祓魔師とシガナイくん①


●あらすじ

2050年。
世界中で、12年前から広まった謎の怪病〝怪人症候群〟。
それまで普通に暮らしていた人がある日、突然、異形の者〝怪人〟へと姿を変え、人間を襲う。

その対抗手段として政府は、二つの怪人対策を講じた。
一つが古来より魔から人々を守る祓魔師。
もう一つが人工知能による機械兵部隊である。
しかし、二者は商売敵として、犬猿の仲であった。

そんな中、祓魔師で女子大生の古宮雨(21)は怪人討伐の任で相棒の補佐人を失う。
過去に何度も補佐人を失い、失意の雨の元に、また新しい補佐人が補充される。
浮かない様子の雨であったが、今度の補佐人はどこか様子がおかしいようで……

●補足

ネタバレ設定や作品コンセプトの補足は下記のリンクに記載します。
(まっさらな気持ちで読みたい方もいるかもしれないので……)

●本文

2050年。
東京。
夜のビル街、路地裏。

妊娠しているかのようにお腹の膨らんだスーツ姿のおじさん。
そんなおじさんが酔いつぶれているかのように、気持ち良さそうに路地裏でぶっ倒れている。

と……、

突然、おじさんが悶絶しはじめ、おじさんの腹を食い破るように、人型をした異形が現れる。
※異形=体長2メートル程度の人型。頭と肩が繋がっており、全身に無数の目が生えており、嫌悪を感じる姿。

そこへ二人の人物が現れる。

一人は、女性だ。
黒髪(肩位まで)、スーツ姿に、つるぎを握っている。
極めて美しい容姿である。
しかし、ややうつろな瞳をしている。【女】
つるぎは日本神話に出てくる草薙の剣のような形状

もう一人は、はかま姿。
※神社の神主が着用するようなもの
上は白、下は紫系の色。
和風の狐を模した様な仮面で顔を隠している。
体型から男性と判断できる【仮面】

仮面「いましたね……怪人……」

女「……」

異形の者が、女を見る。(以後、【怪人】)
そして、鋭いとげのようなものを撒き散らす。

女はそれを素早く回避する。

女は怪人に急接近し、つるぎを振り上げる。
怪人の左腕が切断され、地に落ちる。
女は怪人の腹を蹴り飛ばす。

怪人「ウギャアァアアアア!!」

怪人は、けたたましく叫ぶ。

仮面「好機……!」

チャンスと見るや、仮面が怪人に接近する。

女「あっ……! ちょ……」

女は心配そうな表情を浮かべる。

怪人「ウボォオオオオオ!!」

仮面「なっ……!」

突然、怪人の腹部から鋭利な触手のようなものが生える。
そして、仮面の腹部を貫く。
仮面は足元から崩れ落ちる。

女「くっ……!」

女は唇を噛み締めながら、怪人に再接近する。

怪人は突き刺した仮面を投げ捨てて、触手を女に向かわせようとする。

しかし、ほんの一瞬、女の方が速い。
女はつるぎを怪人の頭部に、突き刺す。

怪人「あぎゃぁあああああ!!」

怪人は断末魔をあげながら、消滅していく。

女は、冷酷な目で、怪人が消えゆくのを確認する。

そして、

女「君、大丈夫ですか……!」

倒れる仮面の元へ駆け寄る。

仮面「も、申し訳……ありません……〝補佐人〟の分際で……でしゃばりました」

仮面は息も絶え絶え、女に謝罪する。

女「大丈夫……もう話さなくていい……」

仮面「僕はもう死にます。だから、最期に補佐人の規約ルールを破ってもいいですか?」

そう言うと、仮面は、仮面を外す。

仮面の中は、優しそうな男性であった。

仮面「覚えていますか? クラスメイトだった……」

女「っ……お、覚えてるよ……」

仮面
「よかった……」
「あなたを守るために補佐人になりました……」
「あなたのために……死ねてよかった……」

仮面はそう言い残して、力尽きる。

女「……またか……また自分だけが残ってしまった」

女は無力感からか虚無に近い表情となる。

と……

女「っ……!」

女は、異変を感じ、とっさに仮面から離れる。

仮面の腹部が突然、膨張し、内部から食い破られるように、異形が姿を現す。

女「嘘でしょ? 君も、すでに〝苗床なえどこ〟にされていたのか?」

襲ってくる先ほどまで味方だった男。
女はつるぎを構える。

その時であった。

異形となった男が集中砲火を浴び、無惨に爆散する。

女「っ……!」

女は、その攻撃主の方を見る。

???「怪人の殲滅を確認」

そこには、三体の人の形をした者がいた。
装甲アーマーを着用し、皮膚は金属で覆われている。
三体とも同じような出で立ちをしているが、顔のパーツが若干、異なる。
彼らは機械兵アンドロイドだ。

機械兵B「祓魔師ふつましを発見。商売敵」

機械兵A「任務対象外。手出し無用」

機械兵B「了解」

などと言って、機械兵達は去っていく。

女「……っ、機械兵め……」

女は唇を噛み締める。

ニュースが映し出される。

次のニュースです。
昨日の怪人情報です。
昨夜、発症した怪人は12名(前日比+3名)。
発見された怪人は全て機械兵が殲滅し……

生活感のある部屋で、ニュースを見ていたのは、
パジャマ姿の女(=昨夜のスーツの女)であった。

「全てじゃないよ……」

【古宮 雨(ふるみや あめ)(21) 祓魔師ふつまし

ニュース
「また、祓魔師の補佐人が一名、殉職」
「犠牲となられた方のご冥福を……」

雨「……」

雨は複雑そうな表情を浮かべる。

人間を襲う異形のモノ〝怪人〟が現れたのは12年前。
人々は怪人の恐怖に脅えながら暮らしていた。

政府は、二つの怪人対策を講じた。

一つが人工知能AIによる機械兵アンドロイド部隊。
もう一つが古来より魔から人々を守る祓魔師である。

そう。二つだった。

やや地味な私服に着替えた雨。
和風の家の廊下を歩いている。と……

???「おぉ、雨、おはよう」

雨は振り返る。

そこには、不敵に微笑む男がいた。
長身で整った顔立ち。しかし、少々、人相が悪い。

【古宮 快晴(ふるみや かいせい)(28)古宮家当主】

雨「兄さん……」

雨は無表情に兄と呼ぶ。

快晴
「よぉ、雨。また補佐人が殉職したみたいじゃないか」
「まぁ、補佐人の役割は祓魔師の守護。本来の役割をまっとうしただけだ」

雨「っ……」

快晴「ところで、雨。補佐人が最期に規定ルールを破ったそうじゃないか?」

雨「っ……! なぜそれを!?」

快晴「ふっ……やはりそうか」

快晴はにやりと笑う。

雨(……やられた)

快晴「どうやら補佐人の彼は、君に恋心を抱いていたみたいだね」

雨(それを知っていて)

快晴「可哀そうな男だ。君が恋なんて感情を持ち合わせているはずないのにねぇ」

雨(……)

雨は複雑そうな表情を見せる。

雨(恋……確かによくわからない。だけど、一度だけそれに似たことを経験したかもしれない)

回想。

9年前。
雨、中学1年生。
奇妙な怪病が流行し始め、3年程が過ぎた頃。

まだ目が虚ろじゃない雨。
セーラー服で下校中。

ダンボールに捨てられた猫を発見。
見下ろすように眺める。

雨(…………駆除するか)

雨はカバンから小刀を取り出す。
と、そこへ……

???「ちょちょちょ、お姉ちゃん、何してるの!?」

雨「……?」

雨を止めたのは少年であった。
ランドセルを背負った雨より一回り小さい少年だ。

雨(小学生……3~4年かな)

雨「何って、駆除だけど? 君も知ってるよね? 怪病のことは?」

少年「え……? うん……」


(怪人が出現し始めた当初、猫や犬の異形化も起きていたのだ)
(だからこの猫も捨てられたのだろう)

少年「だ、だからって、お姉ちゃんが殺すことないでしょ!」

雨「なんで……?」

少年「な、なんでって……」

純粋に不思議そうな顔をする雨。
そんな雨の対応に、少年はぐぬぬとする。

雨「じゃあ、逆に聞くけど、その猫が発症したらどうするの?」

少年「うぅ……じゃ、じゃあ、僕が引き取って面倒見るから」

雨「解決策になってない。それで発症したらどうするの?」

少年「その時は……その時は責任を持って、僕が殺すよ」

雨「……!?」

少年が突然、達観した様な顔で物騒なことを言い、今度は逆に雨がたじろぐ。
そして、思わず変な質問をしてしまう。

雨「えーと、君……何者?」

少年「何者って……」

少年はくすっと笑う。

少年「僕は、しがない小学生だよ」

雨「……」

雨(は? なに言っちゃってんの? この小学生……)

雨はちょっと訝しげな視線を少年に向ける。
少年はその視線に気づき、少し恥ずかしそうにしている。

翌日。

再び、雨は下校していた。
心なしかキョロキョロしている雨。
特に何も見当たらずシュンとする。と……

???「お姉ちゃーん!」

雨「はぅ……!」

後ろから小学生に抱き付かれる雨。

雨「き、君……!」

少年「あ、ごめんなさい。また会えたのが嬉しくて、つい」

少年はテヘペロする。
雨は全くもう……といった表情。

雨「そ、それで、猫の様子はどう?」

少年「どうもこうも普通だよ、普通」

雨「そう……それならよかった」

雨はほっとする。


(それから、私は下校時にしばしばその少年と会った)
(いつしか少し不思議な雰囲気のその少年と会うことを期待していた)
(だが、ある日のことだ)

少年「ごめんなさい。お姉さんと会うのはこれで最後」

雨「え……? なんで……」

少年「ごめん、お姉さん、古宮……さん……なんだよね?」

雨「え……そ、そうだけど……」

雨(彼には名前は伝えていなかった。どこでそれを……)

少年「だから、もう会えない。本当にごめんなさい」


(少年はそう言い残して、去っていった)
(そして本当に二度と通学路に現れることはなかった)

回想終了。

現在。
和風な家の廊下にて、雨と兄の快晴。


(兄の言う通りなのはしゃくだ)
(だけど、確かに恋なんてものはしていない)

快晴
「大丈夫、補佐人の代わりならすぐに補填されるさ」
「怪人に恨みがある奴はいくらでもいるからな」

そんなことを言いながら、快晴は歩き去っていく。

リビング。
雨はテーブルで、ポツンと一人。
黙々とトーストをかじっている。
と……

???「お? 雨か」

雨「……!」

渋い顔をした老人が現れる。

雨「あ、おじいちゃん」

【古宮 凪助(ふるみや なぎすけ)(82)雨の祖父】

雨は少しだけ子供の表情になる。

凪助「今日は早いな」

雨「うん、今日は早めに家を出ないと」

凪助「そうか」

一瞬、沈黙が流れる。

凪助「雨、昨晩の補佐人の件は辛かったな」

雨「え……? あ、うん……」

雨は少し気まずそうにする。

凪助「いくら稀代の才があるとはいえ、お前と快晴には、頼り過ぎだろうか……」

凪助は遠くを見るように言う。

凪助
「しかし、補佐人がすでに苗床にされているとは……」
「災難だったな」

雨「そうだね……機械兵が殲滅しちゃったけど」

凪助「っ……機械兵……」

凪助の表情が険しくなる。

雨「……」


(政府は、二つの怪人対策を講じた)
(一つが人工知能AIによる機械兵アンドロイド部隊)
(もう一つが古来より魔から人々を守る祓魔師)
(最初はそうだった)
(でも、今ではその9割を機械兵が担っている)
(機械兵であれば人的被害も出ない)

凪助
弓堂きゅうどうの機械兵め……余計なことを……忌々しい」
「我々、祓魔師の汚点は我々が払拭ふっしょくすべきだ」

雨「……そうだね」


フラッシュバックするような回想。

へたり込んでいる雨。(中3)

視線の先に、凪助とおぼしき老人の後ろ姿。
さらにその先に、壮年の男女が不敵に微笑んでいる。
(壮年の男女は頭にリング、触手の集合体のような翼が生えている。)
凪助とおぼしき老人は雨を守るように、壮年の男女の前に立ちふさがっている。


(祓魔師の家系、こと古宮家においては特に、怪人に対し強い責任を感じていた)
(だから、機械兵の生産を手掛けている弓堂きゅうどう財閥に対して)
(〝余計なこと〟と感じている人も少なくない)

凪助「しかし、どうなのだろう。我々の考え方は前時代的なのだろうか……」

ふと、凪助がこぼすように言う。

雨「……どうだろうね」

そして、凪助は遠くを見るように言う。

凪助「我々、祓魔師も価値観をアップデートせねばならぬのかもなぁ」

シーン変わる。


(祓魔師も価値観をアップデートしなければならない)
(だからって……)
(だからって……大学……!?)

雨は大学の講義を受けている。
私服。武器の剣は目立ちにくいように包んで携帯している。

【古宮 雨(ふるみや あめ)(21) 大学2年 ※ひっそりと一浪】

凪助(回想)「雨も世間を知るために俗世の体験をするのじゃ」

雨(なんて、おじいちゃん言ってたけど……)

雨「……」

大半の学生はグループを形成している。
講義を真面目に聞いているようには見えない。

しかし、雨はぼっちで講義を聞いている。
ノートには生真面目に取ってあるメモ。

(大学において、雨は、ガリ勉ぼっちキャラであった)

講師「それでは期末試験、心して臨むように」

講義が終わる。

雨は、ふぅと一息つく。と……

???「古宮さーん」

雨「……?」

垢抜けた雰囲気の女学生グループ。
その中でも、中心人物的な明るい髪のギャル風女子が声を掛けてくる。

雨「はい……?」

ギャルは多少、言いにくそうにモジモジしている。

ギャル「あのさー、この講義の試験ってノート持込可じゃーん」

雨「……」

ギャル「だからその~~」

雨(……またか)

雨「いいよ……コピー済んだら返してね」

ギャル「ありがとー、ガリぼっ、じゃなかった、古宮さん!」

ギャルはニコニコしながら、さっとノートを受け取り、そそくさと離れる。と……

???「古宮さん」

雨(ん……? 今度はなんだ)

見ると、そこには男子学生がいた。
細身で柔和な表情をしたイケメンである。

男子学生「古宮さんは優しいんだね」

雨「……」

ふと見ると、
先ほどの女子グループ達が足を止めて、恨めしそうに様子をうかがっている。

雨「……優しいというか断る甲斐性がないだけ」

雨は淡々と応える。

男子学生「ふふ……そうかい……」

男子学生は、なにか分かった風に微笑み、雨の発言を受け容れる。

雨(……なんだこの人、ちょっと苦手だな)

男子学生「どうだい? 古宮さん、たまには一緒にランチでも?」

雨(ひっ……)

雨「ご、ごめんなさい……!!」

そう言って、雨は足早に去っていく。

男子学生「あらら……フられちゃったかな?」

雨は、去り際に、「なによ、あのガリぼっち、少し顔がいいからって……」のような陰口が耳に入る。

一人、お弁当を食べる雨。

雨「はぁ……」

溜息をつく。

雨(なんだって、おじいちゃんはこんなところに……)

数日後、夕方。
雨の自宅、道場。
雨はスーツ姿。

???「初めまして」

仮面で顔を隠した人物が雨に挨拶をする。
袴姿。身長は高くがっしりしている。
新しい〝補佐人〟である。
※冒頭の補佐人と装いは一緒だが、新しい補佐人の方ががっしりしている。

雨「えぇ……初めまして」

雨(結局は兄の言った通り。補佐人はすぐに補填された)

雨「私は古宮雨、よろしく」

補佐人「よろしくです。自分は……えーと……そうですね……しがない補佐人です」

雨「……!」

ふと、雨は思い出す。
あの不思議な少年が「しがない小学生」と自称していたことを。

補佐人「……? どうかしましたか?」

雨「いえ……よろしく、補佐人さん」

補佐人「ところで、えーと、あ、雨さん……」

雨「はい?」

雨はなんだろう?という顔をする。

補佐人「怪人の倒し方のコツとかってありますか?」

雨「……!」

雨は少し虚を衝かれたような表情をする。が……

雨「そうですね。基本的に頭をぶち抜けばいいかと」

補佐人「な、なるほど……ぶち抜く……」

その後、雨はいくつか補佐人の対怪人戦闘に関する質問に、丁寧に応える。

補佐人「なるほど……勉強になります!」

雨「参考になったならよかったです」

複雑そうな表情の雨。

雨(とても熱心な人。悪い人ではないのだろう……でも、この人もいずれ……)

夜の公園。
雨と補佐人の二人。

補佐人「ここに怪人が出たんですね?」


「えぇ、そう。あなたにとって初めての任務ですね」
「相手は下位の怪人一体。通常であれば、難しくはない任務」

補佐人「通常であればという含みが気になりますが、頑張ります!」

補佐人は初めての任務の割には、肝が据わっているようだ。

怪人「グギャァアアア!!」

雨がつるぎで怪人の頭部を一突きにする。
怪人は消滅していく。

補佐人「おぉー、お見事です」

補佐人が控えめに拍手し、雨を讃える。

雨「ありがとう。下位の怪人でよかった」

雨は淡々と応える。
すると……

???「この人殺し!!」

雨・補佐人「……!?」

突然、罵声を浴びせられる。
そこには、壮年の女性がいた。

さらに、プラカードを持った五人くらいの集団が現れる。
プラカードには
〝ストップ殺人〟
〝政府の陰謀を許さない〟
〝怪人は天使の子供〟
〝怪人に罪はない〟
〝怪人を保護しよう〟
のようなメッセージが書かれている。

怪人の人権を守ることを主張する活動家のようだ。

活動家「人殺し! お前達に人の心はないのか!?」
活動家達「そうだー! そうだー!」

雨「っ……」

雨は少々、たじろいでいる。

補佐人「なんですか!? あなた達! あなた達を守るために命を懸けている祓魔師に対して!」

たじろぐ雨に代わり、補佐人が抗議してくれる。

活動家「そんなこと頼んでないぞー! 怪人がかわいそうだ! 怪人を保護しろ!」
活動家達「そうだー! そうだー!」

補佐人「保護しろって、それがどれだけ難しいか……そのための財源は……」

活動家「そうやってすぐ金の話をして、論点をすり替える。人命は金には代え難い尊いものだ!」
活動家達「そうだー! そうだー!」

補佐人「っ……! お前らっ……」

雨「いいよ。補佐人さん」

補佐人「っ……!」

雨「行こう」

補佐人「……はい」

そうして、雨と補佐人はその場を去ろうとする。

活動家「逃げるのかー! 卑怯者ー!」
活動家達「そうだー! ソウヴぁ!」

活動家「……?」

一瞬、後ろのメンバー達の掛け声が奇妙な様子になる。
それが気になった活動家のリーダーらしき壮年の女は振り返る。
しかし、後ろのメンバー達に特に変化はない。
活動家は再び、雨達の方へ向き直る。

活動家「怪人は天使の子供だー! この人殺しどもめー!」
活動家達「ソウヴぁ! ソウヴぁ!」

雨・補佐人「っ……!」
活動家「……!?」

活動家のリーダーらしき壮年の女が再び振り返る。
すると、後ろにいたメンバー全員が異形の姿へと変貌していた。

活動家「ひっ……」

活動家の顔が凍りつく。

活動家「だ、大丈夫……怪人さん……私はあなた達の味方……」

怪人達から触手が伸びてくる。

活動家「ぎゃぁああああ……バケモ……ぶぺ……ぶぺ……」

活動家は見るも無残な姿にされてしまう。

雨・補佐人「……っ」

そして、怪人達の視線が雨達の方へと移る。

雨「まさか……苗床の温床にされていたなんて……」

補佐人「天使も趣味が悪いようで……」

雨「そうね……それに……」

怪人達「ウボォオオオオオ!!」

雨(結構まずい……数が多い上に、高位の怪人も混じってる)

怪人達「ウボォオオオオオ!!」

3体の中位怪人が同時に襲い来る。

雨「っ……! 下がって……!」

雨は補佐人に後退を指示する。

補佐人「はい……!」

怪人3体を雨がつるぎで食い止める。
そして、背中越しに補佐人に指示を出す。

雨「補佐人さん、結界をお願いします!」

補佐人「了解です」

補佐人は一般人が巻き込まれないようにするための〝結界〟を張る作業に入る。


(怪人の数は5)
(こいつら3体が中位の怪人)
(そして……)

雨は後ろで待機している2体の怪人に視線を向ける。

後ろの2体の怪人は全身に目がある。

雨(上位、2体か……)

雨はしんどそうな表情を浮かべる。と……

前の中位怪人の3体が一斉に攻勢を強める。
両腕を触手のように変化させ、雨を襲う。

補佐人「雨さん……!」

補佐人は思わず叫ぶ。

だが、雨は無事である。

雨は透明な壁バリアのようなものを展開し、攻撃を防いでいた。

雨(魄術はくじゅつ……境界壁きょうかいへき

(古来より魔から人々を守るために活動してきた祓魔師)
(そんな祓魔師が編み出した術〝魄術はくじゅつ〟)
たましいの形質を変化させ、特徴的な術を生み出す)

(稀代の才と呼ばれる古宮雨の魄術はくじゅつは〝境界〟)
(他者との間に境界を生み出す)

雨「せやぁああ!」

雨は剣を怪人の一体の頭部に突き刺す。

怪人「ウギャァアアアア」

中位怪人の一体が断末魔をあげながら、消滅する。

補佐人「すごい……これが雨さんの〝境界〟」

が、次の瞬間であった。

激しい炎が雨を襲う。
それは後方に控えていた上位怪人が放ったものであった。

補佐人「雨さん……!」

雨「っ……!」

雨は境界の守りにより、無事であった。

怪人達「ウボォオオオオオ!!」

だが、上位怪人を含めた四体が同時に雨に襲い掛かる。

激しい攻防となる。
雨は境界を駆使し、隙をついてつるぎを怪人の頭部に突き刺していく。

最初に中位の怪人2体。
そして、上位の怪人1体を仕留める。
だが、上位怪人を仕留めた際の一瞬の隙をつき……

怪人「ウボォオオオオオ!!」

最後の1体の攻撃から伸びた触手が、境界の隙間を縫うように、掻い潜る。
そして、雨の脇腹付近に叩き込まれる。

雨「かはっ……」

雨は吹き飛ばされる。

雨「くっ……」

クリーンヒットを浴びた雨はすぐに立ち上がることができない。
そこへ怪人が容赦なく距離を詰めてくる。
だが……

雨「え……?」

怪人と雨との間に、補佐人が立ち塞がる。

雨「……! いけない……!」

雨は焦燥する。

前の補佐人が殺されたシーンがフラッシュバックする。

そして、雨の不安は的中する。
怪人は口をぱかりと大きく開ける。
そして、巨大な炎を補佐人に向けて発射する。

補佐人「ぐぁあああああああああ!!」

補佐人は灼熱の炎を正面から受け、無惨にも炭色に変色する。

雨は唇を噛み締める。

雨(……また……またなのか……)

雨の顔から表情が無くなる。

だが、次の瞬間であった。

怪人の身体の右肩口周辺が弾け飛ぶ。

雨「え……?」

雨は驚く。
補佐人の飛翔する左拳。
それが怪人の損傷を引き起こしていた。

更に、帰ってきた左拳を再装着した補佐人。

そして……

補佐人「おらぁああああ!!」

追い打ちをかけるように、怪人に接近する。
そして、日本刀の形をした光る剣※で怪人の頭部を貫く。
※ライトセーバーみたいな感じ

怪人は断末魔をあげながら消滅していく。

雨「き、君……」

雨は目を丸くして、補佐人の背中を見つめる。

先の炎による攻撃で仮面が消滅してしまった補佐人が振り返りながら言う。

補佐人「自分、言いましたよね? 〝い〟補佐人だって」

その顔は、金属で覆われている。

雨「あ、あなた…………機械兵なの?」

雨は呆気に取られた様子で尋ねる。

補佐人「え? えー、まぁそうです」

補佐人はやや歯切れが悪い。

雨「な、なんで機械兵が……補助人を……」

補佐人「凪助様は認めてくださいましたよ」

雨「おじいちゃんが……!?」

凪助(雨の想像)「価値観のアップデートじゃよ」

雨「……」

と、雨は急にくるりと後ろを向いて補佐人に背中を向けてしまう。

補佐人「……? どうしました……?」

雨(……よかった……死なないでくれて……よかった……)

雨は補佐人に見えないようにポロポロと涙を流す。
今まで何度も経験してきた補佐人の死。
雨は命懸けで守ってくれた補佐人に感謝していた。
それでも生きて隣にいて欲しかったのだ。
そんな溜め込んでいた思いが溢れたのだ。

補佐人「……」

補佐人は気づかないふりをする。
そして、

補佐人「……凪助様はこうも仰っていました」

雨「……?」

補佐人「怪人を倒しても仕方がない。〝天使〟をはらえと」

雨「……!」

雨の目に力がこもる。

ラブホテル。

???「あ゛……あ゛……」

半裸の女が喘ぎ声のようなものを上げている。

床には、ノートが転がっている。
雨が貸したノートだ。

女の姿が足元から始まり、徐々に上半身が映し出される。

そして、顔へ。

大学にて、雨からノートを借りた女の後頭部に触手が刺さっている。
女は失神しながら、「あ゛……あ゛……」と声をあげている。

(怪人を倒しても仕方がない)
(怪人が働き蜂だとすれば、それは女王蜂のような存在)
(人間を苗床にして怪人を増やし続ける存在……〝天使〟)

グシュッ

女の頭頂部から触手が引き抜かれる。

???「産卵完了♪」

大学で雨をランチに誘った男子学生が不気味に微笑む。

●2~3話へのリンク


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