漫画脚本『ママンガ』
西暦2121年――。
東京。
廃れた町※の一角にて。
※大正~昭和初期くらいまで文明レベルが落ちている。
リク「はぁ……はぁ……」
主人公リクが息を上げながら、何かから逃げている。
リクは7歳の男の子。
手にはキャンバスを抱えている。
追ってきているのは、鋼鉄の機械兵だ。
リク「くっ……」
リクは機械兵から逃げながら唇を噛みしめる。
リク(……あの子達、ちゃんと逃げられたかな……)
リクは自分より小さい子供たちに、自分が描いた絵を見せてあげていたのだ。
そんな時に、急に機械兵に襲われたのだ。
だから、自分がおとりになり、子供たちを逃がした。
バン!
リク「わぁ……!」
機械兵から放たれた光の弾がリクの脚をかすめる。
リクは転んでしまう。
リク「くっ……」
倒れたリクの元へ、機械兵が現れ、
そして、無慈悲に銃口をリクに向ける。
リクはキャンパスを落としてしまい、身を縮め、思わず目をつむる。
バン!
銃声が響く。
……が、しかし、リクは死んでいない。
リクは恐る恐る目を開ける。
女の子「大丈夫……?」
リクと機械兵の間に、女の子が立っていた。
女の子は魔女のような装いだ。
※巫女と魔女をミックスしたような衣装を想定
無表情で、覗き込むようにリクを見ている。
背中には大量の魔法陣が発生し、機械兵の進行を妨げている。
女の子「……」
次の瞬間には、機械兵を焼き尽くしていた。
リクは唖然とし、言葉を失う。
女の子はそんなリクが落としたキャンパスに目を向ける。
女の子「……あなた、絵が上手ね」
◇(シーン変わる)
西暦2090年。
AIの暴走により世界が終りかける。
科学兵器をことごとく無効化され、
文化が破壊され、人類は衰退した。
このまま滅亡するかと思われた時、彼らは現れた。
魔法使いである。
歴史の影に隠れていた彼らの全面協力により、人類は滅亡を免れた。
しかし、それから40年。
未だに機械による攻撃は続いている。
◇
2130年――。
洋風な部屋の一室にて。
「今年こそはプロ魔法士試験に受かるぞー!」
「「「おぉー!」」」
一人の男子の掛け声に、3人くらいの男子が呼応する。
その中の一人……、
リク(そうだ、今年こそは絶対に……!)
【リク(16)、プロ魔法士志望、牛丼同盟メンバー】
タカシ「合格して、稼いだら、その金で牛丼おごってくれよな!」
【タカシ(16)、プロ魔法士志望、牛丼同盟リーダー】
メンバーC「牛丼……」
メンバーCはじゅるりと涎を垂らす。
メンバーD「きっとできる! 合格のために対策は十分にうってきた!」
メンバーC「今年はなんとあのアメア・ニマも特別審査員になるらしいぞ」
メンバーD「すげぇな、わざわざこんな辺境に来てくれてるんだな」
リク「……」
リクの脳裏に若い魔女の姿が浮かぶ。
メンバーD「今年は奇跡的に皆が最終試験に残った……!」
タカシ「おう……明日は最終試験、頑張るぞー!」
「「「おぉー!」」」
◇
洋風の学校のような場所。
プロ魔法士試験会場――。
リク(プロ魔法士。許可不要で魔法が使えるようになり、皆の憧れの存在だ)
リク(優秀者は最早で10歳から受けられる……が俺は13歳からで今年は4回目の挑戦だ。受験の年齢制限はないが、18歳以降の合格実績はなく、リミットが迫っている)
リク(2000人が受けて、最終試験に臨めるのは10人程。そして合格者はその半分程。極めて狭き門である)
リク(だが、今年、初めて鬼門と呼ばれる4次試験を突破し、最終試験に残った。来年、最終試験に残れる保証はどこにもない。このチャンス、絶対、ものにする!)
試験は魔導書作成と魔法実行の二部構成となっている。
試験官「では第一試験、魔導書の作成を開始してください」
リクは真剣に魔導書と向き合う。
魔法を使うための魔導書は、
①その魔法の素晴らしさ
②その魔法の使い方
という構成になっている。
執筆には魔筆という特別な筆を使い、魔力を込めて記載する。
試験官「では第二試験、魔法実行を開始してください」
魔法実行では魔導書の魔法をいかに上手く発現できるかが審査される。
◇
洋風な部屋の一室にて。
タカシ「よし……覚悟は決まったか、皆……」
4人は息をのむ。
タカシ「…………見るぞ! せーの!」
4人は一斉に封書を開く。
リクも恐る恐る確認する。
リク「っ……」
リクの目に不合格の文字が飛び込んでくる。
だが……、
「「「…………うぉおおおおお!」」」
タカシ「嘘だろ……!? 合格、合格だ!」
メンバーC「…………俺も」
メンバーD「まじか……うそだろ。俺もだ」
タカシ「うぉおおお、って、え……? リクは……?」
リク「…………ダメだった」
リクは苦笑い気味で答える。
タカシ「マジか……」
それを聞いて、3人はパタリと喜ぶのをやめる。
メンバーC「……リク」
メンバーCは目に涙すら浮かべている。
メンバーD「…………なんて言葉かけていいか分かんねえよ……」
リク「みんな、なんかごめんな。本当におめでとう……」
リクは絞り出すように皆を祝福する。
タカシ「あぁ……ありがとう……本当に……リクが魔導書の書き方のコツ、教えてくれなかったら絶対、受からなかったよ……」
リク「あ、あぁ……」
リク(……そんなことない。タカシは魔法実行において秀でた才能がある)
リク(わかっていた……自分は頑張っている。だけど……それを簡単に超えていく才能がある)
メンバーC「来年は絶対、受かるよ! 言うじゃん? 諦めなかった奴が最後に勝つって!」
リク
(勝つのは諦めなかった奴だけ。確かにそうだ。だけど、それ……結局、成功者の言葉集めただけでしょ。諦めなかったけど、そのまま負けた奴の言葉は誰に届く?)
(皆がいい奴ら過ぎて辛い)
(煽ってくるくらいなら怒りようもあるのに……)
(……なにより、そんなことを考えてしまう自分に一番、がっかりする)
リク「皆……ちゃんと牛丼おごれよな」
リクは無理矢理に笑ってみせる。
◇
リクは牛丼同盟のメンバーと別れ、一人になる。
リク「はぁ……」
リク(流石にあそこに俺がいたら悪いな。皆、本当は喜びたいはずなのに……)
そんなことを思いながら、改めて通知を確認する。
間違いなく不合格と書かれている。
リク(あ、そうだ、評価表も読んでおくか)
リクは別の紙に目をやる。
リク「またか……」
リク
(魔導書作成には秀でており、魔導書作成士になることを推奨されたし)
(いつもこれだ……)
リク「ん……?」
更に一枚の紙が入っていた。
リク(なんだろ……?)
話がしたい。
11/11 AM11:00に魔法教会、ゲストルームに来てください。
特別審査員アメア・ニマ
リク「えっ……!?」
◇
11/11 AM10:50――。
リクは歩いている。@魔法教会の廊下
リク(あの……アメア・ニマが俺に一体、何の用だろう……ワンチャン、補欠合格とかではないよな……)
アメア・ニマ。
世界最高の魔法士〝七賢〟が一人。
希代の天才にして、10歳でプロ魔法試験に合格。
人類の最終兵器なんて言われてる。
そう……。
あの日、俺を助けてくれた魔女だ。
トントントン
リクはドアをノックする。
しかし、返事はない。
リク(おかしいな、不在か? あ、そもそも別にノックしなくてもいいのかな)
そうしてリクは部屋に入る。
リク「え……?」
部屋に入ると、漫画が散乱した部屋で、
アメアがおっさんのように横たわって、くつろぎながらアニメを観ていた。
(ちょうどちょっとエッチなシーン)
アメア「…………え?」
二人「「……」」
アメア「あぁああ゛あああ゛ああ!!」
アメアは赤面しながら慌ててアニメを止める。
アメア「えっ!? え゛っ!? なんであなたがここに!?」
【アメア・ニマ(19歳) 七賢の一人】
リク「え……、えーと、あなたに呼び出されたのですが……」
アメア「そ、それは明日でしょ……!」
リク「え……? でもここに11/11って書いてありますし……」
アメア「ほ、本当ね……」
アメアは驚愕している。
リク(これ……漫画とかアニメって奴だよな……戦時中、機械兵にほとんど処分されて、今では貴重なやつ……)
リク(あのアメア・ニマにこんな一面があるとは……)
■リクの脳裏にだらしなかったアメアの姿が想起する。
リク(しかし……覚えてるはずないよな……)
■リクの脳裏にあの日、助けてくれたクールなアメアの姿が想起する。
アメア「こほん……」
リク「……?」
アメア「先ほどの姿は忘れてくれ。それはそうと明日、君を呼び出した理由だが……」
リク(ごくり……)
アメア「まずはこれを見てほしい」
アメアはリクに紙の束を渡す。
リク「はい……」
リクは渡された紙の束をパラパラと見る。
漫画の下描きのようだ。
リク「えーと、これは……」
アメア「それは〝魔法侍〟だ」
リク「はい……?」
アメア「だ、だから、えーと、私が描いたものでな……」
リク「はぁ……」
アメア「単刀直入に言おう! 君……! 私のために絵を描いてくれないか?」
リク「……!」
リク(……何言ってるんだ? この人……)
リクはうつむく。
アメア「君に物語の素晴らしさを教えてあげよう。
このバンドもののアニメ……
ちょうどクライマックスの学園祭……
3分くらいの楽曲……
そこまでに至る苦労のおかげで……
曲の価値が何倍にも……」
アメアが何かを力説しているが、リクは上の空である。
と……、アメアが付け加える。
アメア「君の魔法実行はいまいちだ」
リク「……!」
アメア「だが、君の書いた魔導書は美しい」
リク「……」
リク(……やっぱりか)
リクは歯を食いしばる。
リク「申し訳ありませんが、お断りします」
アメア「っ……!」
顔をあげたリクの目から涙がこぼれており、アメアは驚く。
リク「どうして自分なんですか? 他にも絵が上手い人はたくさんいるでしょ?」
アメア「っ……! そ、それは……」
アメアの脳裏に、一枚の画用紙をもらい目を輝かせる姿が浮かぶ。
(画用紙に描かれた中身は見えないように斜め下から描画)
だが……、
リク「それは夢を諦めろってことですか? あり得ません!」
アメア「っ……!」
リク「話はそれだけですね。それでは失礼します」
アメア「ご、ごめんなさい……! でも、これだけは……これだけは受け取ってほしい! お願いだ! 魔導書の一種だ」
アメアは懇願し、リクに紙の束を渡す。
リク「…………わかりました」
リクは躊躇するが、受け取り、部屋を後にする。
◇
リク、一人になり、うなだれる。
リク
(最悪だ……終わった……)
(七賢にあんなこと言っちまった。もう合格なんて無理だ)
脳内で、アメアが「あいつはダメ」とか告げ口している。
リク
(だけど……)
(貴女にだけは言われたくなかったんだ……)
(俺は……他でもない貴女に憧れて、魔法士を目指したんだ……)
(貴女みたいに誰かを救いたくて……)
がさっ
リクはアメアに渡されたものに気付く。
リク
(……なんでアメア・ニマは俺にこれを……)
(あまり上手とは言えないな……)
リクの視線の先で、
下描きのキャラクター達が楽しそうにわちゃわちゃしている。
(これのどこが魔導書の一種なのだろうか……)
(……でも……なんだろう……)
リク「……」
リク(……温かい)
リクは切なそうな表情を浮かべ、立ち尽くす。
◇
リクは、机に向かって何かを必死に描く。
時に、うまくいかなくて紙をくしゃくしゃにして……、
時に、机で寝てしまい、慌てて起きて……、
一日、二日と、時は流れていく。
◇
リクは紙封筒を持って、街に繰り出している。
リク
(はぁ、なんとか終わった……)
(今日はアメア・ニマが別の街へ発つ日……)
【12/11 PM7:00にこの街を発つ】
という手紙が渡された紙の束の中に含まれていた。
……
警備員「アメア様ならすでに発たれましたが……」
リク「えぇえ!?」
警備員「本日の朝7時には……」
リク(あの人、AMとPM間違えてるじゃねえか!)
……
リク(はぁ……最悪だ……どうすんだよこれ……結構、頑張ったのによ……)
と、その時であった。
「機械兵だぁああああ!! 機械兵の大群が来るぞぉお!」
リク「っ……!?」
◇
一変して、
戦場のシーンとなる。
リクも子供たちを守るために機械兵と戦っている。
リク「こんな大規模襲撃、見たことないぞ……」
奮闘するも、次第に、機械兵の圧に押され、
ついに後ろを取られてしまう。
リク「くっ……」
その時であった。
機械兵が吹き飛ぶ。
リク「っ……!」
???「リク、大丈夫か……!?」
リクを助けてくれたのは……牛丼同盟のリーダー、タカシであった。
メンバーC「俺たちもいるぜ!」
他の二人も来てくれて、そして……、
「「「うおりゃぁあああ!!」」」
機械兵達を蹴散らしていく。
頼もしい仲間にリクもほっとした表情を浮かべる。
だが、それも束の間であった。
次の瞬間、
タカシ「えっ……!?」
巨大な機械兵が現れ、タカシの表情が凍り付く。
タカシ「ぐあぁあああ!!」
タカシが吹き飛ばされる。
巨大な機械兵と小型機械兵の軍勢が迫りくる。
だが、そこへ魔法が降り注ぎ、機械兵達が次々に破壊されていく。
リク「アメア様!」
それはアメアであった。
アメア「この大襲撃は……この街に留まりすぎた私の責任だ……」
リク「……!?」
アメアの言葉にリクは驚く。
しかし、アメアは圧倒的な力を見せつけ、降り注ぐ魔法で、次々に機械兵を破壊していく。
皆「すごい……」
「ぴーぴーぴー弱点発見……」
だが、機械兵が突然、捨て身でリクに対して集中狙いを開始する。
アメア「っ……!」
アメアはそれを無理に守ろうとして、ダメージを受けてしまう。
リクは自分を守ろうとするアメアの背中に語り掛ける。
リク「アメア様……なんで……」
アメア「……君は……」
リク「……?」
アメア「君は覚えていないかもしれないけど……かつて私は君に救われたんだ……」
リク(え……?)
アメア「プロになったばかりのあの頃、天才だのなんだの言われたけれど……大人に兵器扱いされることに辟易としていた。
魔法士なんかやめようと思っていた。
そんな私を、君が描いてくれた絵が変えてくれたんだ」
■助けられた小さかったリクがアメアに、優しく微笑むアメアの絵を渡している。
リクははっとする。
だが、無慈悲に機械兵が迫っている。
そんな刹那、封筒がリクの目に入る。
■アメア「魔導書の一種だ」
リク(っ…………やけくそだぁああああ!!)
リクは叫ぶ。
リク「必殺:機刃斬り」
オーラで象られた刀が、巨大な機械兵を一刀両断にする。
リクや周りの人たち「…………へ?」
一瞬の静寂の後、
アメアはリクから封筒を奪い取り、中を確認する。
アメア「すごい……! 私がネーム描いた〝魔法侍〟! なんてクオリティの作画なんだ! 私の目に狂いはなかった! そして、やっぱり私の仮説は間違ってなかったんだ!」
リク「仮説……?」
アメア「
魔導書は
①その魔法の素晴らしさ
②その魔法の使い方
から成る。
だから①をストーリーにして、感情を溜めこむことで、より強い魔法を使えるようになる」
リク「っ……!」
アメアはリクが描いた紙の束を見せつけ、
アメア「そう……これは魔導書ならぬ……魔漫画だ!」
と宣言する。
リク「はぁ……よくわからないけど、アメア様が無事でよかった……」
そう言って、リクはふらっと倒れ……、
アメア「一気に魔力を放出しすぎたか……」
さらに、アメアにもたれかかる。
アメア「はぅ……」
アメアは赤面する。
アメア
(あんな小さい子がずいぶんと大きくなって……)
(いや、えーと……別にそういう感情は……)
危機的状況で助けられるなど溜めこんだ感情のせいで、何かが起こることを吊り橋効果というらしい。
◇
アメア「うわぁ、ダメだ! なんでママンガ、貴方にしか使えないのー!?」
リク「……わかりません」
部屋で二人。
アメアが騒いでいる。
アメア「うーん、今のところ著者しか使えないということか? でも私、原作なんだけどなぁ……でもまぁ、仕方ないか」
リク「……?」
アメア「貴方、私と一緒に来て! 私のネームの作画をやってくれ!」
リク「…………わかりました」
アメア「そんなこと言わないで…………って、え? ……いいの?」
リク「えぇ……」
リク(プロ魔法士にはなれないかもしれないが、自分の限界を超えることができるかもしれない……だから……)
リク「よろしくお願いします。アメア様」
アメア「う、うん……よろしく、リク」
アメアは少しだけ頬を染める。
こうして、リクとアメアの二人の漫画制作が始まる。
<了>
※読み切り50P程度を想定
【どうでもいい設定】
アメア・ニマは日本人。仁摩雨亜。
和風の魔女なので、祓魔師に近い。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?