「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第29話

本作は連載作品です。第1話は下記です。
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 俺は、<白川防衛班><陽動班>そして、<致命打班>の三つに分かれる作戦を伝えた。

 白川防衛班は、白川、友沢、王、そして土間。

 陽動班は、水谷、早海、宇佐。

 そして、致命打班は俺と日比谷だ。

 本音を言うと、致命打担当は水谷にでも頼みたかったが、こういうのは言いだしっぺがやらされるのが世の常だ。

 ミッション3でも同じようなことを思った気がする。

「はは……生きてやがる。儲けもん……」

「よくやったぞ…… 土間……」

 作戦を伝える間、土間は、本当に、たった一人でウツボ恐竜の注意を引き寄せ、そして猛攻を耐え凌いだ。

「俺は、友沢、王さんと共に、ファシリテイターを防衛すればいいんだな?」

「はい……生き残るために、重要な役割です…… 何卒、お願いします」

「あ、うん……」

 土間が不思議そうな顔で俺を見ていた。

「な、何でしょうか……」

「い、いや……お前におだてられるとは思わなかったよ」

「っ!? あ、すみません……」

 何か、とても偉そうなことを言ってしまったような気がしてくる。

「いや、いいんだ…… お前の活躍は、皆、認めるところだろうよ……」

「……」

「頼むぞ! 致命打班!!」

「はい……」

 すでに陽動班は動き始めている。

 恐らく今回の作戦の中で、最も高い技術を要求されるのは、この陽動班だ。

 早海さんと水谷が果敢にウツボ恐竜の足元へ向かっていく。

 ウツボ恐竜そのものも動くが、ウツボ恐竜に、こちらから近づけば、大量のゴンズイが邪魔をしてくる。

 そのゴンズイをアウトレンジから撃墜するのが宇佐さんの役割だ。

 宇佐さんは、ミニレーザー、衝撃波、拡散レーザーを惜しげもなく使用し、ゴンズイを撃墜してくれる。

 使用間隔があるスキルを主体に戦う宇佐さんにとって、そのスキルを惜しげもなく使用することは、丸裸になるに等しく、かなりのリスクを孕んでいることだ。

 それでも宇佐さんは遂行してくれた。

 その宇佐さんのおかげで、二人の周囲のゴンズイは、かなり数を減らしている。

 それでも、全てのゴンズイを殲滅することは困難だ。

 水谷がその残りを排除し、早海さんをサポートする。

 水谷の能力のせいで、ヘイトが早海さんに集中するのは、少々、腑に落ちないが、そのおかげで無警戒のゴンズイを次々に片づけられているのも事実である。

 後は、早海さんのセンスに全てを委ねるしかない。

「いきます……!!」

 早海さんの声が聞こえた気がした。

 いくら早海さんと言えども、動いている対象ののはそう簡単なことではないだろう。

 だけど、きっと早海さんなら……

 ギャァア゛ア アア゛ア アア――!!

「痛いか……? ざまあみやがれってんだ…… これまで、てめえに食い散らかされてきた人達がどんな辛い思いをしたと思ってるんだ……!」

 ウツボ恐竜は悶絶する姿を見て、そんなことを呟いていた。ふと、高峰さんのことが頭を過る。だが、まだ終わったわけではない。

 次第に、ウツボ恐竜は痛みに耐え兼ね、その頭を垂れる。

 次の瞬間、その動きが完全に停止する。

「ようやく捕えた…… だが、長くは持たない……!」

 日比谷の言葉を後ろで聞きながらも、俺はウツボ恐竜の頭部へ全力で向かう。

「!?」

 その姿を見て、一瞬、言葉を失う。

「そんな……」

 遠めから、その光景を見ていた友沢が絶望的な弱々しい声で呟いた気がした。

「口が……閉じている……」

「……」

 だが、俺に迷いはない。

「このケースがあるから、俺がやらなきゃいけなかったんですよ」

 このケースは十分に起こり得るケースとして想定済みだ。

 作戦はシンプルだ。

 閉じた口のわずかな隙間に極限まで縮小したシールドを忍ばせ、そして、極限まで拡大する。

 しかし、俺がこれまで拡大できたシールドのサイズは1・8メートル程度。奴の口の中に侵入する十分な空間を確保するには、俺自身の限界を超えなければならない。

「うぉおおりゃぁああ!!」

 無意識に、自身の人間性に似つかわしくない叫び声が出ている。

「ひ、開いた……!」

 多分、友沢が緊張と安堵が入り交じったような声で現状を口にする。

 俺は、急いで口内に侵入する。

「うっわ、くせえ……」

 そんなことを呟きながらも、身体の後ろ側にシールドを展開し、支えるようにしながら前進する。脳がある位置まで、行かなければならない。

 本当はもっと喉元に近い位置から入りたかったのだが、短時間に、口を確実に開くためには、先端部分から侵入することを選択した。

 ここからは、友沢が確認してくれた最も脳までの骨が薄くなっているポイントを目指し、ゆっくりと歩を進めるしかない。

「ぬわっ!!」

 急に足元がぐらつき、加速度を感じる。

「平吉さん!!」

 外からは心配そうに俺の姓を呼ぶ声が聞こえる。

 どうやら日比谷の<ストップ>の持続が切れたようだ。

「……!!」

 当然、シールドに対する荷重が激増する。

「もうちょっとだ……」

 もうちょっとだけ奥へ……!

「ひぇ……」

 ふと、ウツボ恐竜口内にこびりついている夥しい数の子ゴンズイが目に入る。その光景は、集合体恐怖症になってもおかしくはないと思える程のトラウマ級のインパクトだ。

「……」

 だが、ゴンズイ達は活動を停止している。こいつらは、質量が小さいせいか、まだ日比谷の能力が持続しているのだ。

 そうでないと困る。

 元々、日比谷の協力が必須であった真の理由はこちらのゴンズイだったのだ。

 口の中に侵入するところまでは、なんとかできる。

 だが、シールドをウツボ恐竜の口を開くために使った場合、どうしてもゴンズイを対処できなかったのだ。

「さて……」

 ようやく到達する。

 距離にして、数メートルであっただろう。だが、とても長い道のりを超えてきた気がしてしまう。

 ウツボ恐竜の噛む力が一層強くなる。だが……

「このシールドはな、絶対に壊れない……! いや、何があっても壊させやしない……!」

 ブレイドを構える。何度も使ってきた唯一の攻撃武器が、その時は、やけに眩く、美しく光り輝いて見えた。

「やっちまぇえええええ!! 平吉ぃいい!!」

 もう誰の声だかはわからなかった。だが、その粗暴な言葉遣いが限界までアドレナリンを放出している俺の脳内にも伝播する。

「くたばれぇ!! ウツボ野郎ぉおおお!!」

 凶悪な断末魔を発した後、ゆっくりとその巨体は横転する。

「や、やべぇええ!!」

 横転するウツボ恐竜の口から、辛うじて飛び出す。

 だが、しっかりと足で着地なんてできそうにない。

「うわぁあああああ!! ……っと」

 地面激突かと思われたが、幸い、俺の体はその直前で受け止められる。

 ここに連れて来られてきた朝、トラックに轢かれかけた時以来の人生二度目のお姫様抱っこだ。

「平吉…… やったな……」

 俺を激突から守ってくれた……水谷が称賛してくれる。彼がとても速く動ける人であるため、必然と言えば、必然だが、どうせなら白川さん、早海さん辺りがよかったと思う。

「あ、あぁ…… だが、大丈夫か……? 多分、俺の体、ウツボの唾液でベタベタだぞ?」

「うわっ……本当だ、気持ちわるっ」

「……」

 水谷は早々に俺を降ろす。いや、そこは、そんなの気にするなじゃないのか?

「平吉さぁん!!」

「っ!?」

 誰かが俺に抱き着いてくる。今度は期待通りの人物……早海さんだ。

「平吉さん…… 無事で……無事でよかったです」

 その完璧に整った顔面をめちゃくちゃに崩しながら、労いの言葉を伝えてくれる。

「あ、ありがとうございます…… で、でも、大丈夫ですか? 多分、自分の体、ウツボの唾液でベタベタですよ?」

「そんなの……そんなの全然、平気です…… 平吉さん、本当に本当に、お疲れ様でした……」

 メソメソと泣きながら、そんなことを言ってくれる。これだよ……この反応だよ…… と、しんみりしていると、土間から忠告が入る。

「おい! 気持ちはわかるが後にしろ! まだ終わってねえぞ!!」

「えっ……!?」

 嘘だろ…… あれだけやったのに…… とウツボ恐竜の方を見ると、完全に動きを停止している。空間ディスプレイ上の数値もしっかりと1が刻まれている。

「……地下に戻るまでがミッションだろ……!?」

 土間が少し冗談めいた口ぶりで叫ぶ。

「……」

 騙しやがってと少し不満に思うが、確かにその通りでした。

 こんな風に少しだけいい思いができたのも、他のメンバーが取り囲うようにゴンズイを食い止めてくれていたからであった。

「帰りましょうか…… 平吉さん……」

 もう一人、ゴンズイ防衛を免除されていた人がそう言う。

「そうですね…… 機械とやらは出て来てくれるんですか?」

「それは帰ってからのお楽しみです」


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