフードばかりを食べてるせいだ。小魚好きのボクとしてはそんな奴らにエミーの顔を覚えられたことが心配だった。とにかく、今はここを立ち去ること、そして州次さんに何が有ったのかを考えることが大切だ。

 代官山を抜け、山手線のガードを抜けて、プライムスクエアまで走った。 やっぱり緊張していたのか、エミーがほっとしたような表情を見せながら言った。「ねぇどういうこと。ケイシーの知り合いのその何とかいう人。何やってるの」
俺と州次さんの関係といわれても、特別のことなんか思い浮かばない。どう説明すればいいんだろう。

 「いいのそんなことどうでも良いの、冷静に説明しようとかしなくていいの」んんっなんだぁ。細い肩、怒ったようにも不安な様に見える表情、そしてボクを見つめる大きな瞳。至近距離。ボクの手はごく自然にエミーの肩越しに背中へ。誰に教えてもらったわけでもないけど、誰かを守ろうとしたときにそうするように抱き寄せていた。Tシャツを通して、心臓の動きが、エミーの体温が伝わってきた。女の人ってどうしてあんないい匂いがするんだろう。

 まずい!。下半身の変化に気づかれないよう腰を引いた瞬間、抱きしめられてしまった。ファーストキス!!。
 夜のプライムスクエアは、駒沢通り添いのくせに、行き交う人といったら、奥にあるセントラルスポーツ恵比寿(現コナミスポーツクラブ恵比寿)のメンバーくらい。おまけにちょっと外れた場所だったせいか。人の目にも留まらなかったみたいだ。

 「初めて?」耳元でエミーの声がした。
どっちだろう。俺が初めてのキスの相手ってこと?それとも俺が初めてキスしたのかってこと?微妙な発音は疑問文にも、告白にも聞こえた。とりあえず頷きながらいった。「小学生のころは家族ともしてたし、ラクラ(愛猫)とは、いつもしてるけど」

 「エェーあんたそんなごつい顔して猫とキスしてるわけ。グヒャア、ヒッヒッヒッツヒー。似合わな~い。」思いっきり笑いやがった。こいつ。ボクとしてはファーストキスの後だっていうのに、そんな態度取るか!!ちょっと傷ついてしまった。

でも、ボクとエミーがキスするってことは、お父さんとお母さんもキスするんだ。真面目な表情でキスする両親。見たことはないし、考えたことも無かったけど、想像するとなんだかおかしかった。エミーの笑いが移ったみたい。しばらく二人で笑い転げていた。

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