【翻訳版】ByteDance CEO イーミンからの手紙(非公式)
ByteDanceのCEOを務める張一鳴が若干38歳でCEOを退任するとのことで、少し話題になりました。それに際し社内向けに書かれたレターが非常に刺激に溢れるもので、どうしても翻訳して多くの人に読んでもらいたくなったのでこちらで公開します。
完全に僕と弊社社員の拙訳であり、非公式のものなので怒られたら消しますし、訳文が正確でない部分もあると思いますのでそちらに関しては先に謝っておきます。しかし、かっこいい。イチイチ痺れるんですよね。
この短い文章だけでも、起業家としての視座感、果たすべき役割、権限委譲など多くのことを学べた気がします。それでは序文はこれくらいにして、以下本文です。
訳文全文
最近、なぜOKRを更新していないのかと社内で聞かれる機会が増えました。正直、新たな戦略的機会や組織マネジメント、社会的責任といった分野において、以前自分が立てた目標を達成しきれていないように感じています。今年の初頭から多くの時間を費やし、単に着実で漸進的な進歩によるものではない、長期的なブレイクスルーをより効果的に実現する方法を考え続けてきました。
数ヶ月考えた後、すべての日常的な責任を伴うCEOの役割の外に出ることで、より長期的なイニシアチブを取れるような、さらに大きなインパクトを与えられるようになるのではと結論付けました。以下では私がこの結論に至った経緯を説明させてください。
過去9年間の我々の成功は、産業が発展するベストタイミングでイノベーションを起こしてきたケイパビリティに基づいています。特に、モバイルや動画領域への機械学習の適用が例として挙げられるでしょう。
大学を卒業してからByteDanceを立ち上げるまで、情報を効果的に広めること、テクノロジーを駆使してプロダクトを改善すること、そしてプロダクトを創るときと同じように、コンスタントな評価、調整をしながらイテレーションを回すプロセスを通して会社の発展に取り組むことなどについて熟考し、学ぶことに多くの時間を費やしました。 深い思考と発想に没頭したその期間がByteDanceの基礎を作ったのです。そして我々のビジネスが順調に成長している今こそ、「創造性を刺激し、人生を豊かにする」という我々のミッションを実現するべく、単に規模を拡大するだけでなくイノベーティブで意味のある長期的な進歩を遂げる方法を考える時です。
イノベーションと成功は、何年にもわたって何が可能かを探求・想像することによって引き起こされます。しかし、過去と現在の成果をモデリングすることで将来を予測できる人はほとんどいません。世間は電気自動車の成功に驚いていますが、テスラはすでに18年前からやっており、最初はノートパソコンのバッテリーを使って自動車に電力を供給したことを忘れているわけです。Appleのソフトウェア管理ツールHomeBrewについて知っていても、コンピューターオタクが1970年代にHomeBrewClubでApple Iについて話し合っていたことを認識している人はどれほどいるでしょうか。テクノロジーが社会にこれまでにないほど多大な影響を与える現代では、例えばVR、生命科学、計算科学などが人々の生活に大きな役割を果たしています。これらの現代技術の進歩のためには、惰性を打ち破り、探求することが必要不可欠なのです。
この会社が7周年を迎えたとき、不思議の国のアリスの「ええ、時には朝食前に6つもあり得ないことを信じましたよ」というフレーズをみなさんに共有しました。まだただの可能性に過ぎない、そういった可能性について考えることが私は好きなのです。長い間、自分のオンラインステータスを「Daydreaming」と表記していますが、ここでの「Daydreaming」の意味は、私がただぼーっとしているということではなく、人々が単なるファンタジーだと思うかもしれない未来の可能性について考えているということです。実際に、過去3年間でファンタジーのように見えた多くのことが現実となっています。
しかし、会社を始める前から持っていたアイデアに頼りきっている現状を懸念しており、とは言えそういったコンセプトをアップデートするという自分への挑戦もできていません。一例として、2017年以前は、機械学習の開発に関してずっと先端を追い続けることに多くの時間を費やしていましたが、それ以降は技術関係の記事を頑張ってブックマークするだけに留まり、その分野を深く掘り下げる時間が取れていません。その結果、技術会議において議論に追いつくために四苦八苦するシーンが増えてきたのが正直なところです。
3年前、私はビジネスをスケールするための障壁について何人かの起業家と議論しました。企業が成熟して拡大すると、CEOが過度に中心的になり、プレゼンテーションを聞いたり、承認を処理したり、事後対応的に意思決定を行なってしまうという一種の罠に多くの経営者が陥ります。これは、社内の既存アイデアへの過度な依存につながり、知識構造のイテレーションを遅めてしまうでしょう。
この罠を回避するために、私は過去6か月間、ByteDanceで新しい役職を担うことを徐々に決心しました。私の強みである限りなく焦点を絞った学習、体系的な思考、新しいことに挑戦する意欲の高さなどを活かして、今後10年間で会社が達成しうる限界に挑戦できるようになると強く思っています。
また、社会への還元も重要であると思い、教育、脳疾患研究、古書のデジタル化など、新たな取り組みを模索し、多くのプロジェクトを立ち上げてきました。自分自身で関わってくる中で、自分のアイデアを提供し、新しいソリューションを届けることで、今後さらに多くの還元を行いたいと思っています。
同時に、まだまだ改善が必要なことが社内にはたくさんあり、日々の管理改善などにおいては他のメンバーの方がより良い進歩を実現できると考えています。つまり、私は理想的なマネージャーを生み出すスキルのいくつかを欠いているということです。私は、実際に人をマネジメントするのではなく、組織と市場の原則を分析し、これらの理論を活用してマネジメント業務をさらに削減することの方が興味があります。同様に、私はあまり社交的ではなく、インターネットや読書、音楽を聴くこと、そして何が将来可能になるかについて空想に耽ることなどの孤独な活動を好む人間なのです。
今年3月に、ByteDanceの共同創業者であるRuboがCEOに就任し、マネジメントや組織構築、社会との接点といった彼の強みを活かしていく可能性について、少人数で議論を始めました。チームはそのアイディアを理解し、サポートしてくれました。Ruboは元々別の会社を立ち上げる時も手伝ってくれ、今まで長年にわたって近い距離で仕事をしてきました。皆さん多くが知っているように、RuboはByteDanceのフェーズによって数多ものクリティカルな役割を担い続けてくれました。R&D、Lark、エンジニアリングの効率化、そして最近は特に、人事と組織マネジメントのトップをやりながら、ありえないスピードでグローバルに成長することを牽引してきました。
思えば、Day 1からRuboはかけがえのないパートナーでした。新しいシステムのコーディングを完成させ、サーバーを購入してインストールし、主要なリクルートメント&コーポレートポリシーとマネジメントシステムを構築し、彼の貢献をリストにして列挙すればキリがないでしょう。今後6か月間、私たちは可能な限りスムーズな移行を確実にするために協力して取り組みますし、皆さんも彼をサポートしてくれることを確信しています。
数年前SNSに「旅行をする意義は、時間と空間を切り替えることで、新しい環境に身を置きながら他人の人生を観察し、自分自身、そして自分の人生を第三者的な目線から振り返るのに役立つことだ」と投稿しました。CEOとしての役割を引き継ぎ、日常の経営の責任から離れた後は、会社に対してより客観的な視点で、長期的な戦略、組織カルチャー、社会的責任を探求する余地があるでしょう。
2012年のビジネスプランを話している時、会社を作る上での一番の報酬は一緒に旅を楽しめることだとチームに言いましたよね。この会社の新たなるフェーズを楽しみに、共に航海を続けましょう!
Yiming