意識のハードプロブレムへの挑戦
前回、意識の賭けが25年の期限が来て決着した、という話をしました。
論点は、
意識の生成起源は解明できるか否か?
今回の結論は×でした。
否定的な立場をとったのが、前回にも触れた哲学者のデヴィッド・チャーマーズです。
今回の論点は、元々チャーマーズが提唱し、「意識のハードプロブレム」と呼ばれています。
上記Wikiをもとにもう少し丁寧に書くと、以下の通りです。
「物質および電気的・化学的反応の集合体である脳から、どのようにして主観的な意識体験というものが生まれるのか」
そして「ハード(Hard)」とあるからには「イージー(Easy)プロブレム」もあります。
こちらは単にどのように脳内で意識が処理されているのか、というものである程度fMRIで解明が進んでいます。
図で表現すると、下記の「機能的意識」がイージーで、それと現象的意識のつながりまでの解明が「ハード」だということです。
チャーマーズは、1994年にこの課題を提起しました。当時まだ28歳でしたが、それに対して大家含めた25名の科学者が回答し、その対話集は書籍としても出版されています。(あいにく未読・・・)
宇宙物理の研究で有名なロジャー・ペンローズも回答者の一人でした。
意外と思うかもしれませんが、彼は晩年に脳を物理学的に探究しようとしました。(現時点で継続しているかは不明)過去に紹介した記事を引用しておきます。
渦中のチャーマーズは、言いっぱなしにならないよう、上記回答への意見(いずれも納得せず)も述べ、自分なりの考えも一般向けに書籍で披露しています。
1996年(和訳本は2001年)に出版された「意識する心」(The Conscious Mind)です。
ざっくりその主旨を述べると、
統一的に語るには現行の物理学を拡張する必要がある
ということです。
具体的な方法論までは踏み込めていませんが、単に否定したいのではなく、現行の物理学との同型な原理的な仕組みがあるのでは、というある意味自然科学の可能性を信じた立場です。(精神物理法則と呼称)
その統一的に表現する最小単位として(物理でいえば質量や電荷など)、「情報(Information)」に目を付けました。
元々、同じように「情報が世界の最小単位である」と考えた科学者はおり、ブラックホール研究で有名な「ジョン・ホイーラー」もその一人です。
チャーマーズは、そういった先人の影響も受けて、物理世界だけでなく精神世界においても同じ「情報」という単位で世界を統一的に語れないか、という野心的な挑戦を行いました。
残念ながら、冒頭の賭けが示す通り現時点でもこのプロブレムは解決していません。
ただ、「意識」という以前はアンタッチャブルな領域に自然科学がその方法論でアプローチすることは、副産物も含めて意義があると思います。
この分野で最新研究の発表などがあれば紹介してみたいと思います。