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医療面接に必要な共感能力
私が留学中に医療機関を患者家族として受診した時に気づいたことを綴ります。
私は理学療法学修士課程を履修するためニュージーランドに留学した経験があります。
ご存知のように日本と海外の保険システムは全く異なります。
日本は世界に類を見ないほど優秀な国民皆保険制度を有しています。
みなさんもケガをしたり病気をしたりして病院にかかったことがあると思います。そこで医師の診察を受けて薬やリハビリテーションを処方されたりしますよね。
日本では実質負担額は3割程度、最近ではスマホから簡単に診療予約がとれて数時間で薬の処方まで受けれます。
多くの日本人はこの制度を当たり前と思っています。私もそうでした。
しかしこれは日本に特有で海外では当たり前のことではありません。
ニュージーランドで留学生だった私は幸いにも留学期間中かぜすらひかずに済んだのですが、一緒に移り住んだ子供はそうはいきませんでした。
当時住んでいたニュージーランドの南島は気温が低い割に空気が乾燥し紫外線が強く、皮膚が弱い子供には過酷な環境だったと思います。
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私の子供はある日、頭から背中まで強い乾燥肌になってしまい保湿しても全く良くならずひび割れを起こすほどひどい状態になってしまいました。
ニュージーランドでは日本のようにステロイド系の軟膏を子供に処方するのは稀なようで手に入らず、みるみる肌の環境は悪化していきました。自己負担で購入する薬局の薬は非常に高額でした。
自分ではどうにもならないため、大学近郊のGP(ジェネラルプラクティショナー: かかりつけ医)を尋ねることにしました。
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当時の私たちの生活は貧しく医療費を払うのはかなり厳しいものがありましたが、ニュージーランドの大学院生の家族にも大学の保険が適応されたため近隣のGPを尋ねることができました。
このGPの先生が素晴らしかった。
彼女は私たちの目を見て、子供に優しく話しかけてくれました。異国の地で健康に問題を抱えると本当に不安になりますが彼女の態度は共感に満ちていました。
子供にも肩に手を置いて必ず良くなるからと話しかけ、我々両親の拙い英語にも嫌な顔1つせず丁寧に質問に答えてくれたのです。さらに処方する薬の用法や注意点などもとても丁寧にゆっくりと教えてくれました。
海外のGPを利用するのに緊張していた我々も安心することができました。
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今振り返っても彼女の対応こそが医療の基本だと思うのです。
どれほど臨床能力が優れていようと研究成果を出していようと、目の前の患者に最大限の共感を示し治療を開始することから医療は始まります。
仮に私たちが難民で、さらに健康状態が悪く同じ状況だったらどうだったでしょう。もし白人で裕福だったらどうだったでしょうか。彼女は全ての患者に同じように接していただろうと確信しています。
患者は常にケガや病気のために社会的弱者になる傾向があります。健康であれば難なくこなせる仕事や意思決定も、健康を害していては難しくなります。弱っている人間をまず安心させるのはこのようにすれば良いのかと感銘を受けました。
看護学では患者と共感することが治療成果につながると結論づける論文が多々あります。文献検索されると簡単に見つけられると思います。
例えばGoogle scholarで、
”nurse”+”empathy"
で検索してみてください。
結局のところ、医療は人と人が関わる中で展開されます。どれほどAIが進歩しようとこの事実は変わらないでしょう。優れた技能を習得するのはもちろんですがその段階に至る前に心のこもったコミュニケーションが必要です。
患者から信頼されるのに最も大事なのはまず第一に共感能力だと教えてくれたのはニュージーランドのGPだった、という出来事でした。
後日談
結局留学生保険が適用されたものの診察費と薬代はかなりかかりました。
日本の皮膚科にかかれば子供医療費が設定されている自治体であれば診察費用は数百円程度です。
日本の医療制度は素晴らしい。
そうそう、
子供の皮膚疾患はとても良くなりましたのでどうぞご心配なく!