第一回千字戦 参加作品
※以下二編は惑星と口笛さまの第一回千字戦(お題を受けて20分以内に1000文字以内の文章作品を書き上げ、朗読し合って投票し、勝ち抜けを決める)に参加した作品です。
一回戦 お題【方向】
『アウトロー』
太陽はかんかんと照っていた。
「東へ向かうぜ。東はどっちだ!」
ここは砂漠のど真ん中。マントで身を包んだ連れが怒鳴る。
「猫が西向きゃ尾は東、だ。
俺が呟くと、毛むくじゃらの連れは一笑に伏した。
「犬だそりゃ! たとえ猫でも、お前さんの短か尻尾はひねくれて北を向いてるじゃねえか」
アウトロー猫の俺は、テンガロンハットのつばを引っ張り下げる。この太陽熱は猫にはきつい。
「てめえの尻尾こそ、いつも落ち着きなくぶん回しやがって、どこ向いてるかわかりゃしねえ!」
アウトロー犬の連れに悪態をつき返す。やつはバンダナマスクの下で、鼻っ面から笑い声を漏らした。
「へっへっへ、股の間に丸めてねえだけ上等ってもんよ」
「だろうな! ……いくぞ」
俺は自分の、豚のようにひね曲がった短か尻尾は嫌いじゃないが、あえて言われると腹が立つ。太陽の向きとコンパスを見比べて、砂をざかざかと蹴って早歩きをし出した。
「日が暮れる前に次の町に着くんだ。……ジャゴリカっていったか」
「オーケー相棒。そこに着きゃあ山のような水と、おやつの骨たちにありつけるってワケだな!」
砂漠に転がっていたラクダの頭骨を蹴飛ばして、連れも必死で走り始める。
「どうかね! ……前の町みたいに血の海になるかもしれん」
「それはそれで良い。派手に盛り上げてやろうじゃねえか」
隣に追い付いてきた連れの牙が、凶暴そうに光る。俺は「へっ」と鼻で笑って、懐のホルスターを肉球で撫で、細まる瞳孔で白く光る砂を睨みつけ、ただただ足を動かした。
《了》
敗者戦(&二回戦) お題【開いている】
『シュレディンガーの三毛猫』
というわけで、本日も思考実験の時間です。皆さんよくご存じの〝シュレディンガーの猫〟。密閉されたこの箱の中にはね、猫ちゃんが入っています。猫ちゃん。
それでね、こっちの机の上にあるスイッチ。ふたつのスイッチの内どちらかを押すと、箱の中には毒ガスが充満します。そうすると猫ちゃんは死んでしまうわけですねー。
まあこれは思考実験なので実際にスイッチは押さないのですが、箱の中の猫ちゃん。猫ちゃんが生きているか死んでいるかわからない状態、これを量子力学的な未確定の状態と呼ぶわけなんですねぇ。
にゃー
……え、開いている? あらまあ~! 開いた蓋から三毛猫ちゃんが顔を出してますね! あくびなんかしちゃってもう。かわいいですね~。
でもこの子は箱に入っててもらわないとね、実験が成り立ちませんからね、蓋を閉めます。クローズ・セサミ! ……いたたたた! ちょっとちょっと皆、捕まえて!
あーもう教室を走り回って棚とかのぼっちゃって、大暴れですね~。あーそこの君、噛まれちゃいました? そんなことよりも扉を閉めて! 逃げちゃったら大変ですからね! 密閉しますよ! この教室を密閉するんですよ。
はい、これで密室になりましたね。完璧な密室です。箱の代わりに猫ちゃんを教室の中に閉じ込めたわけです。……私たちもですけどね。
こういうときは騒いじゃいけません。取り出したりますはこのねこじゃらし。は~い三毛猫ちゃん、こっちに戻っておいで~。
にゃんにゃにゃうにゃ……
はいはい、かわいいですね~。遊びたいんですね~。猫ちゃんは狩猟動物ですからね、こうやって遊ぶのが大好きなんです。狭い机の上でもこんな風にくるくるくる。もう夢中です。
今日は猫の生体の授業にしちゃいましょうかね。ほら、こんなに高く振ってもハイジャーンプ。きれいに着地します!
ぽちっ。うぃーん。ぶしゅうううううぅーー
あっ。
《了》
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