フィルター、みたいな
奈良市立一条高校でおこなわれている「よのなか科」。
かの有名な藤原和博先生のアクティブラーニング授業に我々一般人も参加できるとあって、12月・1月と出席したのだが、その1月回のときの話。
(よのなか科そのものについての記事ではありません悪しからず(笑))
私が講義室に入ったときには もう既にたくさんの参加者が着席しており、空席を見つけるのに必死だった。なんとか空いている席を探し、着席。3人掛けの席で、右端には同年代くらいの男性が座っている。めっちゃ仕事できそうな雰囲気の人だ。隣に座るのは気が引けるので、間を1つ空けて、私は左端に座った。
開始直前、若い女の子が、「すみません。。。」と座りたそうに声をかけてきたので、席を譲り、私は真ん中の席へずれた。パーソナルスペースを確保したいタイプなので、初対面の人に挟まれるのはまぁまぁなストレスだった。
授業が始まり、早速「よのなか科」ではお決まりの、”ブレスト”の時間。とにかく、同じ席や近くの席の人と意見を交わすのだ。正解・不正解のない問題に関して、とにかく自分の思うことを何でもいいから口に出して、参加者の脳をつなげるというもの。ウォーミングアップのお題は「白が一般的だと思われているもの」。こちらの心の準備など関係なく、藤原先生の「はい始めてー」の合図でスタートする。
「ノートとか?」「うーん、ティッシュ。」「ウエディングドレスもですね!」「あー。じゃぁ、トイレットペーパー。」「それ、ティッシュ(笑)」
こんな感じで、私と右隣の男性は思いついたものをとにかく口にしていく。
そんな中、左隣の女の子は無言を貫いている。一応、気を利かせるつもりで「何かあります??」と、もちろん優しめの口調で声をかけた。
なのに、だ。
彼女は目線をこちらにくれることもなく、まっすぐ前を向いたまま、少し目を伏せて、不機嫌そうに首を横に振るだけ。
えっ。。。
正直そのファーストリアクションにびっくりした。
そもそもこの「よのなか科」は自由参加で、この授業に興味のある人間が集まっている。アクティブラーニングの見本授業ということで、全国から、この授業のためだけに奈良に来たりするのだ。こういう風に積極的な意見交換をする場であることはもちろん承知の上で参加しているはずなのに、なんだこの非協力的な態度は。ていうか、何しに来たんだろう、とすら思ってしまった。
この質問はまだウォーミングアップ。このあと、もっと本題でディベートしなければならないタイミングが何度も来るというのに、大丈夫かよ。「うわー、今日はもう終わったな。。。」と思う自分がいた。
悪い予感は的中。その後もブレストのたびに、だんまりを決め込む彼女。コミュニケーションにならないのだ。「どう思います?」ってもちろん優しい口調で(もう分かったて)聞いても、まあ答えてくれるときもあれば、黙って首を横に振るだけのときもあり。ディベートでは、自分の意見に関係なく「じゃぁ、右の人は賛成、左の人は反対の立場で議論して!はい、スタート!」とか言われるわけだが、またしても何も喋ってくれないので「どうですか?」って聞いたら「本当は賛成だから、反対の意見なんて言えない」というわけだ。
えーーーーーーーーーー!!!!大前提!大前提よ!!!!!!
ビックリしすぎたけど、「真ん中のひとは、賛成か反対か、議論で弱そうな方に味方して!」と言われているので、彼女に加勢し、なんとか反対意見を言ってみる。そうすると今度は「えっ、でもさぁ・・・」とか言って、私に対して反論をしてくるわけだ。そりゃそうだ、だって彼女は賛成なのだから(笑)
授業よりも気になることが多すぎて若干パニックになりそうだったが、それでも数少ない機会だからできるだけたくさんのことを吸収して帰りたいと思っている私。そんな私に彼女は超マイペースに「筆記用具何も持ってきてないんです。そのペン貸してもらえますか?」と私の使っていたペンを要求してくる。もうこれくらいのことでは驚かなくなっている自分がいた。貸すよ。いくらでも貸す。なんなら、あげる。
こんな感じであっという間に(いや、そのときはある意味もっと長い時間に感じたけど(笑))授業は終わった。疲れた。
授業の後は少し休憩を挟んで大人の交流会がある。左隣の彼女は、20代前半か、下手すれば10代くらいに見えた。化粧はせず、髪の毛はシンプルなヘアゴムで1つにまとめ、眼鏡をかけていた。学生さんかな?もう帰る準備してるし、きっとこのあとの交流会には残らないのだろう。ペンも返してくれた。あげるのに。(いらんやろ)
90分間心の支えだった右隣の男性とも雑談しながら、会話の流れで彼女に「学生さんですか?」と聞いてみたら「はい」と答える。あ、やっぱりそうだな。そう思った次の瞬間。
「13歳・・・あ、12歳です。」
はい?
思わず本当に聞き返した。なんと彼女は中学一年生だというのだ。誕生日がまだ来てないから12歳だと。
ビックリしすぎて思わず「偉いねーーーーー!!!!!!」と言ってしまった。「なんで参加しようと思ったの?」と聞くと「お母さんに連れて来られた。お母さんは別の席に座ってる」と答える。筆記用具の一つも入っていない鞄から何やらゴソゴソ出して私に見せてくれたのは、生クリームと苺がめちゃくちゃ美味しそうに挟まれたフルーツサンドだった。「これ、買ってもらって、だから、一緒に行ってみようって言われて」と。そのとき彼女が見せてくれた笑顔は、本当に純粋で幼くて、なにより可愛かった。その瞬間、今日の彼女の言動や行動がすべて辻褄が合った気がした。私は90分間、彼女の何を見ていたのだろう。恥ずかしくなった。
帰り際、彼女のお母さんがわざわざ私たちの席まで来てくださり「すみません、お世話になりました、ありがとうございました」とお礼を言って彼女を連れて帰っていった。
なんか、こちらこそ、本当にありがとうございました。
ていうか、すみません。
なんとも表現しようのない気分になり、色々考えたけれども、その気分の正体は今でもよく分からない。
でも、なんというか、自分の持っているフィルターというか、物事なんて自分で思っているほど客観的には見られてないんだなという気付きみたいなものに、暫くの間言葉を失った。
私は致命的に人の名前や顔を覚えられないのだけど、彼女の顔は、あのフルーツサンドを見せてくれたときの表情は、今でも鮮明に思い出せる。
そんな、なんでもない日のこと。