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「大いなる不在」サウンドトラックのリリースに寄せて

7/12、映画の公開に合わせてサウンドトラック(CD・ストリーミング)のリリースが決定しました。

元々はパンフレットに同封しようという計画でしたが、サントラを気に入っていただいた近浦監督・堀池プロデューサー、またGAGAさんの進言によりRambling RECORDSから単独でリリースする運びとなりました。ありがとうございます。

マスタリングは山食音の東岳志さん。尊敬するエンジニアであり、フィールドレコーディングの大先輩でもあります。依頼できて本当に良かったと思える仕上がりです。

サントラの発売に際して、近浦監督が寄せた文章がとても素敵(うれしかった)だったので掲載します。

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この世界と共鳴するために

「大いなる不在」という作品は、この企画を構想した2020年の暮れから2021年にかけての社会の景色に大きく影響されている。パンデミックの支配が始まった頃はその唐突な非日常性のインパクトに浮き足立つような感覚を覚えたが、1年も経つとその非日常の景色にも慣れ、「次は第何波だっけ」と受け入れる他ない現実に心が静まる日々だった。この物語の中心は、そもそも疎遠な関係であった父親が急な認知症を患い、残された手がかりをもとに主人公が迷路を彷徨い何かを見つけようとする旅路である。そこには彼の怒りがあるわけでもなく、父の変貌を嘆く悲しみがあるわけでもない。そんな主人公をカメラは追い、ある種のロードムービーの果てに人間の存在についての確かな手触りのようなものを掴めれば、と願った。
このような作品に寄り添う映画音楽はどのようなものであるべきか。糸山晃司氏とオンラインで何度か議論を重ねた。彼は脚本を読んだ段階でこの物語の核と、そこに流れるであろう空気を掴んでくれていた。撮影後、約15分程度のシーケンスごとに編集し、糸山氏に共有した。しばらくして彼から届いたメインテーマの候補はその時点で既にこの「大いなる不在」の顔つきをしていた。
当初から、登場人物の感情を代弁するような音楽にはしたくないことは共通の想いだった。かといって、対位法のような画との無関係さにより逆に感情を醸すやり方のあざとさも僕は好きではなかった。僕が音楽に求めていたのは、この物語世界を構成する全ての要素に文字通り溶け込み、ユニバース・デプスを深めることだった。だからこそ、あるシーンでは街の雑踏のノイズと共鳴してほしかったし、また別のシーンでは室内の不穏な静けさを指でなぞるように音楽が鳴ってほしかった。それらの全ての僕の要望に対して、音楽家である糸山晃司氏が返してくれた答えは僕の想像を軽々と超えるものだった。
そしてこの音楽たちが、35mmフィルムで撮影された画と精密にデザインされた映画音声とマージされた時、この映画はまさに誰しも記憶の隅にこびりついているであろうあの2020年から2021年の空気を纏うことになった。トロント国際映画祭、サン・セバスティアン国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での入選や受賞という栄誉に授かった大きな要因の一つがこの映画音楽だと思う。そして映画内の音楽だけにとどまらず、サウンドトラックCDとしてマスタリングされたこの音源に向き合うことができて非常に嬉しく思う。

監督 近浦啓
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映画「大いなる不在」は公開間近です。サントラも合わせて、ぜひ。

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