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都バス06系統四ノ橋下車 2
17歳と9ヶ月少々。映画のプロフィール紹介風に言うとheight:5feets 7inch body weight:158paund。太り気味だって?冗談じゃない。鋼の肉体と呼んでくれ。まぁ俺についてのデータは最低限の事実だけでいいよね。
あぁダメだ。どうしたって育ちの良さは隠せない。もう俺っていう一人称ヤメ、やっぱりボクでいくわ。その代わり?って言葉はここで使うべきかどうか悩むところだけど、今年の春から夏にかけてボクが体験した、今他人に話したいことランキング第一位の話をさせて欲しい。
去年の12月、ボクの通っているスポーツサークルの忘年会の帰り道だった。(もちろんお酒なんか飲んじゃいない!これでも当時は健全な中学生だ)六本木から麻布十番方向へ向かう芋洗い坂。ストライプ美術館までもう少しってあたり。突然暗闇から声が掛かった。「ヨォ、5000円で飲み放題、触り放題。彼氏どぉ」いくら大学生に間違われる老け顔だとしても、中学生に悪い遊びを教えようという親切心にもほどがある。おまけにこっちは自転車に乗っているっていうのに。(自転車の場合もやっぱり飲酒運転になるんだよね。これって道路交通法違反の立派な犯罪じゃないの?)
それにそもそもこのあたりにそういう店ってある?違うんじゃない。
「今、お母さんのお遣いの帰りだからまた今度ね」upsボクって大人の対応。人を傷つけないデリカシーが肝心だものね。「んっガキか」余計なお世話だ。人を呼び止めておいて失礼なヤツ。むかついてつい止まってしまった。それが州次さんとのファーストコンタクトだった。
「お前でもいいや、コーヒーでも飲むか」そう言って勝手に自販機にコインを入れだした。
「あの」
「んッ?」
「甘酒がいいんだけど」
「あぁそう、そうなのか。いいよ甘酒ね」
どんな人間にも人恋しくなったり、だれかに話を聞いてもらいたくなる時はある。その時の州次さんもちょうどそんな気持ちだったみたい。あとから考えればそれも仕方がないとは思うんだけどさ。
まあいいや、話に付き合おう。こんな寒い日の甘酒にはそれくらいの価値はあるしね。
「10分だけね」やりきれなさそうな表情にも負けていた。お父さん譲りのこの人の良さ。
北海道の炭坑町出身で故郷には大好きなお祖父ちゃんがいるという話、春に東京へ出てきて、デジタルクリエイターの専門学校に通っているということ。最初のアルバイトはサンクスだったこと。同じ学校で好きだった女の子のこと。今、好きな女の子のこと。友達の自慢。この仕事は今日が初めてで、声を掛けたのはボクで22人目etcetc。10分はとっくに過ぎていた。でも悪い人じゃないのはなんとなく分かった。それからスポーツサークルの帰りにたまに話すようになった。
暮れから新年、そして高校も決まり俺の気分も開放的になった2月。いつの間にか、州次さんの姿は六本木から消えていた。ちょっと気にはなったけど、学校が忙しかったり、友達とのつきあいや別のバイトでも見つかったんだろう程度に思っていた。それはそれで悪いことじゃない。少なくと州次さんの話術は客引きに向いているとは思えない。ボクが大人だとしたら、よっぽど酔っていなければ彼のエスコートで店に入ろうとは思わないだろう。
こっちもこっちで卒業式だ、入学式なんだかんだと忙しかったしね。学校にも慣れかけた4月の終わり。銀座、松屋前、Apple Storeで新しいMacを見ていると後ろから声がかかった。