PTAぇええ!?


●あらすじ

PTAという組織をご存じでしょうか?
そうです、小学校や中学校の時にあったあの謎の組織です。
正式名称はParent-Teacher Association……親と教師の会とされています。
本作では子供達に秘密にしているPTAの真の意味と知られざる活動について、こっそりと紹介していきます。

●補足

ネタバレ設定や作品コンセプトの補足は下記のリンクに記載します。
(まっさらな気持ちで読みたい方もいるかもしれないので……)
補足の先読みは非推奨です。

●本文

※舞台は現代の東京

(突然だが子供なら一度は憧れたことがあるだろう)
(〝謎の組織〟という奴に)
(だが、実際には極めて身近に謎の組織が存在する)
(活動内容不明なのに学校行事のたびにしゃしゃり出てくるあの組織だ)

区立空澄そらすみ小学校。

小学生の運動会の閉会式がり行われている。
紅白の勝敗が決したようだ。
紅組の生徒達はどこか浮き足立っており、白組はどこか元気がない。
と、そこへ……

進行の先生「それではPTA会長から挨拶を頂戴いたします」

そのナレーションを耳にした一人の高学年の男子生徒は唇を噛みしめる。
(男子生徒は身長155センチくらい。短髪で三白眼。白の紅白帽を被っている)

【王子 黒(おうじ くろ)小学5年生】


(身近にある存在理由が謎の組織……そう、PTAだ)
(PTA……Parent-Teacher Association)
(〝親と教師の会〟というらしいが……なんだそれ? はっきり言って意味わからん)

男子生徒「なぁ、あのおっさん、ことあるごとに登場するけどなにやってる人なの?」
男子生徒「知らん(笑)」

周囲には、こそこそ声でそんなことを話している奴もいる。

進行の先生「それでは、PTA会長の王子様、お願いします」

男子生徒「王子様って……」
男子生徒「……そんな見た目じゃないだろ(笑)」

黒の耳にも、ちょっとした嘲笑が入ってくる。

その間に、おじさんが朝礼台に登壇する。
ぼさぼさ頭、少々やつれた雰囲気のスーツ姿。
中肉中背で三白眼のおじさんである。

PTA会長
「そ、空澄そらすみ小学校の皆さん、お疲れ様でした」
「今日は皆さん、運動会を頑張ったかな?」

男子生徒「そりゃ、頑張るだろ」
男子生徒「なぁ」

高学年の男子生徒達の一部が先生達には聞こえない程度の声で、クスクス笑っている。

PTA会長
「雨で延期になっていた運動会、無事に開催できてよかったです」
「なにはともあれ、白組の皆さん、おめでとう! 紅組の皆さん、よく頑張ったね!」

会場がざわつく……

PTA会長「……? でも、勝ち負け以上に……」

PTA会長はなぜざわついているのかわからない様子で話を続けようとする。

そこへ進行の先生がPTA会長に声を掛ける。

PTA会長「え……? 紅と白が逆……?」

会場に微妙な笑いが起きる。

PTA会長「す、すみません……申し訳ない」

PTA会長は恥ずかしそうに子供達にぺこぺこと頭を下げる。

男子生徒「なぁ、あれ、黒の父ちゃんだろ?」

快活そうな男子生徒が黒に話し掛ける。

黒「……」

男子生徒「ギャグセンス、最高……!」

男子生徒達「だはははは」

女子生徒もクスクス笑っている。

黒(最悪だ……)

女子生徒A「ねぇねぇ、そんなことよりさぁ、最近、妖怪が出るって噂知ってるぅ?」

女子生徒B「知ってる知ってる。そんな生徒いないのに不自然な机とかがあるって話でしょ」

女子生徒A「そうそう、怖いよねぇ」


(……女子達は全く関係のない話を始めている)
(本人達に悪気はないだろう。実際、普段は割と普通に仲良くしている)

(悪いのはあの男だ……)

(活動内容不明な組織PTAの長。毎回、行事の度に全校生徒の前で下手なスピーチをする。俺はそんな父が嫌だった)
(はっきり言って、父親がPTA会長なんて恥ずかしかった)

(そう。あの日までは……)

翌朝。
王子家。
一般的なマンションの一室。

妹「お兄ちゃん、そろそろ起きないと遅刻するよ」

黒「あ、うん……」

妹(小3)が淡々とした様子で黒を起こしに来てくれる。
妹は、すでに制服(ブレザー)に着替えている。
※二人の通う空澄小学校は制服がある
肩位までの髪。少し生意気そうだが、可愛らしい。

【王子 青(おうじ あお)小学3年生】

黒は目を擦りながらリビングへ。

???「おはよう、黒」

起きてきた黒を非常に綺麗な女性が出迎えてくれる。
黒の母親。
背中まで伸びる少し長い髪。垂れ目気味の優しげな顔。超美人。
エプロン姿。

黒「おはよう、母さん……」

黒母「うん、ご飯できてるわよ」

黒「ありがとう」

黒は食卓につく。

と、食卓の隣にあるソファで、PTA会長……こと黒父がぽけーっとテレビを観ている。

黒(……)

黒は怪訝そうな表情を父に向ける。


(父がいつも家にいるのはこの時間だけだ……)
(夜は遅くまで仕事なのか、ほとんど家にいない)
(休日もなぜかほとんど家にいない)
(そのくせ、行事の時だけは律儀に学校に来る……)

ニュース
「昨日からタナカタクマ君、10歳が行方不明となっている事件で……」
「近頃、子供の誘拐事件が全国的に多発しており……」
「警察では夜間の外出を控えるなど、注意喚起を呼び掛けております……」

黒父「……物騒だな。黒も夜は遅くならないように気をつけるんだぞ」

黒「……はいはい。こんな時だけ親面かよ……」

黒は悪態をついてしまう。

黒母「こら、黒……! お父さんにその態度はダメでしょ!」

黒「……! わ、わかってるよ……」

黒は母に注意されると素直に従う。

黒父「ママ、いいって……」

黒母「で、でも……」

黒父「それじゃあ、そろそろ出る」

黒母「はい、行ってらっしゃい! いつもお疲れ様」

黒父「あぁ……」

そう言うと、父は玄関へ向かい、母も見送るためにそれについていく。

黒(父の見送りか……ここ最近はずっとしてないな……)

黒「……」


(ってか、いつも思うが……なんで母さんは父と結婚したのだろう……あんな冴えなそうな父と……)

(自分で言うのもなんだが、俺は昔から母さんっ子だったと思う)
(父はいつも家にいなくて、単純に母と一緒にいる時間が長かったし……)

(でも一つ、子供ながらに敗北感を感じたことがある出来事を覚えている)

◆回想。
黒、小1くらい。
子供の時にする無邪気な質問だ。

黒「ママは世界で一番誰が好き?」

(当然、自分が一番だと思っていた。だが……)

黒母「え……? そうだな……パパかな」

黒「……!」

(子供ながらに結構ショックだった)

黒父「ちょ、ママ……」

黒母「なに……?」

黒父「黒が……」

黒は涙目であった。

青「えー、じゃあ、パパはぁ!?」

今度は妹の青がパパに質問する。

黒父「えっ? えーと…………ママ……」

黒母「やった!」

母はなぜか無邪気に喜び、青は涙目になる。

青「うぇえええん! 青じゃないのぉおお!」

青は素直なのか単純に我慢できなかったのか泣きじゃくる。

黒父「ご、ごめんな……でも一番好きなのはママ……だ、だけどな……何よりも大切なのは、××と黒と青だよ」

黒・青「「……!」」

青「その中で誰が一番、大切なのぉ?」

黒父「えっ? お、同じだよ……お、親は子供の順番をつけちゃいけないんだ」

青「なんでよぉ」

黒父「え、えーと……ほ、法律……親は子供の順番をつけちゃいけないという法律があるんだ」

青「ほうりつぅ?」

黒父「そうそう、守らないと警察に捕まっちゃうんだよ」

青「そ、それはダメぇ」

◆回想終了


(あるとき、思い立って、検索したけど……)
(そんな法律ないじゃないか!)
(大人は子供に嘘をついちゃいけないとか言うくせに、自分達は平気で嘘をつく)
(いずれにしても、あの出来事は俺の母さんっ子化……そして父への敵対心に拍車をかけた気がする……)

学校、教室。

???「おっす、おはよー」

黒「……?」

黒に声をかけてきたのは坊主刈りの快活男子である。
しかし、黒はむすっとしている。

【快(かい)小学5年生 ※黒の友人】

快「昨日は悪かったって」

快は苦笑い気味に黒に謝罪する。

◆フラッシュバック回想。
運動会の閉会式のシーン。
快「黒の父ちゃんだろ? ギャグセンス、最高……!」
と黒を茶化す。


「あの閉会式の件、親にも話したら怒られたわ。人が頑張っているのを笑うのは悪しき風習だとさ」
「あと王子さんの家にはお世話になっているからとも言ってたな」

黒(快の親もPTAの役員をやっている)

黒「そうかい。まぁ、もういいよ」

快「お、心が広いね」

快はにかっと笑う。

黒「そんなんじゃねえよ……」

黒(実際、格好悪いのだから、笑うなという方が無理がある……)

快「ところでさ、今日の放課後、忘れてないよな?」

黒「ん……? あぁ……例のアレね……」

黒と快はアイコンタクトする。

夜。

黒(やべ、快と公園でスマブ○してたら、少し遅くなっちまった)

黒は早足に小道を歩く。

黒(父に遅くなるなと言われてたっけ……まぁ、別にあんな奴の言うことなんてどうでもいいのだが……)

そんなことを考えながら通り過ぎた道の角。

異変が起きた。

黒の視界の端に、奇妙な姿の何者かが立っていた気がした。
その異形の者はセミのような堅い体表に覆われた人型。背中には透明な薄い翼がある。
両腕は太く長く、極めて強靭に見える。

【イメージ図】
 ┃☆┃
━┛ ┗━
  ⇒●
━━━━━

☆=異形
●=黒

黒「え……?」

黒は振り返る。
すると、通り過ぎた路地の角から異形の脚がチラリと見える。

黒(え……? え……? やばい……! 何あれ!?)

黒は戦慄し、走り出す。

黒は必死に走りながら再び振り返る。

今度はしっかりと全身を確認できる。
昆虫のような薄い翼をはためかせて浮遊しながら接近してきている。

黒(う、嘘だろ……! 追って来てる!? 何で!?)

黒は必死に走る。
そして運がいい事に交番を発見する。
黒は全力で交番へと向かう。そして何とか辿り着く。

黒「す、すみません! た、助けてください! 変な人に追われてるんです!」

警察官「え……? 変な人……?」

黒「は、はい……! な、なんか……とにかくやばい人です!」

警察官「……」

黒(こ、こんなこと言っても信じてくれないか……!?)

しかし、警察官は警棒に手を当て、表に出る。

すると、異形が交番のすぐそこまで迫っていた。

警察官が異形を視認する。

警察官「ふぁ、ファントムか……!?」

警察官は警棒を構える。

黒(ファントム……?)

警察官「ファントムだ……! すぐに支援要請を……!」

警察官は交番内にいた別の警察官に伝えるためか叫ぶ。

と……

ファントム「大人に゛……用はな゛い」

バキ

ファントムと呼ばれたそれは強靭な腕を一振りする。

警察官「ぐわぁああああ!」

警察官が弾き飛ばされる。

別の警察官「く、くそ……!」

交番内にいた別の警察官が出てきて、ファントムと黒の間に立つ。
そして拳銃を取り出す。

別の警察官「くらえ……!」

拳銃を発砲する。

ファントムの肩付近に命中する。

だが……

ファントム「……だから゛……大人に用はない゛って……美味しくな゛いん゛だから……」

ファントムは全く意に介さない様子で、そして……

バキ

別の警察官「ぐあぁあっ!!」

またしてもファントムの腕により、警察官は吹き飛ばされる。

そしてファントムは黒を見据える。そして……

ファントム「うま゛そう」

黒「っっ……!」

黒は震えながら、へたり込む。

警察官「くそっ……子供に手を出すな……」

警察官はそう言いながら立ち上がろうとする。
しかし動くことができない。

ファントム「それじゃぁ、いただきま゛ーす」

ファントムが手を伸ばす。

黒は恐怖に顔を歪める。

その時であった。

ガキン

何者かがファントムと黒の間に入る。
ファントムの手の進行を野球バッドで止めていた。

黒(え……? あれは……快……快の父ちゃん……!?)

筋骨隆々で、金髪の丸刈りにサングラスをしている。

ファントム「な、な゛んだ……?」

警察官「き、来てくれたんですね……! !」

黒(ぴ、PTAぇええ!?)

???「ありがとうございます、快くんパパ」

黒(ん……?)

黒はその声の方を見る。
そこにいたのは、黒の父であった。
普段と同じく、スーツ姿だ。
しかし、普段の姿からは想像もつかない程、冷たい瞳、そして恐ろしい形相をしている。
そして、腰には木刀を携えている。

快父「いえいえ、でしゃばりましたかね? あとはお好きにどうぞ、黒くんパパ」

黒父「恐れ入ります」

ファントム「な、な゛んだ貴様らは……!?」

黒父「なにって…………」

木刀がオーラをまとい、そして刀へと変化する。

黒父「ただのPTAですが……」

ファントム「っっっ!?」

一閃。

次の瞬間にはファントムの身体は上下に分かれていた。

黒父は刀でファントムを一刀両断にしていた。

ファントム「ぎゃぁあああああ!!」

ファントムはサラサラと砂のように消滅していく。

黒「……」

黒(謎の異形……ファントムの登場、そしてそれをあっさりと惨殺する父……正直に言って……)

黒「いや、意味わからん……」

だが……次の瞬間……

黒「っ!?」

黒父が黒を抱き締めていた。

黒父「黒……無事で……無事でよかった……」

黒「っ……!」

黒(状況の意味はわからなかったが、あの言葉が嘘ではないことだけはわかった……)

◆フラッシュバック回想。
黒父「だけどな……何よりも大切なのは、××と黒と青だよ」

黒(あ……? あれ……? そういえば××ってなんだ……っけ……)

翌朝。
王子家。

妹「お兄ちゃん、そろそろ起きないと遅刻するよ」

黒「あ、うん……」

妹(小3)が淡々とした様子で黒を起こしに来てくれる。
妹は、すでに制服(ブレザー)に着替えている。
肩位までの髪。少し生意気そうだが、可愛らしい。

黒は目を擦りながらリビングへ。

黒母「おはよう、黒」

起きてきた黒を母が出迎えてくれる。

黒「おはよう、母さん……」

黒母「うん、ご飯できてるわよ」

黒「ありがとう」

黒は食卓につく。

と、食卓の隣にあるソファで、PTA会長……こと黒父がぽけーっとテレビを観ている。

黒(……父さん……)

黒「……」

黒(……家族4人のいつもの光景だ)

黒「……」

黒(……あ、あれ? 何かを忘れているような……)

黒父「黒……」

黒「えっ!?」

黒父「……特に変わったことはないか?」

黒「え……あ……うん……」

黒(なんだ……? 昨日、何かがあったような気がするんだけど…………なんだ……? わからない……)

◇ここから視点が変わる

黒父が不思議そうにぽけーとする黒を見つめる。

黒父
(ファントム……奴らについて分かっていること)
(夜にだけ活動し、子供をさらう存在)
幻影ファントムという名の由来にもなっているが)
(厄介なことに、映像などには残らない)
(そして何より子供の記憶からその存在が抹消される)
(その性質ゆえ、どんなに子供に注意喚起をしても100%防ぐことは不可能……)

ナレーション
(そんなファントムから子供達を守るために組織されたのが)
(PTA……Phantom Taosu Associate)
(ファントム 倒す 組織……というわけだ)
(彼らPTAは各学校に一つ作ることが義務化されており、地域のファントムから子供達を守っている)

黒父「……」

黒父がトーストをかじる黒を見つめる。

黒父
(忘れられてしまうことは、正直、少し寂しくもある……)
(だが、それが……〝この役割を放棄する理由には決してならない〟)

黒父「それじゃあ、そろそろ出る」

黒父はソファから立ち上がる。

黒母「はい、行ってらっしゃい! いつもお疲れ様」

黒母がいつものように、見送りに来てくれる。

黒父(いつも通り……だが、その〝いつも通り〟こそが私達PTAが守りたいものだ……)

と……

黒「父さん、行ってらっしゃい……」

黒父「……!」

黒母「黒……! ど、どうしたの!?」

黒「ど、どうって……別に挨拶しただけじゃん……」

黒母「だって、あなた、最近、全然、お父さんに……」

黒「わかんねえよ! でも……なんかしなきゃいけない気がしただけ……あ、あと……いつもお仕事、有難う……」

黒母「……そう」

黒母は微笑む。

黒父「……」

黒父は唖然とする。が……

黒父「あぁ……黒……行ってくる」

そう言って、黒に背を向け、玄関へと向かう。

子供には決して見られないように、頬を拭いながら。

TRRRRR

スマホが鳴る。
※通勤路の道端

黒父「ん……?」

黒父(少し目が赤い)が気付き、スマホに出る。

快父「あ、王子さん、昨晩はお疲れ様でした」

黒父「あ、はい」

快父「快にも夜になる前にちゃんと帰ってこいと改めて伝えましたが……『なんで?』ばっかりで、どれ程、効果があるのやら……」

黒父「ですよね……」

快父
「全く……5年生にもなると、お化けが出るからじゃ聞かないですよ」
「そう言うと、大人は嘘をつくなって言うくせに、自分達は嘘つくんだね……なんて遠い目されちゃいまして……」

黒父「はは……そうですよね……」

快父「あ、それでですね、今日、ちょっと子供会の森本会長と会いましてね……」

黒父「森本会長と……?」

快父「えぇ……それでですね……どうやら例のファントムの目撃情報があったらしく……」

黒父「え……? まさか……!?」

快父「えぇ……そうです…………〝包丁〟です」

黒父「……包丁」


黒父のフラッシュバック回想

子供(女の子)を脇に抱えて、立ち去っていく白装束の女

黒父「…………その話、詳しく聞かせてください」

黒父の目の色が変わる。

ナレーション
(これは大人達の物語……)

(子供達はその事実を忘れてしまっているかもしれない)

(それで構わない)

(だが、子供達に一つだけ覚えておいて欲しいことがある)

(大人達は君達を想い、日々、もがきながら、戦っていることを)

●2~3話へのリンク


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