「大人の楽しい魔物狩り……狩られ」第27話

本作は連載作品です。第1話は下記です。
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 宇佐さんの華奢な体とウツボ恐竜の巨大な口が接触する。

 その寸前でウツボ恐竜の頭が真横に弾かれる。

「っ……!!」

 その隙に、宇佐さんは急いでウツボ恐竜から距離を取り、体勢を立て直す。

「ありがとう……ございます」

 宇佐さんは、命の恩人に感謝を伝える。

 九死に一生を得たにも関わらず、抑揚のない口調なのが、彼女らしいと言えば彼女らしい。

「いえいえ……」

 宇佐さんを救ってくれた早海さんが苦笑い気味の微笑みで答える。

「…………そのレーザー……いいですね……」

 宇佐さんが自身を救ってくれた強力なレーザーについて、ぼそっと感想を述べる。

「ちょっ! 止めてくださいよ!」

 早海さんが慌てふためく。

「流石にマナー違反のPKはやりませんよ……」

「PK?」

 プレイヤーキルという用語を知らないであろう早海さんはサッカーのペナルティーキックのことでも考えているのだろうか、キョトンとしている。宇佐さんなりの冗談なのだろうか。二人のやり取りはこのような状況下においても少し微笑ましい。

「ありがとうございます…… 早海さん、僕じゃ間に合いませんでした」

 俺からも戦友である宇佐さんを救ってくれた早海さんへ謝意を伝える。

「あああ、はい! こ、こ、こちらこそ、ありがとうございます」

 急に声を掛けられて、驚いたのか、慌てた様子で答えてくれる。なんで、ありがとうございますなんだろうか? と思いつつ、弾き飛ばされた怪物に目を移す。

「……」

 ダメージは大きくないか…… ウツボ恐竜は、これまで感じたことのない大きなベクトルを受け、少し驚いたのであろうか呆然としているが、その皮膚に大きな損傷があるようには見受けられない。

 しかし、俺の知る限り、単純な火力なら最大である早海さんのレーザーでも、あの程度のダメージか……思いの外、やばいぞ。

「あいつ、倒せるんですか?」

 俺は、これまでも数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう白川さんに、ピュアな質問をぶつける。

「私が教えて欲しいくらいです」

 しかし、予想通り、期待したような回答は得られなかった。

「そうですね…… 少なくとも、歴代で、ずば抜けて難しいと思いますが…… 今回の皆さんは優秀であると判断されているのかもしれません……」

「まじすか……」

 聞かなきゃよかったと思いつつ、なんとかこの状況を打開する策を思考する。やはり日比谷と金井崎に頼るくらいしか……と自身の発想力の乏しさを嘆きながらも、ふと、再び、ウツボ恐竜の方を確認する。

「え……?」

 ウツボ恐竜のその巨体は地表から離れていた。

 誰がこんな巨大な生物がこんな跳躍をすると思うだろうか。

 それは彼にとっても同じだったのであろう。

 今しがた、頭の中で連想した作戦の要となる人物、唯一、飛行能力を有する人物とウツボ恐竜の口先が重なっているように見える。

 そして、その重なりは維持されたまま、ウツボ恐竜は地面へと自由落下し、爆音と共に着地する。

「金井崎ぃいい!!」

 土間が叫ぶ。

「ど、ど……」

 ごくん…… 確かにそんな擬音語が聞こえた。

 金井崎が何かを言おうとするよりも早く、ウツボ恐竜の口内から姿を消す。

 満足げに目を細めるウツボ恐竜の喉元を何かが通り抜けていく。

 友沢がそれから目を背けたのが俺の視界の端に入る。

「ちくしょぉおおお!!」

 土間がウツボ恐竜に突進しようとする。

「やめろ」

 それを日比谷が静かな声で制止する。

「!?」

「……まだ生存者数は減少していません! 今ならまだ間に合います!」

「冷静さを失うな…… 土間まで死ぬぞ」

「ですが、あれじゃあ、金井崎が……」

「お前は……金井崎が無駄死にだと言いたいのか?」

「……!?」

 日比谷の言葉に土間は思いとどまる。

 グギャア!!

「!?」

 その時、ウツボ恐竜が一瞬ではあるが、悲鳴とも取れる呻き声と共に身を捩る。

「なんだ……?」

「もしかして……中で、金井崎が……いき」

 土間がそれを言い掛けた時、11を示していた数値は10に変化する。

「……」

 ほんの僅かな希望は、いとも容易く絶望へと突き落とされた。

「ちくしょぉ……」

 土間が感情を押し殺すように呟く。

「土間さん…… 金井崎さんがやってくれました」

「!?」

 気付けば、友沢が歯を食い縛りながら、ウツボ恐竜の方を凝視していた。

「友沢……」

 一度は目を背けた光景にもう一度、立ち向かうことは、簡単なことではなかっただろう。

「金井崎さんは、最期に奴の胃袋にブレイドをぶち込んでくれましたよ…… 無駄死になんかじゃありません……!」

「…………ありがとう…… 友沢……」

「僕は、ゴンズイから身を守るので、精一杯です…… 皆さんが戦う中、何の役にも立てません…… だから、せめてこれくらい…… なのに、唯一の役割からすら目を背けそうになりました」

 友沢は感謝を述べられても、少しもうれしくなさそうに自虐的に答える。

「友沢、私も同じね」

 そんな友沢に意外な人物が声を掛ける。

「王さん……」

「気に病むことはない。私達には私達の役割があるね」

「……はい」

 友沢が内心どう思ったかはわからない。

 俺は捻くれた人間だからかもしれないが、この状況ならば、気休めは止してくれとか、戦わない者同士の傷の舐め合いだとか、お前よりは役に立っていると考えたっておかしくはないと思ってしまう。

 だが、友沢は、それら全てを呑み込んだ。

 友沢と王さんのやり取りに気を取られていると、俺の近くにいた別の人物がささやく。

「遺体が、胃酸で、完全に溶かされる前にやらないといけません……」

「え……?」

「私のこと軽蔑してくれて構いません……」

「……?」

「……できれば、あの子のことは……」

 あの子……?

「スキル…………火葬……です」

 その言葉が聞こえた直後から、ウツボ恐竜が激しい呻き声と共に暴れ出す。


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